3-10 Ginevra de' Benci



───会場で何があったかは分からないが、マキシマとアレクのヘッドセットには、ワイルドウイング組員からイエローフラッグ解除の指示が聞こえた。


10からのカウントダウンの後、マキシマはギアを下げてクラッチを繋ぎ、そしてアクセルを踏み込んだ。


アクシデントの前と状況は等しく、後方からカマロに煽られ始める。


イエローフラッグの最中に南部の高速セクションを抜けていたために、レースの再開地点は西部のオーバルコーナーの入り口だ。


右から左へ、体を貫く横G。


コーナーをクリアしながらタコメーターとスピードメーターが上昇していく。


パーチェの真横、ホームチェックを踏んだ。


エンジン音でも掻き消せぬほどの歓声が車内にまで届く。


そして歓声がドップラー式に遠ざかっていく。


このコーナーを回り切れば再び北部のコーナーセクションだ。


一周目と違うのは自らがポールポジションであるということ。


そうでなくても一周目でパスができた程度にはカマロとはコーナリング性能に差をつけている。


カマロの走行ラインに影響されない分、この周のほうがさらに有利だ。


まもなくオーバルが終わる。


短いストレートののち、すぐに直角の左が来るだろう。


横からのGが前からのGに安定した。


そして、左。


瞬くほどの秒間で右へフェイントをかけ、そして一気にハンドルを左に回し切り、大胆にインを突く。


また少しの直線を挟んで緩やかに左へ煽り、鋭く直角の右、そして間を置かず45度左。


ミラーにはまだカマロがいる。


振り切れない。



「……クソッ……!」



コーナーセクションの折り返し、北部の頂点となる直角の右。


悪くないはずだ、このライン取りは。


プラクティスの時よりも速度範囲は上だ。


間違いない、カマロは一周目に抜いていた。


デレクは全力のドライビングをしていたわけではなく、わざと僕に前を走らせた。


45度の左、直角の右。


短いストレート。


マキシマはハンドルに後付けされたニトロの発動ボタンに自然と伸びる親指を制した。


こんな短い直線でニトロを使うなど馬鹿か。


しかしその意志とは裏腹に身体が苛立ちを覚えている。


直角の左でコーナーセクションを終え、元のオーバルへ。


ポジションは保ったが、差は広がっていない。


一周目で分析したコーナリング性能の差を考慮すれば、もっとエクステンドが開いていていいはずだった。


コーナーセクションは終わった。


東部の緩いオーバルコーナーに入る。


この180度の大きなコーナーの次は、長いストレートに、西部のオーバルコーナー90度。


全て高速セクションだ。


カマロがアクセルを全開で踏んだなら逃げ場はない。


頼みの綱はこのニトロしか、ない。


追い詰められている、精神的に。


前を走っているのに、追い詰められている。


オーバルコーナーはあと半分。


……何が聞こえる。


エンジン音混じりの異音は、コーナーの出口に向かうにつれ大きくなってくる。


銃声だ。


ヴィリスの処理がまだ済んでいなかったのか。


しかも銃声はかなり激しい。


間違いなく銃撃戦はこのコース上まで及んでいる。


場所はおそらく、南部の長いストレートのどこか。


厄介だ、こちらはただでさえ勝負どころのコーナーを残していないのに。


……いや、待て。


コーナーを抜けてコースの向こうで繰り広げられている銃撃戦を視界に捉えた瞬間、マキシマの脳内に電撃が流れた。


パイロンだ。


ヴィリスとワイルドウイングの戦闘員がパイロン状にコースに広がっている。


カマロにとっては、これは相当に大きな障害だ。



 

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