Find the Way

Phantom Cat

プロローグ

 真っ青な空に轟く排気音。二つの機影が並んでまっすぐ上昇していく。次の瞬間、白煙スモークと共に二機が分かれて正反対の方向に旋回し、降下。青空を背景に、大きなハートマークが描かれる。

 そしてもう一機の飛行機が、スモークを引きながらそのハートの真ん中に向かっていく。スモークが途切れた、と思ったら、飛行機がハートマークから外れた瞬間、再びスモークが復活。まるでハートを矢が射抜いたように見える。


「大きなハートマークに矢が刺さりました! 『バーティカル・キューピッド』、大成功です!」


 場内放送と共に、大きな拍手が沸き上がる。


 お父さんに連れられてやってきた小松基地航空祭。とても広い駐機場エプロンなのに、見渡す限りの人波でごった返していた。コンクリートの地面から立ち昇る熱気に、中学一年の私はフライパンの中で炒められている野菜になった気がして、げんなりしていた。だけど、航空自衛隊の曲技飛行チーム、ブルー・インパルスの演目が始まった瞬間、そんな気持ちは一気に吹っ飛んだ。


 いかつい感じの戦闘機と違って、ブルー・インパルスの飛行機はイルカみたいで可愛らしい。そして、5機がピッタリと並んで宙返りしたり、バラバラになったかと思うと星の形を描いたりする。すごいチームワーク、と思った。こんなことができるんだ、と。


「ひかる、次の演目は面白いぞ」


 耳に挿したイヤホンを押さえながら、お父さんが言った。お父さんは航空無線が聞ける携帯型の受信機を持っていて、それでブルー・インパルスと管制塔の通信を聞いていたのだ。そしてその数秒後に行われた演目が、「バーティカル・キューピッド」だった。私のハートもすっかり射貫かれてしまった。


 あんな風に空を自由に飛べたら楽しいだろうな。それは、後に私の人生を大きく変えることになる、強烈な印象だった。


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