開きたくなかった扉

 「ちょっとよろしい?山本太陽!」


「だ、どちら様?」


「ちょっと私を知らないとでも言うつもり?ハッ 信じらんないっ」


「......すいません」


 このコギャルと美人顔を上手く融合させ可愛いくはあるが、女子たちのボス猿化したお嬢様気質と思われるのは隣のクラスの彩花あやかさんだ。


 大抵の男子は彼女に話しかけられれば天に登る。

可愛いから?いや、自分のポジションに酔ってるんだろう。


 学年トップクラスのイケてるマドンナに相手される俺はイケてると。

実際どれだけの人間がこの女を募っているかなんて、限りなくゼロに近いのではないか。


 だから、少しばかりの反彩花精神と、静かに過ごしたい希望を胸に知らぬふりをする。

 しかし、僕にわざわざ関わってくる理由は。春斗がらみか愛がらみだろう。


 子分のようなガングロ一歩手前のマーサという女子が僕の前に躍り出た。

すかさず彩花に失礼の無いよう取り繕おうという魂胆か。


「マジでーありえないって感じぃ。彩花知らないとかーっ鈍いのにも程があるって〜チョーやば。チョーやば。まッ 編入組 あるあるーしゃあないな」


 普通に話しては頂けないだろうか。

僕の苦手教科古文漢文ギャル語である。

チョベリバな言語である。


「そうね。残念だわ。

私の要件はひとつよ。あなた、山本太陽 今日から私のお友達になりなさい」


「はい?」


お友達.....にすらなりたくない。愛をライバル視するが故に自分の取り巻きにしたいだけなんじゃないか。


「どうして.....ですか」


 友達になるのに、友達になってくださいと言うのはかなりの不器用者がとる手段だ。

この彩花という女は友達いるのか。

まあそういう僕も友達と呼べる数は少ない。僕の私生活においてなんら困りもしない。

なんとなく、どうしてか聞いてみた。


 すると、こういう質問には慣れていないのだろう。


「まあ いいわ。お昼ごはんに付き合いなさい」


 それだけ言い残し、茶色い巻き髪を弾ませて立ち去った。



 お昼はいつもの3人で食べている。

僕が抜けようがきっと春斗が愛と食べる。

だがお昼ごはんをあんな高飛車な口調で邪魔されたくもない。卵焼きが無味無臭となる恐れがある。


「彩花ってさ、かなめくん奪ったくせに今度は山本まで?ほんとしつこいよね。」


「要くんは彩花とほんとに付き合ってるのかな。かわいそー愛。」


「でもさ、山本ってただの付き人じゃないの?愛からしたら。春斗くん狙いとか?いや、だったら直接いくよね~。」


と、教室を僕の知らない情報が錯綜している。


 そんな噂話の類に耳を傾けてはまた何に巻き込まれるかわからない。

 知らぬが仏。

 ここは昼休みをどうするか、考えよう。


 と、後ろの席の木下君が肩を叩く、消しゴムでも落としたのかと床を探す僕にさらなる囁きが耳に入る。


 「山本くん、山本くん」

「はい」


 「今君はとんでもない女の園に迷い込む子羊になりつつあるようだよ。知りたいかい?知っておいたほうが身の為だと思うよ」


 木下君、そんなキャラだったのか。てっきり僕と同じくただ静かに過ごしたい種族だと思っていたのに。

そんなミーハーであったのか。


 「彩花さんは、愛さんを兎にも角にもひとりにしたい。ボッチにしたいようです。


 ライバルと認識しているのかこれは中等部の頃より始まった。

 小学部の頃は二人と要くんは仲良しだった。


 ご覧の通りクラスの女子も愛さんにべったりくっつくような子はいません。中等部の初めまでは愛さんは人気者でしたよ。それはそれはとっても.......男女問わず。


 要くんは今や彩花さんの彼氏だそうで。

しかし君は?山本くんは愛さんの特別な存在ですか。」


 「木下君 ありがとう。何やら怒涛のような情報を......いったん持ち帰ります」

「はい」



 僕はこれまでの愛の様子を振り返る。

愛のノートがぐちゃぐちゃにされゴミ箱にあったこと

僕はそれをそっと持ち帰ったこと。そして夜な夜な何を書いてあるのかを見たこと......。

愛が上履きを数足かばんとロッカーにストックしていること。


 影で愛をいじめている奴がいるはず。それは僕が厄除けに召喚されてから少しは改善されたかに見えていた。


 あの彩花が黒幕か?

その要くんというのもどんな男だ。柄にもなく熱いものがこみあげてくる。あぁ駄目だ。


――――――制御不能だ。


まずは、その要くんを偵察しよう。


「ねぇ、もうすぐりんが帰国するんだ」

と愛はいつも通り春斗と話している。さっきの彩花襲撃を見ていた筈だが空元気?でもなさそうである。


「だれ?凛ちゃんって」


「フィラデルフィアから帰国するんだ。私の親友」


「フィラデルフィアて?ヨーグルト?チーズうまい系かイタリア?」


春斗、アメリカだと思うよ......。


 僕は昼休み、偵察をかねて彩花仕切るお昼ごはんに参加する。そこには予想通り彩花の彼氏 かなめくんとやらがいた。


 たしかに、イケメンという種だ。貼り付けたようなキラキラした笑顔、甘いマスクを標準装備しておられる。


 そして、彩花食堂一列に並ぶ面々は今風なやつらだ。普段の僕なら目を合わさず素通りするだろう。

目が合えばすいませんと言ってしまうだろう。


 この一列の前には謎の重箱が等間隔で並んでいる。


「あ!山本太陽来たのね。どうぞ、こちらに座って遠慮なく召し上がって」


これは......胃袋から掴む友達?


「やあ。」

「ちぃーっす。マジできたんだね。チョーウケる。」


 いや誰もまだウケる発言してませんが。ウケそうな空気は限りなくゼロに近い。

要くんは明らかに楽しくなさそうではないか?



「要くんは何故このメンバーにいるんですか?」


「な、なに?どういう意味かな。」


「それは私の恋人だからよ。」


「あーやっぱりアンタバッカだねっ」


「ねぇ どうして山本太陽は愛と仲良しなのかしら?」


「仲良しに何か問題が?」


「......いいえ。もしかして好きなのかなと思ったのよ」


ヘコヘコしない僕に苛立ちを見せる彩花は、ふんっとそっぽを向いて言った。


「まあ、いいわ。お食べなさい」


 僕は自家製弁当をポンとだす。反撃を食らう覚悟だ。


「ちょー、マジで」

「彩花の重箱差し置いてありえねーしっ」

次から次へと反撃の嵐だ。と、


ジャーッ


なにするんだよ.......。

向かいに座る茶髪の男子が僕の弁当にお茶をヒタヒタに注いだ。


 僕は無言でそれでも自家製弁当を食べる。

お茶漬けだと思えば良い。




 僕は決心した。

この学園にのさばる負の遺産、負の陽キャ達を退治する。

どうやって?

わからない。愛をいじめるやつはこのモヤシ厄除けが成敗する。






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