第13話 最期の最期に奇跡を信じて

「マリさん、どうかしたんですか? そんなに慌てて……」

「そっ、そなことないよぉ。うん、慌ててない。さくらちゃん、どぉしよぉ……」

 沙羅さらの問いかけに、マリの言葉は、次第に囁くほどの小声になって、後半は、さくらへの救援要請として向けられているようだ。


「まだ、沙羅さんのお母さんが、母と同じ症状だと決まった訳じゃないですよ」

「そぉだけどぉ……。でもぉ、原因も病名もはっきりしないって。志乃しのさんの時もそうだったじゃない? そうだ、さくらちゃんなら、魔法で治してあげられたりしないのぉ?」

「マリ姉も知ってるでしょ。ケガなら治癒魔法ちゆまほうで治せますけど、病気だと、その症状が進んでしまう可能性があるから……」


 なおも小声になっていくさくらたちに、沙羅が不安げに問いかける。

「さくらちゃん? ホントにどうかしたの?」

「いえ、なんでもない……です。そういえば、沙羅さんが魔桜堂まおうどうに来られた訳を、お聞きしてないですけど……。入院されてるお母さんのことですか?」

「あぁ……、うん。それもあるけど……」


 思わず口を閉ざす沙羅。その姿を見たさくらが慌てて取り繕おうとする。

「沙羅さん、ごめんなさい。言いにくければ、無理には聞きませんから……。そのうち、ここにある魔法道具たちが、沙羅さんが必要としているものを、教えてくれるでしょうし……」

「それって、わたしにも一度きりの魔法が、使えるかもってこと?」

「えぇ、沙羅さんのお母さんも、そのことを教えてあげたかったのではないかと……」

「でも、わたし……、さくらちゃんたちにまだなにも話してないよ。そんなでもいいの?」

 沙羅の声がふるえている。

 その沙羅からの問いに、さくらが答える。優しい笑顔で。


「話せないのは、沙羅さんがもう少し自分だけで、誰からの力にも頼らずにがんばってみようって考えてるからではないでしょうか? だから……、話せないことがいけないことではないと思いますよ」

「そうかなぁ……」

「そうですね。ただ、事情がわかれば、もう少しだけですけど……、沙羅さんのちからにはなれると思います」

「さくらちゃんて……、優しいんだね」

「そうですか?」


「そうよ……。だって、わたし、嘘、ついているかもしれないのよ。今日、ここで初めて会ったのよ……。魔法のことだって、今でもホントは信じてないのかもしれないよ」

 そこまで、ひと息に話をして、沙羅は俯いてしまった。そして、呟く。

「ごめんね……」


「いえ、そんな沙羅さんのような人たちが、たくさん努力をして、いっぱいがんばって、それでもどうにもならなくて、最期の最期に奇跡を信じて願ったことで起こることには、少なからず魔法や魔法の道具、魔法使いが関わってると思うんです……」

 さくらの声が優しく、沙羅に語りかける。

 それまで沙羅の隣に座り、ふたりの話の成り行きを見守っていたマリは、沙羅の頭を撫でながら呟いた。

「沙羅ちゃんは、まだ、わたしたちのことを信じられてないと思うけど……。話せるようになったら、それから話せばいいよぉ。それまで待ってるから」

「マリさんもありがとう……」

 沙羅が言葉を搾り出す。それが精一杯のようだ。


 その様子を見ていたさくらが、静かに話しだした。

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