ヒトらしく

 一条燈里がツカツカと足早に傍まで来ると、腕を組んで俺の進路を塞いだ。意外と身長が高く、165cm位はありそうだ。


「初めまして、宮内君。私は一条公爵家長女、一条燈里と申します。これからお時間あるかしら?」


 新入生代表、入学前時点で最も魔力マナの総量が高く、現時点でも学年順位一位であろう燈里に名前を覚えられているのが不思議であったが、公爵家の長女と名乗ったので瞬時に結論を導き出せた。


(俺が緑の女神様の使者だと把握済みか。断っても無意味だな)


 わざわざ公爵家の人間が平民相手に自ら名乗ったりせず、別クラスまで足を運んだりしない。相手が女神の使者だと知った上で接触を図ってきたのだと結論付け、返答は決まった。


「ありますけど、何か?」


「外で車を待たせてるから、付き合ってくれる?」


「はい、付き合わせて頂きます」


「…………黎人と何処に行くの?」


 事情を知らない麗奈が燈里の隣に立ち、燈里を見上げていた。燈里は麗奈が俺を下の名前で呼んでいるのに若干の驚きの色があったが、我に返ると言葉を返す。


「宮本様には関係ありませんわ。行きましょう、宮内君」


「という事らしいから、俺は一条に付き合うよ。またな、麗奈」


「……うん、またね……」


 麗奈は小さく手を振り、俺も手を振り返して燈里に連れられて廊下に出る。廊下の生徒達も燈里を前に口を閉じたが、その後ろを歩く俺は誰なのかと首を傾げた。

 廊下の教室側に沿ってロッカーが並んでおり、39番のロッカー前で止まった。


「教科書とIMGSアイマギスをロッカーに預けてもいいですか?」


「ええ、いいわよ」


 ロッカーに配布された教科書とIMGSアイマギスを預け、無属性下級魔法の難施錠ロックで鍵を掛けた。

 エレベーターで一階に降り、駐車場側の出入口から外に出る。白塗りの長い車体が特徴的な車、通称リムジンが待ち、執事らしき初老の男性が後部座席のドアを開けて乗車を促した。


「執事の冨田ふじたと申します。ご遠慮なさらずにご乗車下さい、宮内


 燈里の後からリムジンに乗り、向かい合って座席に座る。冨田が微笑んで飲み物を差し出してきたが、首を振って断った。

 コホンと燈里が咳払いすると冨田が頭を下げ、居住まいを正した燈里が口を開く。


「改めまして、緑の女神様の使者。私の名前は一条燈里と申します、以後お見知りおき下さい。燈里とお呼びして頂けると嬉しいです」


「どうも、燈里さん。俺は緑の女神様の使者だが先代の使者みたいに功績がある訳でもないし、平民なんだから普通に接して欲しい」


「そう、それなら普段の話し方で接するわ。貴方も普段通りでいいわよ」


(これまで猫を被っていたのか、貴族社会は大変だな)


 燈里は足を組んで飲み物に手を伸ばし、グラスに注がれた果実水を飲む。今年で十六歳なのかと疑えるくらいに大人の色香を漂わせ、目の毒なので視線を逸らした。


「一体どうやって俺の正体を掴んだ?」


「ご想像にお任せするわ」


(うーん、華蓮さん経由ではないのか?)


 華蓮から事情を聞いた一人なのかと思いきや、燈里の言動から推測するに別ルートの可能性が高い。

 燈里は残りの果実水を飲み干すと冨田が差し出すトレーにグラスを置き、前のめりになって真剣な面持ちで用件を話す。


「私は玉座を狙う。私と婚約を結びなさい、宮内黎人」


「好きでもない、ましてや素性の知れない相手でも、玉座の為なら婚約すると?」


「ええ、勿論」


 立太子の条件が使者との婚約で、俺を逃せば燈里は立太子の条件を満たせなくなる。貴族は望まぬ相手とも結婚するのが義務であると小説や漫画でよく見かけるが、俺は貴族でなければ結婚願望も無い。

 何よりも俺の目標は玉座ではなく、俺らしく生きる道を探すと決めている。婚約は足枷にしかならず、そんなのお断りである。


「俺には婚約の意思がない、結婚は人生の墓場とも言われているのでね」


「私と婚約すればお金の心配はないし、理不尽な目に遭わなくなる。貴方にとっては良いこと尽くめでしょう?」


「そのお金は君が稼いだお金か? 婚約して使者だと明かせば立場がひっくり返るだろうが、肩書きだけで人の上に立てるなんて馬鹿げてると思わないか?」


「……ふん」


 貴族の収入源、燈里の懐事情について詳しくないが、燈里は機嫌が悪そうにそっぽを向いた。

 俺はお金に執着があるかと言えば、最低限の生活に困らない収入さえあればいいタイプだ。豪遊したいだとか、高級車を乗り回したいだとか、タワーマンションに住みたいだとか、そんな欲望を抱いた経験がない。

 緑の女神の使者であれど、そんなの肩書きに過ぎない。何も功績を残しておらず、これから先も功績を残せる保証が無いのに、使者に期待を寄せすぎである。

 理由も聞かずに婚約を断るのも大人気ないので、一先ず理由について尋ねた。


「せめて玉座を狙う理由を教えてくれ、話はそれからだ」


「無論よ、うちで話すわ。婚約の返事はそれからで構わない」


「もしも断られたら、どうするつもりだ?」


「その時は……別の道を探すわ」


 燈里が足を組み直して頬杖をつき、車窓の外を眺めた。お互いに閉口したまま数分が過ぎ、3メートル程度の高さはあろう壁で囲まれた邸宅に到着した。

 周囲の屋敷よりも一回り大きく、噴水と庭園がある庭の広さは倍以上。公爵家なだけあって良い家に住んでおり、使用人達が整列し頭を下げていた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


「お出迎えご苦労様」


 燈里は慣れているのか、平然と頭を下げる使用人達の間を通って邸宅に向かう。俺も続くが、使用人達は頭を上げなかった。


(頭に耳が生えた……もしかして小説等で登場する亜人? 魔族が存在するから、亜人が存在するのも普通か)


 使用人達の頭部には犬や猫、兎や熊といった様々な動物の耳が生えており、このような形で目の当たりにするとは予想外だ。

 あまりジロジロ見るのも失礼かと思い、巨大な邸宅を見上げる。


「豪華な邸宅だな、息が詰まりそうだけど」


「ここは別邸、私が千魔高に通う為にお父様が用意して下さったの。本邸は船橋市にあるわ」


「マジかよ……」


 どうやらこの邸宅は娘の為だけに用意されたらしく、住んでいる世界が違う。邸宅の隣にも小ぢんまりとした別邸があり、使用人の宿舎だろうか。

 燈里に付いて行くと応接間に着き、高級そうなソファーに座らされた。天井からシャンデリアがぶら下がり、豪奢な調度品が飾られ、迂闊に触って壊そうものならとんでもない額を請求されそうだ。


「貴方は……亜人について、何とも思わないの?」


 燈里がフカフカなソファーに腰を下ろすなり、突拍子もない疑問を投げてきた。


「空想上の人類である亜人を初めて見た程度の感想だが、何故?」


「…………」


 燈里は腕を組んで口を噤み、彼女が沈黙している間に亜人ではないメイド服姿の女性が入室し、ソファーの前のテーブルに配膳を行う。濃い青紫色の長髪でも目を引くが、両目を呪文らしき文字が書かれた包帯でぐるぐる巻きにしているにも関わらず、手元を狂わせずに紅茶を淹れ、切り分けられたケーキを運ぶ。

 女性が配膳を終えると、一度お辞儀してから燈里の後方に下がった。使用人であれば部屋から出て行くと思われるので、燈里専属の従者なのだろう。


「貴方だからこそ、私が玉座を狙う理由を話しましょう。しずく、彼なら問題ないでしょう?」


「お嬢様のご判断にお任せします」


 燈里が従者である雫に同意を求めるが、雫は燈里に判断を任せた。長い主従関係にあるらしく、互いに信頼し合っているのが見て取れる。

 コホンと咳払いをひとつ、燈里の口から玉座を狙う理由が語られた。


「大和において、亜人は人権が与えられない。平民よりも下の身分として不当に扱われ、住居は亜人管理区域に限定されて四六時中監視が付き、まともな職にも就けない。奴隷として隷属させられた歴史もあり、彼等は常に理不尽に晒されて生きてきた。時には治療を拒まれて見殺しにされ、時には冤罪を掛けられて処刑される……」


「亜人が玉座とどのような関係が?」


「私は王となり、亜人に人権を与える。姿形に多少の差があろうとも、能力に差があろうとも、それは個性なのよ。彼等は人間、人類の仲間。そんな彼等を人間が支配するなんて、これでは魔族と同格じゃない!」


 拳を握り締め、噴出した紅い魔力マナで髪を揺めかせる。魔族が行った過去の出来事を人間も繰り返す怒り、悲しみ、失望。複数の感情と想いが入り交じり、魔力マナと成って漏れ出したのだ。

 ヒトとしての誇りを忘れずに高潔であった、優しさと慈しみに溢れていた。悪しき行いを許せず、亜人の特徴を個性だと認める器の広さがあった。

 望まぬ婚約であろうと理想の為ならば、己を犠牲にしてでも玉座を狙う。そんな彼女に打ちのめされ、なんて俺は愚か者なのだと悔い改める。


「―――ごめんなさい、俺は燈里さんを誤解していた」


 だからこそ最初に謝罪の言葉を送り、深く深く頭を下げた。己の私利私欲から玉座を狙っているのだと疑っていたが、酷い誤りだった。

 けれども燈里は「待って」と、俺の謝罪を遮った。


「亜人の人権だけでなく、もう一つ理由がある。雫、シンシアを呼んで来なさい」


「かしこまりました、お嬢様」


(シンシア? 何処かで聞いたことがあるような、無いような)


 雫が頭を下げて応接間から出て行き、シンシアという名の人物を呼びに向かう。何処かで聞き覚えがある名前だが、思い出せない。

 数分程で雫が同年代らしき少女を連れ、戻って来た。

 腰まで伸びたプラチナブロンドの髪、青く透き通った瞳。非の打ち所がない整った容姿と純白のワンピースが相まって、清廉潔白な少女という心象だ。

 少女は俺の視線から逃れるように顔を逸らし、何もしていないのに後ろめたい気持ちに襲われる。


「お嬢様、シンシア様をお連れしました」


「彼女は……?」


「シンシア・ヤーニング、近衛恭一の元婚約者よ」


「燈里ちゃん、正式に婚約を破棄されていないから、私はまだ婚約者なのだけど……」


「シンシアのお祖母様も私達の味方なのよ? 近衛恭一と久世美波、シンシアの母親がゴネようと、絶対に婚約を破棄させる」


(近衛恭一と久世美波……現国王の息子と青の女神様の使者か、テレビで観たっけな。何だか雲行きが怪しくなってきたぞ、婚約騒動に巻き込まれたくないんだが?)


 燈里が我が事のように憤り、反対にシンシアは俯いて黙ってしまう。対象的な二人の反応に困惑するしかなく、紅茶で乾いた舌を湿らせる。


「シンシアさんの婚約は燈里さんと無関係では?」


「近衛恭一とシンシアの母親の強い希望により、半ば強引に婚約を結んだ。久世美波が現れてみればシンシアを第二夫人とし、全ての執務を押し付けようと企んだ。外面が良いから誰も知らないけど、アイツは平気で人を利用し、自分さえ良ければいいと思ってるクソ野郎なのよ。そんな奴とシンシアを結ばせるものか! 玉座に座らせるものか!」


「お嬢様、言葉遣いにお気を付け下さいませ」


(近衛恭一と久世美波どころか、母親まで向こうの味方なのか。自分さえ良ければいいと思う輩に人々の上に立って欲しくないが……)


 雫が憤慨する燈里を諌め、シンシアは困り果てる。生来の心優しき人間なのか、はたまた自分さえ我慢すれば上手くまとまると考えているのか、シンシアの真意が読み取れない。

 シンシアを第二夫人に降格させ、青の女神の使者という理由で久世美波を正妻に置く。玉座を目指すとなれば致し方がないと皆が口を揃えるのだろうが、燈里の色眼鏡を抜きに近衛恭一に対するイメージは最悪である。

 シンシアの真意を聞こうと、彼女を見据えた。


「シンシアさんは近衛恭一を愛していますか?」


「何言ってるのよ、あんな奴にシンシアは―――」


 燈里を手で制し、シンシアの言葉を待つ。

 第三者視点として、燈里に振り回されているように映らなくもない。シンシアは近衛恭一との関係を続けたいのか、本人の意思を明確にするべく話してもらう必要がある。


「―――私は、どうしたらいいのでしょうか。お母様の期待に応えるべく恭一様と婚約を結びましたが、いざ久世美波様が青の女神様の使者だと判明すると、私は彼女の支えになれと言われました。貴族は政略結婚、血を取り入れ結束を固める目的での結婚が多く、私もそのつもりで嫁ぐ予定だったの、ですが……」


 次第に声が震え、俯いて涙を溢れさせるシンシア。子供ながらに両家の関係、将来を思案し婚約を受け入れたが、久世美波によって当初の予定とは異なる道を歩む羽目になった。

 近衛恭一と結ばれて幸せになれたのか、その点は定かではない。数々の困難と不安が控えた婚約であるのは相違ないが、少なくとも婚約者と後から現れた女の夫婦生活を間近で拝み、面倒事を押し付けられる不幸な道には転がり落ちなかったであろう。

 燈里が動くよりも先にシンシアの傍に歩み寄り、頬を伝う涙を手の甲で拭う。


「誰かに不幸を押し付け、何食わぬ顔で幸せを謳歌する。そんな輩が玉座に座るのは見過ごせないし、国を背負える器ではない」


 自分達さえ良ければいいと人々から幸せを奪い、国が疲弊する未来しか視えない。近衛恭一と久世美波が玉座に座る確率を下げるには燈里と婚約し、願わくば燈里を玉座に据えるのが理想的だろう。


「だが……好きでもない、碌に知らない相手と婚約したいとは思わない。これは燈里さんに不満や文句があるからではなく、俺に資格がないからだ」


 俺みたいに自分の事しか視えていない、束縛を嫌うような人間は形式上であれど、誰かと婚約関係になる資格がない。相手に不幸を与え、迷惑を掛けるだけだ。

 結婚し、子供が生まれようものなら大惨事。親ガチャと言われる時代において、ハズレ枠でしかない。


「それなら契約婚はどうかしら? 私が玉座に座るか、或いは近衛恭一と久世美波以外が玉座に座るまでの期間限定の婚約よ」


「それもダメだ、燈里さんの経歴に傷が付く」


「アレもダメ、コレもダメ。貴方の我が儘に付き合ってられないのだけど?」


 玉座に座った暁には離婚など、悪印象しか持たれない。使者を利用した悪女として、後世に名を残してしまう。

 俺の煮え切らない態度に腹が立ってきたのか、燈里が詰め寄ってきた。大の大人でも泣いて逃げ出しそうな剣幕で睨みつけられるが、尻込みせずに正面から睨み合う。

 俺なりの回答を聞かせようとしたところで、俺と燈里を遮るように宙からフワリと華蓮が舞い降りた。


「か、華蓮様!?」


「燈里ちゃん、落ち着きなさい。貴女の都合に黎人が付き合う義理は無いのだから、協力を頼むのなら黎人の要求にも耳を傾けなさい」


 華蓮が驚いて固まった燈里の額を指で押すと、腰が抜けたみたいにその場に座り込んだ。一方的に婚約を要求しているのを自覚したのか、燈里はばつが悪そうに頭を下げた。


「ごめんなさい、私の事ばかりで頭がいっぱいだった。婚約しようものなら、貴方にも迷惑が掛かるものね」


「燈里さんは何も悪くない。ただ―――そう、お互いを識る時間が欲しい。相手を見極めた上で婚約を決めても、遅くないと思うんだ」


「―――そうね、焦りは禁物よね」


 立ち上がらせようと手を差し出すと、燈里は逡巡してから俺の手を支えに起き上がった。

 燈里は公爵家の長女、容姿端麗でヒトとしての格が高く、魔法使いとしての実力もこの先まだまだ伸びるであろう。多くの男性から求婚されるだけの価値があり、対して俺は緑の女神の使者という肩書きのみ。

 あまりにも不釣り合いで、俺がどのような人間かを見極めてもらう。きっと婚約する資格がないと、バッサリと切り捨てられるだろう。

 雫を除いた面々がソファーに腰を下ろし、華蓮がケーキスタンドからショートケーキを皿に移し、モグモグと咀嚼する。俺も華蓮の隣で飲みかけの紅茶を飲み干してソーサーに置くと、雫がシンシアと華蓮の紅茶を淹れるついでに俺の分も注いでくれた。


「黎人、教会で緑の女神様の使者だと認定を貰い、燈里ちゃんと付き合いなさい」


「教会から認定されずとも燈里さんと一緒に行動していれば、緑の女神様の使者だとバレバレじゃないですか……」


「雫ちゃんが持つ魔眼みたいに、遅かれ早かれ露呈してしまう。それなら問題を先延ばしにせず、緑の女神様の使者だと認定させてしまった方が楽じゃない」


(俺が緑の女神様の使者だとバレたのは魔眼によるものだったのか。隠しても無駄みたいだし、早めに認定してもらった方がいいのかも知れない)


 責める気もなく何となしに雫を見つめると、雫が深々と頭を下げてから両目を隠していた包帯を外した。包帯の下から紫色の瞳に六芒星の魔法陣が描かれた魔眼を覗かせ、これが魔眼かと興味が湧いて見入ってしまった。


「無断で覗いてしまい申し訳ございません、宮内黎人様。私は真瞳家の遠い血筋でして、この魔眼は人の詳細を覗き見る力を持ちます。お嬢様様の命令により早朝から正門前に張り込み、登校するご子息とご息女を一人一人視たところ、緑の女神様の使者である宮内黎人様を発見しました」


「主人の命令には逆らえないから、雫さんは気にしなくていい。こうして露呈するのだと、身を以て知れただけ十分ですよ」


「私はお嬢様の従者に過ぎません、敬語は不要です」


 人の詳細を覗き見る魔眼どころか、魔眼が実在するだなんて予想できない。どう足掻いても緑の女神の使者だと露呈するのは時間の問題で、約一ヶ月も隠し通せたのは精霊の森で修行に明け暮れたお陰である。

 今後もずっと精霊の森に隠れ潜むのは不可能であり、華蓮の提案を飲むしかない。


「認定を受けるのなら中央区の教会に行きなさい。燈里ちゃん、お願いできる?」


「はい、お任せ下さい。シンシアはどうする?」


「えっと……認定式に立ち会える機会を頂けるのなら、私も同行したいです。よろしいでしょうか?」


「関係者以外も立ち会えるのなら、折角の機会なのでどうぞ。まぁ、認定式で何を行うのか知りませんがね」


「大司祭以上の階級を持つ教会の方と共に黎人が祈りを捧げれば、緑の女神様と接触できる。接触できれば正式に緑の女神様の使者と認定されるわ」


「緑の女神様が応えてくれるのなら、すぐに終わりそうですね。ちゃちゃっと終わらせますか」


「私は用事があるから、また後でね」


「表に車を回しますので、お待ち下さい」


 華蓮がケーキを食べ終えると空気に溶けるように掻き消え、俺達は応接間から廊下を歩いて玄関から庭に出た。雫が運転するリムジンがやって来ると、冨田が後部座席のドアを開けてくれる。


「中央区の教会で宮内君の認定式を済ませてくる。冨田、私が留守の間は任せたわよ」


「かしこまりました、お嬢様。どうかお気を付けていってらっしゃいませ」


 リムジンに乗車し、お辞儀をした冨田に見送られて中央区にある教会に向けて発車した。

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