第15話生きることの意味

全ての部屋にあいさつ回りを終えた雷太とジャッカルギーは、デカンクラッシュの所へと戻ってきた。

「あいさつ回りご苦労、お前たちもトレーニングをやるんだ。」

「トレーニングって・・・、体を鍛えるということか?」

「もちろんだよ、ここでは毎日一時間トレーニングをすることが決められているんだ。」

「さあ、走るぞ!!二人ともついてこい!」

こうしてデカンクラッシュを先頭に、マラソンが始まった。とにかく秘密基地の周りをひたすらに走る、まるでスポーツ系部活の朝練のようだ。

「はあ、はあ・・・、なんでおれが走っているんだ?」

雷太は五周目で走るペースが著しく落ちた。

そしてデカンクラッシュたちが、後ろから追いかけてきた。そしてすれ違いざまに声をかけてきた。

「ほーら、がんばれ!!」

「一周遅れてること、忘れんなよ〜」

これじゃあ、スパイ活動するための体力が奪われてしまう。

しかしそれでも雷太は走り続けて、マラソンは終了した。

「よーし、終わったな。さて次は・・・。」

「まだやるんですか・・・?」

「あら〜、もうバテたの?スパイって以外に体力が無いんだね。」

アマジャーがニヤニヤしながら言った、スパイと言われたことに雷太はムッとした。

「おい、アゴノ様からの召集だ。すぐに行くぞ!」

「えっ、はい!!」

そしてデカンクラッシュたちがアゴノの所にやってきた。

「アゴノ様、ただいま来ました。」

「うむ、それじゃあ引っ越し作業しに行こうか。」

そのことは昨日デカンクラッシュから聞かされていた、今日は新婚夫婦の引っ越しを手伝うことになっている。

遊撃隊は戦闘がない時は、ボランティアや何でも屋などをしていて、組織の資金を稼いでいる。引っ越し作業や草むしりなどの雑用、さらには探偵のような調査までとにかく色々やるのである。

アゴノは秘密基地の駐車場にあるトラックを動かした。

「さあ、お前たち。私の体内へ入るのだ。」

するとアゴノの前に大きな穴が開いて、デカンクラッシュたちがその穴の中へぞろぞろと入っていった。

雷太はその光景に目を疑った。

「えっ!!アゴノの中へ入るのかよ!」

「そうだぞ、お前も早くこいよ。」

ためらう雷太をジャッカルギーは無理矢理中へと連れ込んだ。

そしてアゴノは一人でトラックを運転して、仕事へと向かうのだった。








現場となるマンションにつくと、アゴノは体内から下僕たちを全員出した。

「なんだか不思議な気分だ・・・。」

「そうだろ、まあ慣れればいいものだ。おれたちは大人数で移動するときは、きまってアゴノさまに運んでもらっているんだ。」

なるほど、これならたくさんの人員を目立たないように運ぶことができる。隠密に人海戦術をすることだって容易なことだ。

そしてアゴノはマンションの入り口につくとある番号を押して、スピーカーに呼び掛けた。

「アゴノです、手伝いに来ました。」

『どうぞ、来て下さい。』

オートロックが解除されて、アゴノと下僕たちは階段を登って四階へと向かった。

【403】と表札に書かれた部屋につくと、若い夫婦が出迎えてくれた。

「やあ、今日は来てくれてありがとう。」

「それでは始めましょう、ではリビングの家具と荷物から。」

そしてアゴノと下僕たちは、夫と協力して荷物と家具をトラックに運びだした。

(これはキツイ・・・、おれ体力がメインなことって苦手なんだよ・・・。)

雷太は心の中で不満をこぼした。

階段とエレベーターを上手く使い分けているが、それでも地上と四階の往復を繰り返すのはきつかった。

「ところで、お子さんの方は元気ですか?」

「ええ、とても元気よ。予定日まであと一週間、会えるのが楽しみだわ。」

「そうですか、元気に生まれてくることを祈っていますよ。」

アゴノは荷物を運びながら妻と話をしていた。

「なあ、あの夫婦には子どもっていないよな?どうして子どもの話をしているのだ?」

「ああ、あの奥さんは妊娠をしたんだよ。うちに依頼しに来たのも、妻が妊娠しているから無理はさせられないって。」

雷太は妻のお腹をのぞいてみた、すると確かに大きく膨らんでいた。

それから三十分かけて部屋にあった荷物をトラックに積み込んだ。

「はあ・・・、疲れた。そういえばアゴノはおれたちと同じように運んでいたな、あの力があればもっと早く終わらせてあげることもできたはずなのに。」

「アゴノ様は普段は私たちや他の人に合わせているんだ、自分だけ特別な力があるのにそれを見せびらかしたくはないんだ。」

謙虚なやつだな・・・、と雷太は思った。

すると雷太とジャッカルギーは、アゴノから呼び出しを受けた。

「これから夫さんと一緒に新居に荷物を運んでくる、雷太とジャッカルギーは奥さんと留守番をしてくれないか?」

「それはどうしてですか?」

「もし何かあった時のためにも、二人くらいはいたほうがいい。それにそろそろくると思う、あれが。」

「あれってなんですか?」

「考えればすぐにわかるさ、それじゃあ任せたぞ。」

そしてアゴノたちは夫さんと一緒に新居へと向かった。

残された雷太とジャッカルギーは奥さんと一緒に何もない部屋でのんびり過ごした。

ただ夫さんがお昼にとデリバリーでカレーライスを頼んでくれたので、それを食べた。

「二人とも、手伝ってくれて本当にありがとう。」

「どういたしまして、それほどのことじゃないですよ。」

「それにしても、最近かなり物騒なんでしょう?爆弾とかテロとか、もしこの子に何かあったら心配だわ。」

「そうですね、本当に怖いですよね・・。」

雷太は奥さんの会話に話を合わせた。

「そういえば、お腹の子どもって男の子か女の子、どっちですか?」

「男の子よ、元気に生まれてそだってくれたらいいな・・・。名前も決めてあるの、直進というのよ。」

「なんか真っ直ぐ育ちそうだな。」

「ふふふ、そうでしょ?」

奥さんはお腹をさすりながら言った。

その光景に雷太は、これが刹那だったらと頭の中で思い浮かべだ。

「雷太、何んか幸せな顔してるな。」

「はあ!?何言っているんだよ、ジャッカルギー!!」

「新しい命が生まれるのって、これからどうなるかワクワクするだろ?このワクワクは人の可能性の一つなんだ、この他にも人には一人だけでも無限の可能性がある。それを失くしてしまうことは、とても悪いことだと思うんだ。」

たいそれたことを言うジャッカルギーに、雷太は呆れてしまった。でも雷太は心のかたすみに、不思議と温かみを感じた。

するとそれまで笑顔だった奥さんが、突然苦しみだした。雷太とジャッカルギーが異変に気づいた。

「どうしたんだ!?」

「うう〜〜っ!これ、生まれるかも・・。」

「えっ!!ちょっと、これどうするの?」

「救急車を呼ぶから、雷太はアゴノ様に連絡してくれ!!」

ジャッカルギーに言われた雷太は、トランシーバーでアゴノに連絡を入れた。






それからアゴノと夫さんがすぐに戻ってきて、その後に救急車が来てくれた。

夫さんと雷太が救急車に乗り込んで病院へと向かい、先に作業を終えた後アゴノと下僕たちが病院に向かった。

夫さんの話によるとまだ奥さんは出産していないが、予定日よりも早い出産になるという。

「救急車を呼んでくれてありがとう、おかげで助かったよ。」

「どういたしまして・・・。」

夫さんは雷太に頭をさげた。

そして仕事が終わり、帰り際にアゴノは雷太に言った。

「雷太、あの夫婦はいい参考になったか?お前もあんな風に刹那を大切にして、一緒にいたいと少しでも思ったか?それがお前にとって、生きることの意味になったらいいな。」

その言葉に雷太は反論しようとしたが、なぜか返す言葉が無かった。

それから二日後、アゴノのところにあの夫婦から子どもが生まれたという吉報が届いた。












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