新しい朝

 新しい朝が来た。希望の朝だ。

 朝からバレエのピルエット10回転くらいできそうである。


「おはよう 太陽くん」

「おはよう 凛ちゃん 早いね」

「なに なんか爽やかだね。太陽くん」


 と、愛もやって来たが、チャラ男中崎くんをはじめ、三人組男子が同行している。

 僕は殺意を覚えた......最近凛ちゃん効果もあって前より笑顔が増えた愛に近づく男子が絶賛増量中だ。


「ねえ、ねえ、山本と物置に閉じ込められたって、マジで大丈夫だった?」

「なんで?」

「何もされてない?山本だろ。気をつけろよ。俺が守るから」

「は?断る」

「ふぅ~相変わらず冷たいなあ」


 愛は男子にはクールだったのが救いである。が、何が守るからだよっ。愛を守るのはこの僕だ。


 あっ。そうだ僕は凛ちゃんに聞きたいことがある。


「あのさ..... 凛ちゃんて彼氏いたことある?」


「いたことある?って失礼だねっ。ま、今いないけど....そりゃあトムもヨリスも言いよってきたわよ」


「質問がございます。彼氏彼女ってなにする?」

「えっ。何が聞きたいの?あ〜。カップルについてね。

 基本は行動を共にする。デートする、手をつなぐハグする、チューする。そしていつも一番の理解者であり相手を大切にする」


「あ、なんだか凛ちゃん凄いね.....大人だね」

「そう?で、付き合ったの?」

「え?」

「まあいっか。ひみつなら」

 と凛ちゃんは笑った。

「私のイチオシ漫画 明日貸すよ。持ってくる」

「漫画......ありがとう」


 授業中

 バシッ 「いてっ」木下君にどつかれる。

「ごめんね。山本くん叩けって回ってきました」

「え」

 愛は普通に授業受けてる。と、春斗が笑っていた。

 なんだよ。


 休み時間


「ムスコっ!振り向きすぎ、後ろ見すぎっ。愛ちゃんのこと見すぎだから、キモいから」

「あ 僕そんなに.....」

「あんまり見てたらそのうち友達やめろって言われるぞ」

「ああ」


 僕は今、友達どころか、彼氏辞めてって言われる恐怖と向き合っているのだ。

 得られるとは思わなかったはずの遠いものに手が届いた瞬間今度は失うのが怖くなる。ああなんて愚かなんだ......。


 ガラガラガラッ


「山本太陽 山本太陽!」


 え......彩花が勢いよくやってきた。要くんとの廊下で繰り広げられた別れ話劇場が原因で最近は皆、腫れ物に触るかの如く関わらないようだった。


「ちょっと来なさい」


「嫌です」


「な なんで。犯人の話よ」


 あ そうだ.....ここは彩花に一言謝ろう。でも愛を除け者にするのは許してない。


 僕は廊下に出た。


「山本太陽 犯人は要よ。8割あたり確実」


「あ、そう。」


「はい?驚かないの?」


「ああ、あの、ごめんね。疑って。それに別れさせたみたいになったのかなって....」


「謝らなくって良くってよ。もう終わってたようなものだから」


「終わってた?でも愛に意地悪するのは許さないから」


「別に私は意地悪してないわ」


「あ そう。じゃ」


「待ちなさい。山本太陽」


「なに?」


「山本太陽......愛と付き合ってますの?」


「......いや 片思い」

「......そう」


 教室に入ったら皆がこっちを向く、でも愛だけは窓の外を眺めていた。あの時みたいに、窓に、咲く花。

 僕はそのまま愛の席に。


「愛」

「なに?」

「いじめた犯人の話だった」

「そう......それだけ?」

「ん?うん。」


 別に片思いしてると言ったとか、付き合ってるのか聞かれたとか言わなくていいよね。今みんな聞いてるし。今言ったら、公開告白になる。

 元気がないなあ。いや教室だとこんな感じか。

 もしかして、既に僕を彼氏にレベルアップさせたことを悔やんでいるとか....。

 いかん。新たなスキルが必要だ。


 ☆


 駅までは春斗も凛ちゃんも一緒に行って、僕らだけ塾へ行く。


 ちょっと話したくても既にに別々の教室へ行く時間。今日は学校でまともに話せなかったのに。


 短い休憩時間、あのベンチに座っている愛がいた。


「愛 愛」


 ああイヤホン.....、聞こえないんだった。

 そうだ。練習しよう!

 僕は愛の背後から「好きだ 大好きだよ 愛 大好き」

 と言った...... のだが、僕の斜め後ろで自販機の前にいた生徒がすごいひいている......。

 君、居たのか......。聞かなかった系で頼みます。

 僕らは会釈し合ったのだった。


 愛の隣に座る僕にイヤホンをまた片方くれた。

 今日は切ない女性ボーカルの歌だった。

『初めての恋の歌』だ

 こんな美しい愛が彼女だなんて。本当なんだろうか。

 と見惚れていたら、じっとキリッとした二重が僕を見つめる。いつもこっそり見つめる側の人間は見つめられるとたまらなく、きょどるのである。


「恥ずかしいの?じゃ、ずっと見てるよっ」

「あ......」

 愛は攻撃力が高い.....一撃一撃が僕には強すぎるよ。

 ギャップに僕はノックダウンだった。

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