ほぼ初めてのデート

 日曜日僕はボクシングの後、愛と待ち合わせをしている。ミスコンの話をしようと意気込んでいた。


 駅の改札口で、行き交う人の奥に愛を発見。そこだけ光り輝いて見えるのは僕だけだろうか。愛を探せ!なら秒でみつける自信がある。


「太陽!」「愛!」

 今日はほぼ初めてに近いデートである。

 まずはただ歩く、僕はそれだけで大満足だった。


「愛、学費の件だけどさ。ミス百合って知ってる?」

「うん」

「それになろう!学費免除になる」

「私が?先輩だって出場するんでしょ.....」

「こんなに美しいんだよ。こんなに大和撫子なんだよ。」

「もうっ太陽だけでしょ。そう思ってくれるのは」


 いいや、愛には我こそは予備軍の男子達が大勢居るではないか。照れ笑いする愛も可愛かった。


「そうだ!太陽 プリクラ撮りたい」

「ぷ プリクラ.....そんなミーハーな..... あいや 撮ろう!撮りたい」


 駅ビルに戻りゲームセンターへ。わあなんだこの雑音の嵐は......耳がやられる。


 プリクラの機械を前にこんなの撮ったことない僕は説明を凝視する。


『こんにちは!ようこそキラプリへ。好きな背景を選んでね』


 なんだ?機械がしゃべる。背景......。

 愛が雪だるまの背景を選んだ。

『ピコン♪ カメラを見て撮影ボタンを押してね!3.2.1で撮るよ!』

 えっどんな顔すんのこれ。愛は可愛い顔のまま正面みてる......

「太陽!前向いてっ」

『3.2.1 カシャッ』


 間抜けな僕が撮られた。


『お絵描きタイムーあと60秒っ!』

 手慣れたように愛が、付属のペンを走らせる。

 たいよう♡あい


 ウィーン 出てきた....人生初のプリクラとやらが。テーブルが置かれた場所に用意されてるハサミでチョキチョキ切る愛が僕に半分をくれる。


「はいっ。これ太陽の分」

「あ ありがとう」


 これ、僕からすれば宝物なんだけど。何処に保管しよう。家に帰って写真立てに、いや小さすぎる.....。


 愛は何やら真剣に下を向いて作業中

「えっピッチに?ピッチに?」

「はははっ太陽も貼る?」

 とバッテリー部分にペタリと貼られた。

 ふぁ 愛の顔がこんな所に、なんだか幸せを感じた。



 その後、駅ビルのコンビニで紙パックの飲み物を買う。

 愛はマスカットティー僕は緑茶。ベンチに座ってストローをさした。


「で デートってさ、どこか特別な場所行ったりするんだよね?世間の高校生は」

「うん 分からない。私は太陽が居ればどこでもいい」


 なんという、素敵な回答。模範解答ではないか....。


「今度どっかに行こう。連れて行くよ。.....予算的に近場になるけど.....ね。また候補、あげてね。どっか行きたい場所」

「太陽、予算、候補ってサラリーマンみたい。私は欲しいものあるんだ」

「え、あ 何?僕に買えるなら......」


 愛は笑いをこらえて赤い顔をしている。

 なんだろ 僕の発言はまたどこかおかしいのだろうか。


「太陽のファーストキスがほしいの」

「........そりゃ紛れもなくファーストだね」と僕は苦笑いすると共に緊張で緑茶の渋みの影響か口内の水分が蒸発していく感じがするのだが......こんなんで、どうやって。漫画じゃイケメンが顔斜めにして主人公は目をパチクリ開いてキスを奪われるんだよ。

 そうだ!


 チュッ


 軽やかに僕の唇はマスカットの香りに包まれた。

 愛が顔を斜めし、目を見開いたままの僕に口づけをした。とっても柔らかかった。


「初々しーな」「いいなあ若いって~可愛いよな」

 行き交う兄さん達に見られたのが、僕らは恥ずかしくなりしばらく沈黙であった。



「そろそろ帰ろっか」「うん」

「送るよ」「今日はまだ早いから大丈夫。凛んち寄るし」

「分かった。じゃあ凛ちゃんちついたらメールして」

「うん」

 と駅の改札口手前でつないだ手を引っ張って愛を抱きしめてキスをした。

 やっぱり僕からしておきたかったんだ。不思議と男らしいスイッチが入ったのだっ。

 愛は少し驚き、恥ずかしそうに僕の胸にぐりぐりした。



 家まであと少し、もう着いてるはずの愛からメールが来ないから不安になり愛のピッチにかけてみたが出ない。

 と、公衆電話から着信が来た。

「もしもし!」

「山本 愛ちゃん救いたかったら百合学園のサッカー部部室に来い」

「.............」



 僕は走った ただ無我夢中で走ったんだ また駅へ、電車に乗った

 くそっなんなんだよ 愛だけは絶対だめなんだ 絶対に傷つけちゃだめなんだ


 学園の閉まってる門を飛び越え

 僕はサッカー部とかかれた部室のドアを開け放ち飛び込んだ。

 下着姿で後ろを向くのはまさか愛?と思ったが、違う

 僕は愛の髪は分かる

「.......誰?」

 と聞いたら、いきなり振り向いて抱きつかれた拍子に共に転げ、僕は上に乗ってしまった。


 知らない子だ。

 入り口から誰かが走り去った。

 その子も急いで立ち去った。


 放心状態の僕のピッチが鳴り響く

「太陽!太陽!どこ?」

 電話の声は愛だった。

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