⑧ ナゾの骨と甲羅を発見!?

 放課後、私たちは登校のときに相談をしたとおり、ネコを探すために物置近くの丘にむかった。

「このあたり、遠目で見ることはあったけど近づかなかったよね」

「野菜があるから遊ぶなっておこられちゃったからね。僕はあのおじいさん、苦手だなぁ」

「春につくしとかふきのとうが生えているのを見に来たんだっけ?」

「そう。僕はそこで畑仕事をしていたおじいさんにつかまっておこられたんだよ……」

 元々は山があって、そのふもとには段々畑が広がっていたんだと思う。

 それがはしっこからアパートに変わって、今は学校のグラウンドより少し広いくらいの畑が斜面にのこっていた。

 ただ、手を加えにくいところはそのままみたい。

 丘の一部には人の身長より高いくらいの岩がうまっているのが見えた。

 たぶん、岩を撤去できなかったから森ごとのこったんだね。

 ゾウみたいに大きな岩が頭をのぞかせている丘には、木が生えて森みたいになっていた。

 先を歩いていたリンちゃんは何かを見つけて走り出す。

「ほらほら、この草! このあたりだよね」

 砂利道の外側にはたくさん草が生えていて、丘をかこっている。

 リンちゃんが指さすところを確認したユートは「おお」と感心していた。

「たしかにチヂミザサとヌスビトハギっぽいな。本当によくおぼえているよ。もしかしてこのあたりで運動して草をくっつけたことでもあるのか?」

「ノンノン。ここから大通りに出て、川ぞいの歩道を走るのが車通り的に一番危なくないからランニングコースにしているだけ」

「……ふむ。じゃあ、あそこを登っているのは別のだれかだったか」

 リンちゃんが得意げに答える一方で、ユートはまったくちがうものを見ていた。

 私たちにもそれを伝えようと丘の斜面を指さしてくれる。

「あ、本当だ。大人サイズの靴あとがのこっているね?」

 私も目をこらしてみると、そういう足あとが見えた。

 ぼろぼろとくずれるほどの土質でもないし、なんとか上がっていけそう。

「ま、それはどうでもいいか。俺は俺でがんばるためにネコの行動範囲にいるはずのダニを見つけないと。とりあえずこのあたりからハンディモップで――」

「ユート、まずはネコ探しを優先しないと僕らがいる気配を警戒してお母さんネコが逃げちゃうかもよ。動かないダニはあとで探してもいいんじゃない?」

 ダニや植物採取用の道具を入れてきたカバンをごそごそとしていたユートにタクが呼びかける。

 するとユートはカバンを探る手を止めた。

「それも一理あるか。じゃあヒナ、母ネコがいそうな場所を予想できないか?」

「えっ!? それはさすがにむずかしいかも」

 むむむ、となやみながら周囲を見回す。

 野良ネコならなにもない畑で虫を追いかけたりしそうだけど、ひなたぼっこなら住宅地のほうを使いそう。

 じゃあ、子ネコといっしょならどうかな?

「テレビとかでも聞いたことがない話だからカンになるんだけど、畑は人が出入りするし、カラスがつつきにくるかもしれないから子どもを遊ばせるにはこわいよね? でもこの丘なら木がかくしてくれるから安心して遊ばせてあげられそうかなって思うよ」

 野ネズミや虫も多そうだし、狩りの練習もふくめてもってこいだと思う。

 できるだけカンタンに説明してみると、みんなはなっとくした様子だった。

「オッケー。ちょっとあたしがたしかめてくる!」

 お墓でイタズラするカラスを確認したときと同じく、リンちゃんは私の声が耳にはいるとすぐに斜面を登っていた。

 自然のアスレチックみたいに手ごろな角度だからうずうずしていたんだろうね。

 あいかわらず行動が早いなぁと三人で笑っていると、声が返ってきた。

「うん、これはナイスな空間。ネコは見えないけど、わりと広々としているよー!」

 探索をすませたリンちゃんはずんずんと歩いて戻ってきた。

「どうする? みんなで一応探してみるか?」

「遊んでいるあととかを見つければここにはりこんで探しやすくなるし、やっておくべきだと思うよ」

「なるほど。ネコをつかまえるって言っても、見つけて追いかけまわすんじゃなくって、なれてくれたところをつれて帰るくらいじゃないと大変だよな」

「うん。人嫌いなネコもいるし、エサとかをあげながらつかまえる機会を待った方がいいと思う」

 ユートと相談して決めると、話を聞いていたリンちゃんは手をさしのべてきた。

「じゃあ、ヒナちゃんは手を貸して。男子は落ちないように下でかまえていてよ」

「うわぁ!? 私、登れるかな……!?」

「あたしがしっかりつかむよ。ノープロブレム!」

 レスキュー隊員みたいなかっこうで手をのばしてくれるリンちゃんを信じ、私はその手をにぎる。

 だれかの足あとがあった丘の入り口はほんの一メートルくらいの斜面だった。

 ここさえぬければあとはふつうに歩いて登れる坂になってる。

 来たことがない場所だし、登った後は興味津々で見回してみた。

「そこの木に鳥の巣がある。こんな小さな森でも、鳥が住んでいるんだ?」

「おーい、俺たちが登れないから早く先に行ってくれよ!」

「あ、ごめん!」

 ほかの巣を探しているうちにユートとタクはすぐに追いついてきた。

「じゃあ早めに調べてしまおう。塾におくれたらおこられるしな」

「そうだよね。急ごっか」

「急かしちゃって悪い。ヒナはなにかを見ていたのか?」

「あ、うん。ほらあれ。ぼろぼろだけど、鳥の巣みたいだよね」

 あとにひかえている勉強にため息をついていたユートは私の視線を追ってきた。

 指をさした方向には枝から落ちかけた鳥の巣が見える。よく見るとここには同じような巣がいくつかあった。

「巣が大きめだし、お墓にいたハシブトカラスたちのすみかだったのかもね。そういえば夕方にこっちのほうに飛んで帰っていたかも」

「へえ、いろんなところに巣を作っているもんなんだな」

「もう住んではいなさそうだし、関係ない話だよね。先へ進もっか」

 私たちは早めに切り上げて、丘の森にはいっていった。

「おお。なんか遠足で見る森林公園みたいだな」

 進んでみると、ユートは目を丸くした。

 木と木の間隔は開いているし、地面には落ち葉がいっぱいで雑草も生えていない。

 ならんで歩けるくらいに広くて、小屋でもあれば秘密基地にでもしたい場所だった。

 やっぱり母ネコが子どもをつれてくるにはもってこいだと思う。

 そんな光景を前に、ユートはうでを組んだ。

「たしかにいい場所なんだけど、ここにはダニがいなさそうだな。やっぱりさっきの草むらとかがあやしいか」

「そうだね。あまり草は生えてないし……ん? なんだろう、あれ?」

 そうして見回していたとき、私は変なものを見つけた。

 落ち葉をよけて、たき火でもしたみたいな灰がのこっている。

 それに気づいたユートは灰に近づくと、何かをつまみ上げた。

「これ、ペットシーツとかタオルの燃えカスだよな。あとは煙草の吸いがらか。なんでこんなところに?」

「ほら、入り口にあった足あとの人だよ。畑のおじいさんがペットのごみを持ってきて、ここで燃やしたんじゃないの?」

「いや、ごみを燃やすのは畑のドラム缶でやっていたからそれはないと思う。それにさ、あのおじいさんが登るには斜面がきついし、こんな木とか落ち葉がある場所で燃やすなんて明らかに危ないだろ」

「火事になっちゃうもんね。言われてみればそうかも? こんな丘だし、リンちゃんみたいな冒険好きとかかな?」

「それもおかしいって。たき火ならともかく、ペットシーツなんて燃やさないだろ?」

「それはそうだね」

 なんだかおかしくなってきた。

 ネコとダニの追跡調査をしていたはずが、思わぬものが見つかり始めてる。

 日本にいるはずがないダニのまわりには、やっぱり変なところがいっぱいだ。

「ひゃあっ!?」

 ――なんて思っていたとき、リンちゃんの悲鳴が上がった。

 おどろいてそっちを見ると、タクの背中にかくれてわなわなと地面を指さしている。

「虫でもいたの?」

「ち、ちがうっ。骨! あと甲羅!」

 リンちゃんは野外活動でも虫を見ると叫ぶことは多かったけど、そのときよりも迫真の様子だった。

 その方向を見るタクも言葉を失っているし、これは本当に大ごとなのかもしれない。

 私とユートもそれをたしかめに行く。

「本当になにかの頭の骨だな。……あとはカメの甲羅か」

 ユートは赤茶色と黒色が混じる甲羅をひろいあげる。

 中身は空洞だった。

 引っこんでいるはずのカメは影も形もなくて、かたい甲羅だけがここにある。

 それを見たユートは首をひねった。

「カメってさ、サナギみたいに甲羅を脱皮するもんだっけ?」

 そんなことはありえないから、私は首をぶんぶんと横にふる。

「あれはろっ骨が進化したもので、体とくっついているから絶対にムリ! それにこの甲羅、イシガメでもクサガメでもミドリガメでもない。ふつうは見ない種類だよ!?」

「そっか。じゃあ、この頭がい骨は?」

 小学校にも人体模型があるし、動物の骨格標本くらいなら博物館で見たこともある。

 ユートはこわがりもせずに頭がい骨も手に取った。

「これも明らかにカメって感じじゃないよなぁ。まず、明らかに甲羅にはいらないし」

「うん。歯もあるからハ虫類じゃないね。なにかはわからないけど、ほ乳類なのはたしかだと思うよ。するどい犬歯まであるし、ウサギみたいな草食動物でもない。うーん、野生のタヌキとかそういうのかな……?」

 いくら動物好きでも、さすがに骨の形までは知らない。

 ただ、野生動物の骨に加えてカメの甲羅までいっしょに落ちていたり、ペットシーツを燃やした灰まで近くにあるのは不自然なことだと思う。

「日本にいないはずのダニ。森で燃やされたペットシーツ。動物の骨と見なれないカメの甲羅。これ、事件のにおいがするな……」

「え。えぇ、事件って……」

 刑事みたいな顔をしてあごをもむユート。

 すごくふんいきがあるつぶやきだけど、私はそうだねとは言えなかった。

 言っていることはよくわかる。

 私も本心では同じことを考えちゃっていた。

 でも、そんな重大なことが身近なところで起きるなんてありえないって気持ちのほうが大きいんだと思う。

 そんなとき、タクは「二人とも、こっちを見て」と声をかけてきた。

「もしかしたらユートが言うこともまちがいじゃないかもね。ほら、あそこのくぼみを見てよ」

 そこには穴でもあるみたい。

 土と落ち葉が雑にかぶされていたんだけど、なぜか少しだけほり返されていた。

 たぶん、骨とかはそこにうまっていたんだと思う。

 引っぱりだされたみたいに半分うまった状態の骨のほかにも、ペットシーツの燃えカスが混じっていた。

「動物の骨と燃えカスまでうまっているのか。ここがタヌキの巣で、カメをつかまえて食べていたって線も消えそうだな。これは本当になにかおかしなことをしている現場じゃないか?」

 ユートは頭がい骨と甲羅を地面に置くと、たき火のあとや穴、骨などをかわるがわる見る。

 ここまでくると私もちがうとは言えなくなった。

「穴にうめていたってことはかくそうとしたっぽいもんね。火事になりそうだけど、人に見つからずにシーツとタオルを燃やす方が重要だったのかも……。ユートが保護したネコもそんなところのそばで変なダニにつかれたっぽいし、ぐうぜんではなさそう」

「……やっぱり、俺が保護したネコはヒョウの子どもで、ここでは海外の動物の闇取引でもしていたんじゃないのか?」

「それは考えすぎだよ。でもこのカメは見たことがないし、輸入された動物ってことはあるかも。たとえば悪いペットショップの人が、死んじゃった子とかごみをここにかくそうとしたっていうのが一番ありそうな気がする」

 警察みたいに調べていないからどうとも言えない。

 私とユートはそれぞれむずかしい顔で考えこんでいた。

 ユートだけが考えすぎなんて言えなかったかもしれない。

 タクは私たち二人の様子をまさかと信じられなさそうに見つめてくる。

「そ、そんな密輸みたいなことってあるかなぁ……?」

「なくはないと思うよ。めずらしいサンショウウオをつかまえてネットで売り買いしたり、カワウソみたいに人気な海外の動物をペットカフェなんかに売っちゃう話は密輸動物の特集で言っていたかな。でもね、眠らせた赤ちゃんをバッグにぎゅうぎゅうづめにして運ぶから、途中で死んじゃうことも少なくないんだって」

「ここはその処分現場かもしれないのか。どちらにせよ、こうしてかくしているからにはやましいところがありそうだよな」

 ユートは腕を組んで考えこんでいた。

 頭のいいユートなら、なにか名案がうかぶかもって期待しちゃう。

 ――そう。

 少なくとも、私たちはふつうではないものを見つけてしまったんだ。

 そんな結論が見え始めたとき、ざくざくと落ち葉をふむ音が聞こえてきた。

 たぶん、私たちがやってきた方向からだれかが近づいてきている。

「おい、ガキども! ここでなにやってる!?」

 私たちがふりむくのと、あらっぽい声が上がるのは同時だった。

 肩をはった歩き方に、つり上がった目。

 首にはごてごてとしたクサリみたいなネックレスをして、手には黒くて大きなごみ袋を持った男の人だった。

 学生の不良よりずっとトゲトゲしいふんいきに、私たちはこおりついた。

「ここは畑の一部。オレの家の私有地だ! さっさと出てけ!」

「ごっ、ごめんなさい!」

 いきなり乱暴をされないだけよかったかもしれない。

 だれともなく叫んで返すと、私たちはすぐさま立ち去ろうとする。

「きゃっ!?」

 そんなあわてた行動が裏目に出て、どさりとたおれた音がした。

 この声はリンちゃんだ。

 地面に手をついたときにひねっちゃったのか、右うでを押さえて前かがみになっている。

 すぐに立ち上がって追いかけてきたけど、そんな背中にも男の人はにらみをむけてくるだけだった。

 心配を一切しないなんて、本当に冷たい。

「リ、リンちゃん、大丈夫……!?」

「平気だよ。それより早くはなれよう」

「あ、うん……?」

 うでを心配してよりそったんだけど、リンちゃんは痛みをガマンした感じじゃなかった。

 そのまま男の人の視界の外に出ると、うでをかばって前かがみになるのもやめて、いつもみたいに身軽に斜面を飛び下りちゃった。

 私が斜面を下るのをむしろ待ってくれたくらいで、男の人が追ってこないかうしろを見はってくれてもいる。

 なにより気になったのは、かばっていたうでに持っているもの。

 それはユートが地面に置いたはずの頭がい骨と甲羅だった。

「みんな、カモン! この車、見なれないよね。さっきの男の人が乗ってきた車じゃない?」

「エンジンの熱もまだのこっているようだし、たしかにそれっぽい。でも急にどうしたんだ? 骨と甲羅までかくして持ってきているし」

「はっ、そうだった!? ユート、あげる!」

 リンちゃんは言われて思いだしたように骨と甲羅をユートにあずけた。

 いやがるように手をふったあと、深呼吸で気を取り直して話を再開してくれる。

「いやさ、畑のおじいちゃんとはたまに話すんだけど、一人娘に野菜を送るために続けているんだって言っていたんだよね。あの男の人、『オレの家の私有地』なんて明らかにウソをついているんだもん。あのごみ袋だって、今まさにすてに来たんじゃないかな」

「ペットシーツとか骨を丘にかくした犯人ってことか」

 ユートがつぶやくと、リンちゃんは深くうなずく。

 あのときはいかにも事件のにおいがしていた。

 つまり、リンちゃんはとっさにこけたふりをして証拠品を持ってきたわけだ。

「私も、わかったことがあるよ」

 まだ少しうたがった様子の二人に私は声をかける。

 思いだすと少しふるえてしまうけど、これは伝えておかなきゃいけない。

「『ドリトル先生の目』であの人の色を見たんだけどね、おこっていなかったよ。あれは不安とかあせりの色だった」

 単におこっていただけのほうがまだよかったかもしれない。

 そんな気持ちでつぶやく。

「土地の持ち主だったらおこりそうだけど、悪事をかくしている犯人なら不安とかあせりを持つよな。ヒナはそう思うってことか?」

「た、たぶん……」

 私の意見を整理してくれたユートにうなずきを返す。

 さあて、それならどうしよう?

 今さらあの場所の近くでネコやダニを探すわけにはいかないし、私たちは顔をつきあわせた。

「昨日の今日だけど、警察に話してみるとか?」

 ユートはあずけられた骨と甲羅を見ながら首をかしげる。

 たしかにそれができれば心強いと思う。

 でも、むずかしいかもしれない。

「この骨と甲羅がふつうは取り引きをしちゃいけない動物って一目でわかればいいけど、まじめにつきあってくれる大人がいるかは不安だよ。動物とか植物ってその道の人じゃないと大切さがわからなくて放置されがちって印象だもん」

「――なるほど。それならこいつの正体がわかれば警察に全部の流れを説明できそうだな」

 ユートが言うこいつっていうのはもちろん骨と甲羅だった。

 一体どういうことだろう。

 私たちにはその理由がよくつかめない。

「え? 全部の流れってどこまで?」

「俺たちがあいつから聞いたウソとか、ヒナの目のことは警察に伝えたってオオカミ少年みたいに思われかねない。でも、それがなくたって説明できる。まだ確証はないけど、あの人はペットショップとは関係ない。あるとしたら密輸業者の手先だ」

「ええっ!?」

 推理をひろうする探偵みたいで、私たちはそろっておどろきの声を上げてしまう。

 服装とか行動もふくめてペットショップの人とは思えないこわさだったのはたしかだけど、密輸につなげるのは強引すぎる気がする。

 でも、ユートは本気の様子だった。

「真田先生も輸入動物の健康をチェックする空港の獣医さんがいるって言っていただろ。動物といっしょに海外のこわい病気を持ちこまないようにチェックしているんだよ。ネコのノミ退治をしてもらったようにノミダニ対策の薬だってあるのに、一週間もかけて血を吸って指先くらいまで大きくなるダニを見逃すなんてありえないだろ?」

「あ、うん。子ネコのノミにもすぐに気がついたし、見逃しにくそうではあるよね」

 私としてはこの説得力より、ユートが昨日の間に真田先生から聞いたことを調べ直していたことがおどろきだった。

 ネコのことを考えながらも、将来の夢にむけての努力もわすれていないんだね。

 ユートはできることをできるだけやろうとする。

 そこには素直に尊敬しちゃう。

「だけど、ヒナが言ったみたいに動物の赤ちゃんを無理につめこんで、足がつかないうちに売りさばく密輸はちがう。その死体とか飼育中に出たごみをここにかくしていたら近くの草むらにダニが逃げて、俺たちが保護したネコについた。海外のダニも、あの骨や甲羅もそう考えたらつながるだろ? 単にペットショップ店員が不法投棄しているだけなら、日本にいないダニをここにつれてきた犯人探しが必要になるはずだ」

「そ、そっか。二つの事件がぐうぜんここで起きるなんてほうが不自然……?」

「そういうこと。ヒナでも見たことがないこの甲羅とかが密輸動物だったとして、本来の生息地と見つけたダニの生息地があえば確信に近づくと思う」

これだけ言われてみると、はじめは信じられなかったユートの予想に真実味が出てきた。

 かめばかむほど味が出る料理みたいにユートの深い考えが伝わって、私たちはただただ目を丸くするばかりだった。

 これで終わりじゃない。

 まだなにかがあるのか、ユートは「それにさ」と口にする。

「たしかにそうそう起こるとは思えない事件なんだけど、警察みたいに危険をおかして犯人を逮捕するわけじゃない。骨と甲羅の正体を調べて、車のナンバーといっしょに警察に伝えれば問題解決だ。ひどいあつかいを受けている動物を助けられるかもしれないし、ネコの兄弟を飼う条件もクリア。やらない手はないよな」

「うわっ。ユートってば天才!?」

 危なくないうえ、この骨と甲羅の正体を知るだけで本当に全部が解決しそうだった。

 すごい。天才。さえてると、私たちは口々にユートをほめちぎる。

「まあまあ。とにかく、ナンバーの写真をとってにげよう」

 ああ、いけないいけない。

 興奮しちゃったけど、こわい人がすぐ近くにいるままだった。

 いつものごとくタクが率先して記録をのこしてくれたので、私たちは背後を気にしながら遠ざかる。

 通りをいくつか過ぎて公園までやってきたし、他に人もいるからもう安心だね。

 ユートは電柱みたいに立つ大時計に視線をむける。

「俺はもうそろそろ塾の時間だ。リンもそろそろ体操の時間だよな?」

「そだねー。そろそろ準備しないとおくれちゃうかも」

 骨と甲羅の正体をあばきたいのにと二人はまゆをよせている。

 でも、いそがしいなら仕方ないよね。

 となると、早く調査を進めるにはどうしよう? 私とタクは目があった。

「私たちで調べておこっか」

「うん。手が空いていることだし、ちょうどいいと思う」

「たのむ……」

 塾がイヤでうなだれたユートからダニ探しの道具がつまったカバンをわたされる。

 人目があるところで動物のガイコツなんてだしたらさわぎになっちゃうもんね。

 私はリレーのバトンみたいにしっかりと受け取った。

「ところで、どうやって調べたらいいと思う? 草の正体みたいにタクのアプリで検索できるかな?」

「うーん、あれは植物図鑑なんだよね。バードウォッチング用の鳥図鑑ならあるかもしれないけど、ガイコツ図鑑とか甲羅図鑑なんて聞いたこともないし、むずかしいかもだよ」

「私も動物は好きだけど、骨とかカメはよくわかんないなぁ」

 全部の問題を解決するキーアイテムなだけに情報を調べるのもカンタンじゃない。

 私とタクがうなっていたところ、ユートはサイフからしおりみたいなものを取りだした。

「そのあたりはプロをたよればいいんだよ。俺も去年、ダニ探しのときにいろいろ助言をもらったところがある」

 それは建物の絵と、はしっこになにかを切りはなしたあとがある紙――博物館の入場券だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る