刺客―1

 華蓮宅で世話になり始めてから一週間が経過し、今日も今日とて修行に励む。


「はっ、はっ、はっ、はっ」


 平坦な地面を強く蹴り、木々の合間を縫って疾走。丹田では氣とエーテルを練り上げ、丹田の鍛錬と体力作りを同時並行で行う。

 当初は歩きながら体内の氣を感じ取れず、思考の大半を割かないと知覚すらできなかった。氣を感じながら腕と足を動かす所から始め、やっと練りながら走れるようになった。

 思考の三割を氣の練り上げに割き、残りの七割で活動。まだまだ思考の分割と意識の刷り込みが甘く、この割合が限界だ。


(この身を縛る鎖は無く、羽毛の如く軽い体は天翔る―――)


 華蓮宅前まで一周して戻って来ると、休む間もなく精霊樹の枝に跳び乗り、枝から枝へと飛び移る。枝の太さで使い方を瞬時に判断し、細く靱やかな枝は手を引っ掛けるのに留め、太い枝は足場や膝を引っ掛けるのに使う。

 樹木渡りは場面に適した肉体の使い方を徹底的に叩き込み、三半規管のトレーニングにもなる。ただ遊んでいるだけのように見えて、効果的な修行法であった。

 走り込みと樹木渡りを一回ずつで一セットとし、一セット毎に休憩を挟み、五セットやるように言われている。これで最後の周回となり、ラストスパートとばかりに縦横無尽に移動していると、視界の端で人影を捉えた。

 両膝を枝に引っ掛けて身体を回転させ、枝の上に立つと人影に目を凝らす。


(黒いローブを羽織ってるから顔は見えないが、精霊術師だよな? 何の用で精霊の森に来たんだ?)


 人影の正体は黒いローブのフードを目深に被り、不審な動きの精霊術師だった。その動作は何かを探すように見受けられ、不意に視線が交わった。


「火の精霊よ、奴を殺せ!」


「!!」


「なっ!?」


 精霊術師の呼び掛けに応じ、火の精霊が顕現する。襟巻きが炎になったトカゲは契約者の指示に従い、声無き声を上げて高熱の炎の玉を吐き出してきた。

 突然の出来事に驚いて初動が遅れたものの、隣の木に避難して炎の玉の射線から逃れた。


(俺を探してたみたいだし、最初から俺を殺すつもりで精霊の森に入ったのか? 誰かに恨まれた憶えはないのに……)


 二十年間生きてきたが、生まれて初めて向けられる殺意に冷や汗が止まらない。これまで殺伐とした世界とは無縁の平和な世界でぬくぬくと暮らしてきたのだと、こんなにも早く身を以て体験する羽目になるとは予想だにしなかった。

 精霊術師は腹立たしそうに舌打ちし、火の精霊と散開して左右から攻撃を仕掛けてきた。


「赤き女神の涙、高熱の雫は身を焼き焦がす―――『業火球ヘルフテア』!」


「!!」


(この程度なら躱せる、当たったら大火傷待ったなしだ)


 精霊術師が生成した魔法陣から火炎の塊が放たれ、タイミングを合わせて火の精霊も炎の玉を吐き出す。どちらも見切れる弾速なので精霊樹を飛び移り、そのまま逃走を謀る。

 しかし、精霊術師は人間離れした脚力で追跡してきた。魔法使いは体が貧弱という設定がありがちだが、身体強化魔法で解決である。


(クソッ、このままだと追いつかれる。命を狙われる可能性を考慮し、予め身を守る術を用意しておくべきだった)


 押し迫ってくる殺意に抗えぬ自身の非力さに苛立ちを覚え、歯を食いしばった。

 常人よりも少しばかり、身体能力が高いだけの人間だ。魔法は風の初歩しか教えられておらず、氣も練り上げしかできない。近接戦闘も喧嘩とは無縁の人間がいきなり戦えるはずもなく、足音一つ残さない身のこなしを持つ相手に挑むなど、無謀でしかない。


「赤き女神の槍、業火を纏いて刺し穿つ―――『業火槍ヘルフス』!」


「!!」


「おわっ!?」


 次の足場となる枝に火炎の槍と火の玉が直撃し、燃えながら落下した。空中で方向転換を出来るはずもなく、そのまま地面に受け身を取って着地するより他なかった。

 その間に精霊術師と火の精霊に挟まれ、精霊術師は躊躇いもなく呪文を詠唱した。


「赤き女神の憤怒、業火と成りて嵐の如く荒れ狂う―――『業火嵐ヘルフーム』!」


「!!!!」


 魔法陣から放出された業火が吹き荒び、地面が触れたそばから焦土と化す。火の精霊は火炎の壁で俺を取り囲み、逃げ道を塞いで確実に仕留めるつもりだ。


(正に袋の鼠か……だが、窮鼠猫を噛むという言葉もある。俺にやれる事は―――)


 一度目の人生では観念して潔く焼け死ぬだろうが、折角手に入れた二度目の人生を棒に振るつもりはない。けれども打破する術がなく、諦めかけたその時に華蓮の言葉が頭を過る。


【黎人なら大丈夫、もしも心魔が現れたとしても打ち勝てる。氣は負の感情の影響を受けやすいけど、逆に正の感情も大きく影響を与える。何事も信じる心が力に成るのよ】


(一か八か、やってみるしかない。華蓮さんを信じ、俺自身を信じて―――)


 右足を半歩引いて半身となり、右手を握り締めて腰だめに構えた。

 確実に勝てる勝負は挑み、勝機が薄い勝負は避ける。抱えるリスクを最小限に抑えるのは常識で、それが一番だと過半数の人間が答えるだろう。

 負けるかもしれない、負けると何が起こるか予測できない。ハイリスクハイリターンの勝負に挑むなんて、生粋のギャンブラーのみである。

 俺はギャンブルが嫌いで、パチンコや競馬といった運要素が強いゲームを遊んだ経験がない。だけど今、その常識をかなぐり捨てる。

 この拳は業火をも突き破る、そう信じて振り抜くのみ。


「オラァァァァッッ!」


 己と現実への疑念を拭い去り、信念を込めた全身全霊の拳を前方に突き出す。すると丹田で貯めていた氣が右腕に集中し、突き出した瞬間に塊となって射出された。

 俺を焼き焦がそうと間近まで迫っていた業火の嵐は打ち消されたように散り散りとなり、そのまま精霊術師に氣の塊が衝突。精霊術師は反射的に腕を交差させて防御したが、吹き飛んで背中から精霊樹に叩きつけられた。


(貯めていた氣を全部使い切ってしまった……二度目はない、火の精霊が向こうに気を取られている内に逃げよう)


 火の精霊は精霊術師を気遣う素振りを見せており、注意が一時的に逸れた隙に駆け出す。けれども氣を使い切った影響で速力が落ち、氣を一回で使い切るのは宜しくないらしい。

 木々の隙間から華蓮宅が見える距離まで逃げ切り、大声で華蓮の名を呼ぼうとした。


「か―――がほッ!? がはっ、がはっ!」


 右脇腹に足の甲が突き刺さり、声を張り上げようと肺に送り込んだ空気を漏らして地面を転がった。鈍い痛みを発する右脇腹を押さえながら顔を上げた直後、顔面を蹴られて視界が明滅する。

 鼻が熱を持ち、血を垂れ流しながら精霊術師を睨む。文句の一つでも吐き捨ててやりたかったが、軽い脳震盪が発生して上手く言葉がまとまらない。

 先程までとは打って変わり敵意剥き出しの姿勢が気分を害したのか、精霊術師に体のあちこちを蹴られる。


「が、ぐぅ……ごッ、ぉあ……!」


「今さっきのはまぐれか? ええ? あの御方こそ王の座に相応しい、お前は台頭する価値すらない。無様に死ね、三下が!」


 目深に被ったフードの奥で血走った目が俺を見据え、魔法によって強化された腕力で首を絞めてくる。弱体化した状態で抵抗を試みても到底敵わず、弱体化していなかったとしても勝てない圧倒的な膂力の差だ。

 視界が狭まり始め、意識が濁っていく。精霊術師の腕に爪を立て、がら空きの胴に蹴りを入れようと、逆に首を絞める力が強まるばかり。


「おるぁぁ!」


「げぅぇ……!?」


 第三者によるミドルキックが精霊術師の側頭部に叩き込まれ、精霊術師は錐揉み回転しながら吹き飛んだ。俺に夢中になるあまり、奇襲の警戒が疎かになっていたようだ。


「―――がほ、ゲホッゲホッゲホ! はぁ、はぁ、ヴァン?」


「大丈夫か、相棒。帰るのが遅れてすまない、どうなってんだコレ?」


 解放されて咳き込む俺にヴァンは肩を貸してくれて、近くの精霊樹の根元に座らせた。それからヴァンが精霊術師と対峙し、精霊術師は苛立ちを爆発させて不満をぶちまけた。


「ふざけんなよ、お前! もう少しで息の根を止められたのに、何故邪魔しやがった!」


「はぁ~? いくら仮契約とは言え、契約者を助けるのは当たり前だろ?」


「そうか、お前が風の大精霊ヴァンか。やはり情報通りだったか」


 精霊術師はヴァンの登場に大して驚きもせず、まるでヴァンの存在を初めから知っていたと思わせる言動だ。

 ヴァンが怪訝そうに首を傾げるも、精霊術師は懐からペンダントを取り出して掲げた。悪意たっぷりの歪んだ笑みをヴァンに向け、面白可笑しそうにペンダントを揺らす。

 一見すると綺麗な海を連想させる空色の宝石が埋め込まれた金細工のペンダントだが、精霊術師が魔力マナを流すと一変した。


「これは……精霊縛りのペンダントか!」


「公爵家が用意してくれた特注の精霊縛りのペンダントだ。人間との縁を絶ち、いくら大精霊であろうと動けまい」


 宝石から照射された怪しい光を浴びたヴァンがその場に跪き、精霊術師は煽るようにヴァンの顔を覗き込む。

 精霊は本来、エネルギー体で構成されている肉体だ。人間との縁を通じて物質界に繋がるが、その縁を絶たれると精霊界に強制送還されてしまう。精霊の森は物質界と精霊界の狭間にあるのでどうにか踏みとどまっているが、制限を受けて金縛り状態だ。


「お前を消すのも依頼の内に含まれている。火の精霊よ、殺れ!」


「!!」


「ぐあぁぁぁぁッッ!!」


「ヴ、ヴァン!」


 ヴァンが火の精霊から火炎の吐息を吐きかけられ、抵抗できずに焼かれる。どうにか助けようと足を踏み出すが、よろけて地面に這い蹲った。

 その様も面白かったのか、精霊術師は腹を抱えて笑い声を上げた。


「ふっ、ははははは! いいか、精霊術師は精霊に相応しい実力が必要だ。お前みたいな使者の肩書きだけで大精霊と契約できる奴なんざ、高が知れてんだよ!」


「ッ……!!」


 精霊術師の言葉に反論できず、俯いて悔しさから拳を握るぐらいしかできなかった。

 ヴァンは緑の女神の使者、イアの友人を抜きに選んだと述べていたが、果たして本当なのだろうか。

 もしも別世界の俺が生きていた場合、精霊の森に入ることもなく、華蓮と出会わなかった確率が高い。それどころか精霊術師の素養も元から備わっていたのか、怪しいところである。

 そうなるとヴァンだけでなく、精霊との契約も果たせない。運良く魔力マナを生まれ持っただけの人間が残るだけで、貴族にこき使われる暗い未来しか待ち受けていなかった。


「そんなことないわ」


「!??」


「何だと!?」


 俺の代わりに短く否定し、火炎の吐息だけでなく火の精霊ごと水で押し流す参戦者。誰だと確認するまでもなく、華蓮が駆けつけたのだ。


「へへっ、遅かったじゃねーか、華蓮」


「ヴァンは……なるほど、高度な精霊縛りを受けたのね。風の便りは早く寄越しなさい」


「俺一人で戦えると慢心したザマがこれだ、イテテ……すまないが暫く動けそうにない」


「ヴァンは黎人以上に面倒がかかるのだから、まったく。後は私に任せなさい」


 華蓮が掌から生成した水がヴァンの体を覆い、赤く焼け爛れた皮膚が元の健康的な小麦色の肌に戻っていく。

 ヴァンの治療を終えた華蓮は精霊術師に向き直り、精霊術師の次の一手に感心した。


「私が来たら逃げるとは、用意周到ね」


「全て事前に聞いているとも、お前も織り込み済みだ。お前が来る前に二人を処分したかったが、退かせてもらう」


 精霊術師は幾重もの魔法陣が描かれた羊皮紙を握り、俗にマジックスクロールと呼ばれる道具だ。魔法陣は予め魔力マナを含んだインクで詠唱が刻まれ、使用する際は魔力マナをほんの少し注入するだけである。

 精霊術師が魔力マナを注入しようとしたが、素早く華蓮の指先から光速で何かが放たれ、マジックスクロールに風穴が空いてゴミと化す。


「みすみす逃す訳がないでしょう? さ、黎人とヴァンを痛めつけた罪を償ってもらいましょうか。覚悟しなさい」


「……このクソアマがァ!」


 これまで計画通りに事が進んでいたのに、華蓮のせいで計画が崩れた精霊術師は吠え、怒気と魔力マナを噴出させてローブの裾をはためかせた。華蓮はそれを意にも介さず、中空に身を委ねて手招きした。

 挑発を受けた精霊術師が早口で呪文を詠唱し、先手を取る。展開された魔法陣の大きさから、大規模な魔法であるのが窺えた。


「赤き女神を象徴する我らの太陽、極小の恒星は万物を灰燼と化し、生命の痕跡を焼却する―――『天焔球サンフレテア』!」


 極小という単語にそぐわない太陽を模した白き焔が膨らみ、高熱によって周辺一帯の木々が自然発火。業火球ヘルフテア業火槍ヘルフス業火嵐ヘルフームなんて可愛いもので、これこそ精霊術師の本気なのだ。


「最上級火属性魔法、天焔球サンフレテア。練度も高いから、火の精霊に合わせた火属性特化の精霊術師なのね」


「余裕ぶっコケるのもここまでだ、死ね!」


 冷静に実力を分析する華蓮の余裕がある態度が癪に障り、精霊術師が怒声と共に極小太陽を放った。

 華蓮が指を鳴らすと、俺とヴァンを半透明の箱が覆う。肌を焼き焦がすような熱が届かなくなり、自身より俺達の身を案じたのだ。


「ハッ、そんな無属性魔法で俺の魔法を防げると思っているのか?」


「いいえ、熱から守るために張ったのよ。それに無属性魔法ではないのだけど……この際、些細な事は置いておきましょう」


「熱から守るだと? 俺の天焔球サンフレテアにどう対抗するつもりで―――」


「こうするのよ」


 華蓮は魔法の準備すらせず、自ら極小太陽に突っ込む。自殺行為に等しく、生き残ったとしても瀕死の重傷を免れない規模だ。

 精霊術師は嘲笑して行く末を見守り、華蓮と極小太陽が接触した。


「―――なに!?」


 華蓮が軽く小突いただけで、極小太陽が内側から破裂した。膨大な熱量は熱風となって吹きつけ、木々は苦しそうに軋んだ音を鳴らす。

 原理は分からない、推測すら立てられない。ただ精霊術師の驚愕っぷりから、それが徒事ではないのは明らかだ。


「これが、これがあの華蓮の実力なのか!? 冗談ではない、こんな事になるのなら引き受けるべきでは……」


「計画では私と遣り合わず、逃げ一択だったのでしょう。だけど逃走を阻止された後の選択肢は? まさか全て成功するのが前提で動いていたの?」


「ぐ……火の精霊、クソアマを焼き殺せ!!」


「……!!」


「この子も可哀想ね、こんな契約者と契約を結ぶだなんて。元々はここまで歪んでいなかったのかも知れないけど、人間は簡単に歪むのが難儀だわ」


 火の精霊は水浸しになって弱りながらも、契約者に応えようと火炎を噴射する。華蓮は火の精霊に同情しながら右手を翳すと、火炎が逸れて当たらなかった。


「次はこっちの番よ。森に悪影響を与えないよう、水属性にしておきましょう。『水龍牙アクアドラング』」


「最上級水属性魔法を無詠唱だと!? 赤き女神を象徴する我らの太陽、極小の恒星は槍と成りて、万物を刺し穿ち灰燼と化す―――『天焔槍サンフレス』……ぐぉあぁぁッッ!!」


 華蓮の最上級水属性魔法、水龍牙アクアドラング。水龍の牙を模した巨大な水の槍が放たれ、精霊術師は対抗するように太陽の焔を纏った槍で応戦した。精霊術師の魔法が発動した時点で水龍牙アクアドラングは目の前まで迫っており、相殺して直撃こそ免れたが高温の蒸気によって焼かれてしまった。

 白い蒸気に包まれて視界が悪くなるが、お互いに相手の位置を認識しているのか。華蓮に白い蒸気を突き破って白焔の槍が何本も投げ込まれ、華蓮は臆せずに同じ本数の水龍牙アクアドラングをぶつけて消滅させた。

 その様子を眺めていたヴァンから、解説が入る。


「相棒、華蓮は実力の一割も発揮してないぜ。一般的に最上級魔法ってのは第七門を開けた者にしか扱えないから最上位とされているが、上には上がいる」


「最上級魔法より上の階級があり、華蓮さんはそれを扱えると?」


「そうゆうこった」


 第一門だと初級、第二門なら下級といったように、門から得られるエネルギーを階級に合わせた魔力マナに変換し、魔法を行使する。第七門の最上級魔法が最高位となり、それ以上の階級は存在しないとされるのが一般論のようだ。

 地球ガイアにおける魔力マナの性質は不明だが、氣とエーテルの関係性から第八門に該当するエネルギーの作成方法を仮説ではあるが立てられた。


(第二門と第六門、第三門と第五門みたいな組み合わせでエネルギーとエネルギーを練り上げたら、第八門に該当するエネルギーを生み出せそうだ。後で尋ねるとして、今は華蓮さんの戦いを目に焼き付けよう)


 華蓮と精霊術師の戦闘に集中し、今後に役立つであろう技術を盗む。易々と真似したり、参考にできる領域レベルでないのは百も承知だが、目標として掲げるには華蓮ほど最適な人物は身近にいない。

 精霊術師が幾度となく最上級火属性魔法を行使しようと、無詠唱である華蓮は後出しで最上級水属性魔法を行使して防いでしまう。無詠唱だからこそ行える立ち回りだが、それだけではない。

 先程は水龍牙アクアドラングに込められた魔力マナ天焔槍サンフレスと誤差があったので蒸気が発生したものの、華蓮が後手に回ってから蒸気が発生せずに完璧な相殺が行われていた。相手が魔法に消費した魔力マナを感知し、同等の魔力マナに調節する緻密な魔力マナ制御力があってこその芸当である。

 やがて無意味な消耗戦に痺れを切らした精霊術師が動き、遠距離戦から接近戦に移行した。


「赤き女神を象徴する我らの太陽、極小の恒星をこの身に宿し、自ら万物を灰燼と化す恒星と成ろう―――『天焔纏サンフレント』!」


 精霊術師は所々から赤く焼け爛れた肌を露出させながらもその身に白焔を宿し、身体強化魔法も合わせて華蓮に急接近。常人の肉眼では捉えられない速度で繰り出される連続攻撃を華蓮は表情一つ変えずに片手で捌き、白焔の影響を一切受けていない。

 天焔纏サンフレントは攻防一体の強化系魔法だが、華蓮の前では無意味。数分ほど打ち合った末に華蓮が精霊術師の拳を掴んで捻り上げ、細く長い足による強烈なローキックをお見舞いし、精霊術師の身体が空中を数回転した。

 一貫して華蓮は平静を保っており、相手より一枚も二枚も上手だった。

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