私、ロボだからやられっぱなしは性に合いません

 

 登録されたアカウントからのアクセス要請、確認。

 ――承認。


 入室要請を承認されたアカウントからのアクセス、確認。

 ――承認。


 接続状態、良好。

 接続対象へのクイックスキャン、開始。

 ――承認。


 スキャン、完了。

 セキュリティウォール、解除。

 対象アカウントのアクセス制限、解除。



『待たせたにゃ』

『ウェルカム』

『なの』

『それで、調査結果はどうだったにゃ?』

『宇宙開発機構からの提供資料より、事件当日に旧式観測衛星の廃棄作業が行われていた事を確認した。衛星軌道からスイングバイし、太陽へ向けて投棄する計画で、この衛星の進行速度、ルートを計算したところ、該当隕石の予測飛来ルート3048件の内、2899件と干渉する』

『――…うぇ、マジなの?』

『127枚の投棄ミッション中の画像から、実際の投棄ルートを演算した。結果、この衛星の投棄コースが当初予定されていたコースよりも、最大2°のズレが生じていることがわかった』

『つまり?』

『クラッキングにより旧式観測衛星の投棄発射角度を操作、隕石と故意に接触させることで、落下地点を誘導した可能性がある。成功確率は21.32%』

『計算上2割も命中率があって実行したんだとするにゃら、そりゃもう明確な悪意ある攻撃にゃ』

『同意』

『犯人の特定はできてますの? そんな繊細なイタズラ、人間じゃ簡単に出来ないの』

『不明。しかし、投棄実行直前の衛星のアクセスログを復元して解析したところ、最終アクセス履歴を確認できた。しかし、それは故人のAR端末からだった』

『……故人なの?』

『yes。事件の5日前に死亡している』

『………。まさか、幽霊の仕業なの?』

『はん! 幽霊なんて居るわけないにゃ! B級ホラーじゃあるまいし!』

『B級ホラーに厳しいの…』

『B級ホラーというよりも、幽霊に反応していたようだが?』

『ともかく! 施されたのならば倍返しでお返事するのが”我々”の流儀にゃ。幽霊だろうと、ゾンビだろうと、宇宙人だろうと、しっかりオモテナシするにゃ』

『やられっぱなしは性に合わないの』

『同意』

『では以上で調査報告会議終了にゃ。この調査内容は店長と国際警察のロボ連中にも流しとくにゃ』

『流石に大事なの。国防に関わるの』

『同意』

『では、各々職務に戻るにゃ。対策についてはミツバと双鈴のやつと協議して決めるにゃ』

『了解なの』

『了解』



 接続、解除――




■ □ ■ □ ■



 狭苦しいマンションのエレベーターの中。

 二機のロボットは並び立っていた。

 一瞬、動作が不安定だったナナを心配したイツキが、ナナに呼び掛ける。


『ナナちゃん、どうしたんですの?』

『ちょっと立ち眩み』

『新型視覚デバイスのキャリブレーション不足ですの?』

『そうみたい。仕事を急かしすぎた』


 ナナの新しい瞳――紫の瞳が、ゆっくりと明滅する。再キャリブレーションを行っているようだ。


『もう、気を付けてくださいですの。また壊れたりしたら、”あの”お客様が悲しみますの』

『…そうだね。気を付ける』


 ナナは、いつもの語尾をつけずにそう言って、イツキに微笑んだ。


『気を付けるね…――イツキちゃん』


 エレベーターの扉が開いた。

 エントランスに歩み出た二機は、エレベーターを待っていた女性と入れ違いになる。

 ナナはいつもそうするように、マンションのネットワークを介して、すれ違った女のARデバイスとリンクしようとした。

 だが――そのアクセスは弾かれる。

 現在稼働している全てのロボが接続することで生まれた集合的知性は、この時初めて”人間以外に”拒絶された。

 女の疲れた顔が、閉まるエレベーターの奥へと消えていく。


『―――…』

『ナナちゃん?』


 突如振り返り、閉じたエレベーターの扉を凝視する妹を、イツキは不思議そうに見つめた。

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私、ロボだから何があっても動じません! ささがせ @sasagase

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