罠だったんだ

 月曜日、駅から愛と凛ちゃんに昨日の詳細を説明しながら登校した。


「え、その女子って誰」

「さあ......」

「太陽くん、裸見たの?しかも上に乗ったの?」

「凛ちゃん、そ そうだけど事故的にだった。裸じゃないし」

「ねぇ走り去った人に写真撮られた?」

「え」


 そんなやり取りをしながら足元が覚束ない状態で下駄箱で靴を履き替えようとしたが、既に廊下が騒がしい。

 きっとあれだ..... 。

 僕らは人混みをかきわけ掲示板に貼られたであろう写真を見に行くと、ご丁寧に学級新聞のような完成度で、見出しが添えられていた。


『~脅された彼女~

山本太陽 強姦証拠 

被害者は付き合ってる宣言を一方的にされた彼女』



 写真の女は顔を隠すように、かつ嫌がるような仕草で写っていた......。たしかにうちの学園の制服、僕の驚いた顔もしっかり写っていた。


「まじ.....あれ愛ちゃん?」「そうだろ」「やばくない?!これいつの写真」

「さあ」「写真誰が撮ったんだよ」「山本君は私服だし 合成?」

「でもさ脅されてる風じゃなくない?いつも二人」

「そうだよな 山本が脅されてるみたいだし」


「あれだろ、裸写真ばらまくからとか言われたんじゃね?」

「山本そんな事するか出来るか」「絶対童貞だろ」


 僕は......キレた


 僕はどう見られようがいい。あの下着姿の女が愛だとされるのは耐えられないんだ。


 人だかりの後ろからニヤッと笑った要くんが立ち去ったのを僕は見過ごさなかった。

 というかわざと笑いに来たのか。


「これ、私じゃない!私じゃない!!!!」

「そうだよ!昨日太陽くん、誰かから呼ばれてサッカー部の部室に――」


 と愛と凛ちゃんがみんなに叫んでいたが


 僕は要くんに詰め寄った、が先に要くんの胸ぐらを掴んだのは彩花だった。


「あんたっ気持ち悪いわ」

「俺は知らない」

 と弾かれる彩花


「待て 要くん」

 振り向きざまに要くんは僕の腹に一発お見舞いをくれた。

「殴れよ 殴りたいんだろ 俺を」


 僕の中で何かがプツンといった


 僕は要くんに殴りかかった

 周りに生徒が囲み要くんの子分が僕を引き離し応戦してくるも得意のキックを放った僕。

 気づけば子分二人が廊下で鼻血を出し「いってぇ」と大げさにしゃがみ込む。

 既に要くんは何もなかったかのように立ち去っていた。


 場所が悪かった。

 ごめんなさい 木下君......。パンチは強い奴から守る為なのに、僕は怒ってこんな弱い奴に使った......。



 結果 僕は停学処分である。




 ◇◇◇




 停学は二週間 大したことはない。

 大したことは、外出禁止と愛と連絡が取れないこと。

 返事がない。

 僕が凛ちゃんに連絡したら凜ちゃんがうちに来てくれた。


「太陽くん、えらいことになったね」

「あはは 殴らなきゃよかったかな」

「いや、見てる私たちは気持ちよかったけどね」

「愛は?」

「......学校休んでる」

「え」

「全員じゃないけどさ、疑いが晴れないっていうか。愛は気にしてないんだよ。愛が気にしてるのは、太陽くんに迷惑がかかること。自分が居ないほうが学園も平和だしって」

「そんな......」

「愛んちに行く?」

「行っていいのかな」

「誰も見てないでしょ。一緒に行くし」

「うん」


 僕は念の為帽子をかぶりウィンドブレーカーにメガネをして出た。


 愛の家のチャイムを押す凛ちゃん

 団地の灰色のドアが開いた、中から愛が顔をのぞかせた。


「え、太陽......」


 その顔は懐かしいメガネの僕を見ても笑ってはくれなかった。

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