友達の彼氏鼻くそな私

入間しゅか

友達の彼氏と鼻くそな私


 端的に言うと、友達の彼氏と寝た。それだけの話だ。それだけで済む話ではないって言われたらそれまでだが、まだ友達はその事実を知らないから、それだけなのだ。


 米田とその彼氏吉岡は私の高校の同期。高二の時、二人は付き合いだした。その頃、私はブサイクな大学生と付き合っていた。そういえば、ダブルデートもしたな。ルックスで判断するのはいけないと思いつつも端正な顔立ちの吉岡と当時のブサイク彼氏を比べてしまう自分はどこまでも卑しかった。

 米田とはクラスで一緒に行動することが多かった。特別仲がいいと言うより、米田が一方的に私に懐いた。ここで深く語ることはしないが、米田は私に何度となく両親に対する悩みを話した。きっかけは放課後の教室で一人何をするでもなく居残る彼女を見かけて話しかけたからだった。居残りの理由は理不尽な家庭の都合だった。悩みを聞く回数と比例して彼女は私と一緒に居たがった。米田が私を慕ってくれるのは嫌じゃなかったが、米田の気持ちを利用して友情を得たような気がして自分がどこまでも卑しかった。

 高二の夏。クラスメイトの吉岡が私に告白してきた。私は申し出を断った。彼にはクラスメイト以上の感情を抱いたことがなかった。物静かで、決して目立つタイプではないが、影で彼をイケメンと言っている女子は多かった。しかし、私にはすでにブサイク大学生がいた。

 米田が彼氏ができたと吉岡を紹介したのは、高二の冬。吉岡に対して変わり身の早いヤツめと、思う反面少し損をした気がした私はどこまでも卑しかった。

 米田がいつ吉岡と仲良くなって、付き合うことになったのかは知らない。高校卒業後、私は地元を離れ大学近くに下宿した。地元の専門学校に通った米田とは大学一年生までは頻繁に連絡を取り合ったが、大学生活に馴染むと共に私の返信は遅くなった。

 ブサイク彼氏は大学入学した時期に些細な喧嘩でふった。高三の頃から彼が私に依存しているのは感じていたから、今思えば当然の結果だった。大学は楽しかった。米田と吉岡はすぐに遠い記憶になった。学生生活を存分に楽しんだ。


 吉岡との再会は就職面接の帰り、ばったり出会ってあっさり、寝た。

 私は卑しい鼻くそ。彼が同じビルにある会社の面接を偶然受けに来ていたから、面接終わりにお茶しようと誘った。

 米田とは仲良くやってるとか。就活より単位がやばいとか。そんなたわいない話の最中、彼は「あの時、告白してよかった」と言った。どういう意味か私は訊かなかった。どこまでも卑しいから、彼を今なら好きになれると思ってしまった。

「私も嬉しかった。あの時、私に彼氏がいなかったら、付き合ってたかもね」

 できるだけ冗談めかして、笑顔で、在りし日を偲ぶように。すると、ふいに吉岡は優しく私の手に触れた。


 鼻くそだ。私は鼻くそ。彼の腕に抱かれながら、私はどこまでも卑しい鼻くそだ。

 私という鼻くそはほじくり返されて、指で弾かれて、壁にくっついて、カピカピに固くなる。彼は眠ってしまった。ふかふかベッドで私に腕枕をしてスヤスヤ眠る。鼻くそな私は自らの価値を問うていた。鼻くそを評価することに意味があるのか分からない。私は卑しいが、卑しいなりに意味が欲しかった。鼻くそをほじくり返したら、すっきりするだろうか?

 ねえ、吉岡。私をほじくり返して気持ちよかった?汚い私だと思わなかった?

 ああ、やはり私はどこまでも卑しい。

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