帰りのバス

「行きと同じ席な〜先生もう疲れたから早く帰るぞ」


 の一声で僕は愛の隣に座る。

 さっきの話、続き、続きを......愛の横顔はどこかしれっとしてる、笑いもしてくれない。

 なに、僕怒らせたの.....どうしよう。今、僕も好きだーって言う?いや言えない。『は?何?』とかクールな愛が出てきたらエンドだ。

 僕は女子に好きって言えない。いつからか、こんな僕に言われたら迷惑だろうって.....。

 だけどさっきのは僕を好きって意味だよね。え、勘違い?


「ねーねー愛と太陽くん物置で何してたのー?」


 凛ちゃん......今それ聞きますか......


「んとね。ひみつ」


「何それ。愛がひみつとか言う?ハハハハ」


 凛ちゃんは前を向いてしまった。春斗?寝てる。


「何も言わないつもり?」


「え」


「私のこと嫌い?」


 愛は小さな声で囁き出す、僕は聞こえにくいから、え?え?って少しずつ腰をずらして小さくなって愛に近づいた。


「だからっ。私のこと嫌い?イヤならさっきのは忘れて」


「す あ まさかそんな、イヤなんかじゃない」


「何それ」


「愛と同じ」


「何が?」


「き 気持ち」


「......じゃ付き合って」


「あ あ はい。是非ともです」


 だめだ だめだだめだだめだだめだ

 完全に僕はエラーをおこした。まともに会話できない。

 だれかバグをバグをなんとかしてくだちい。


「じゃあ太陽。みんなにはひみつ?」


「え」


 そうか、僕らがそう言う関係になったのなら、なったの?

 なったのなら、愛は変人に成り下がる。それは僕も望まない。


「太陽、要くんにずっと嫌がらせされてるでしょ。もし私と付き合ってると知れたらもっと酷くなるかも。......心配なんだ。要くん.....けっこう酷いから」


「要くん??え、どゆこと?」


「この間屋上でさ 俺と付き合えって言ってきたんだ。断って、太陽への嫌がらせやめてって言ったんだけど。」


 え......。要くんが告ったのか......しかも犯人は彩花じゃなかった。

 僕は彩花に酷い態度を。

 あ、今は何かとややこしいのだ。頭よ頭よ回り給え。


「お......わ 分かった。じゃしばらくはひみつに。」


「うん。私は言いふらしたい位だけど。」


「え」


 愛はどこかいたずらに笑った。付き合う?彼女。僕の彼女が愛?!付き合うって、何するんだ.....。

 嬉しいけどこの上なく嬉しいけど、僕にはまた新たな鍛錬が必要だ。


 春斗!寝てる場合じゃないぞ.......寝てる間にえらいことに.....。でも春斗にも言えないのか。誰か誰か教えて......。



 ☆



 解散は夜だから親が迎えに来てる子が多い中、愛と僕とこは来ていない。


「送るよ」

「うん」


 駅までの道。夜だからってのもあるけど、今まで歩いた道と違って見えた。

 しばらく歩いたら愛がこちらを向いて手を出した。


「手」


 手?手をつなぐ?!僕は腕を絡められることはあっても手を繋いだことはない。

 ドキドキしながら、愛のか細い手に触れた。

 愛は、指を僕の指の間に入れる、カップルつなぎというやつではないか......。

 恥ずかしさと愛の手が冷たいから僕はその2つの重なった手をポケットに押し込んだ。


「あったかい」

 愛はいつもより僕の近くで歩いている。ポケットに入れたからより近くなった。

 手をつなぐと、今まで困った沈黙が不思議なくらい心地よい。これは本物の新世界だ。


 電車に乗って愛の駅まで行く。

 立ってつり革を持つ僕の腕をもつ愛。なんだなんなんだっ。彼女になったらこうなるのか。こういうものなのか。

 と、大きく揺れたら愛が僕の胸の中にいた。

 そのまま数駅が過ぎた。

 こういう時、背中に手を置いて支えるとか、抱きしめるとかするのでしょうか。


 駅に着いて夜道だから今日は家まで送ることにした。


「太陽、私ね。髪型変えたりする前から好きなんだよ。」

「え、ほんとに.....こんな僕......」

「もっ、自信もってっ。太陽」

「あ 僕」

「いいよ何も言わなくて。その代わり、ぎゅーってして」

 ぎゅー......母にされたことしかない。


「うん」

 僕は愛をぎゅーっとした。伝わってください......この気持ち。なんでが言えないんだ。

 言ったら消えちゃいそうな気がするんだ。

 好きすぎて好きって言えない病気ってあるかな。



 愛の家は本当に古い団地だった。


「うちほんとに貧乏だよ。母さんがさお父さんの援助受けないんだ。頑固で。私の学費や塾はお父さんが出してるけど。母さんが住む場所や、食べる物には嫌みたい」


「そうなんだ。愛は二人とも大事なんでしょ?」

「うん」

「じゃ、大丈夫だよ。僕も....僕も愛を大事にする」


 ふあ、偉そうなこと言ったもんだ。

 僕は会ったことない愛の母上に感謝します。こんなに素敵な天使を産んでくれて、ありがとうございます。


 愛は僕に抱きついた。恥ずかしさより愛しさが勝利し僕はぎゅっと抱きしめた。

 頑張ろう。ふさわしい男になるんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る