『ガランティン古戦場 ①』


冒険者組合の建物に近づくごとに、ヒトの多さと慌ただしさが増していった。


組合からの人の出入りが、続いている。

たくさんのパーティが、招集され、出立しているようだった。


人混みをかき分けながら。

ヘレニウムとテッドが、建物に入ると。


「緊急依頼です。ガランティン古戦場のアンデッドの討伐、および周辺の街道へ続く経路の防衛をお願いしています!」


組合の係員を務める女性が、依頼書の束を手に、号外、もしくはビラ配りよろしく、冒険者たちに依頼への参加を呼びかけている。


「通してくれ! 急ぎなんだ」


テッドが声を張り、小柄なヘレニウムのために道を作る。

すると。

組合内の冒険者の一人が、真っ赤な神官に気づき。


上級神官アークビショップ様が、おいでになられたぜ! 道を開けてやんなぁ!」


言葉に反して、敬意も何もない。嘲笑混じりの半ばふざけた口調で、叫んだ。

「ホントだ。ずいぶん遅ぇ御出勤だねぇ」


日頃の良くない噂の所為か、バカにしたような連中の声から始まり、それでも、その存在感は波紋のように広がって。

周囲がざわつき始めた。


すると、人垣の奥からバタバタと誰かが走ってくる。


「ヘレニウム様ぁ‼」


黒っぽいプリーストの礼服に、ブルネットでボブカット風の少女だ。

アプリコットだった。

そして、受付の女性も気づいた。


「ヘレニウム様!」

テッドとヘレニウムが、受付までやってくると、急にまくし立てる。


「良かったです。グラッセに応援を求めても、現地の神官で十分対応出来る、と返されてしまいまして。……お待ちしていたんですよ」


「え? 首都の大聖堂が、応援を拒否したんですか?」

教会は、基本的に助けを求められたら応じるのが基本なのに。 

この手の話を大聖堂が断るなんて滅多に無いと、知っているヘレニウムは驚いた。


 

「はい。現地の上級神官アークビショップでどうにかなる、という旨の手紙が返ってきまして」


「見せて頂けますか?」


ヘレニウムがそう言うと、はい、と返事をして、受付の女性は机の引き出しから手紙を取り出して、見せた。


手紙は、枢機卿からだった。


ヘレニウムは内容を黙読する。


こまごまとした挨拶を割愛し、内容だけを読むとこうなる。


――エスカロープの地には、既に上級神官アークビショップが派遣されている。こちらとしてこれ以上の戦力は必要ないと判断し、応援要請への対処は行わない。現地の上級神官アークビショップには、『首都大聖堂教会は、神の代行者に相応しい清廉かつ、神聖で品位ある対処を望んでいる』、とお伝えいただきたい。

『どうか、一年前の君に戻ってほしい』と――。




そのようなことが書かれていた。


ビリッ


「あっ!?」


その手紙を、ヘレニウムは躊躇なく破いた。

特に理由は無い。


なんとなく気に入らなかったから破いただけだった。

なんてことを、と受付嬢とテッドは驚くけれど。




「……とりあえず、古戦場とやらのアンデッドを全滅させればいいのでしょ?」


「え、ええ、まぁ……」

と受付嬢。


「っていうけど。めっちゃ広いんだぜ? 殴って倒すだけじゃ意味ないし」

テッドも心配する。

そしてアプリコットも……。

「ヘレニウム様。なにかお考えがあるのですか?」


「いえ。とりあえず、打撃力なぐってから考えます」





――この脳筋……いや、脳槌めが!


と、思ったことが、危うく口から出そうになって、テッドは手で押さえた。


受付嬢も、苦笑するしかなく。


「とにかく、お願いしますね」


そう送り出され。


ヘレニウム、テッド、アプリコットの3人は、古戦場に赴くのだった。




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