3-9 Ginevra de' Benci



《だが現時点では忌まわしきことに、未だ神の仕業と天を崇める者もいる。我輩は彼らへの皮肉の意味も込めて、この人災の犯人を“神”と呼称するである》



それはJVがクラウドストレージのプロフィール欄に記載している文面と全く同じ。


文言の内容よりも、その前置きは彼女がなりすましの類ではないことを慣習が察することに意味合いがあった。



《全てのモノリスに刻まれるようプログラミングされた、なぜか人類が認識可能な文字。なぜか石油に似た性質などという地球上生命体に都合の良い資源。なぜか人類だけを殺して回るヴィリスの生態。神は人類だけを滅ぼすことを試みたと我輩は見ているである》



ヒューガ、レオ、ともにその仮説には頷く。


メディオの指針はワイルドウイングの指針であり、ワイルドウイングの指針はJVの指針、つまりメディオの指針はJVの指針。


群衆はさらに耳を傾けた。


世界の死が人災だなどと測るJVのその仮説と、ストリートレースがどう結びつくのかを。



《知っての通り、我々ワイルドウイングやSSGなどの組織を中心に、ストリートレースを始めとしたアクティビティ達が地球上の各地で興隆している。そしてそれを中心に現地フェス、ライブ配信、SNSはこの世界に光をもたらす。その光から貴様らは実感していることだろう。“生きている”という実感を。世界は死せど、我々は死さぬということを》



オーロラビジョンに映っていたヴィリスの群れが倒れ始めた。


スーピーカーから溢れ出す銃声、ヴィリスの断末魔。


現地にワイルドウイングの精鋭部隊が到着したのだ。


ワイルドウイングの紋章を背負ったアーマーとアサルトライフルを掲げる彼らの勇姿に、ライブ映像のコメント欄、クラウドストレージのタイムライン、群衆の歓声という順でボルテージが回復を始めた。



《よく聞くがいい、メディオの同志達。ストリートレースは続行するである。世界の死を乗り越えた我々にとってヴィリスなど恐るるに足らぬ。神に見せしめるのだ、我々が生きているということを》



銃声と、歓声と、ライブ配信のスーパーチャットが会場を覆う。


ヒューガはレオの横顔を見た。


珍しく見た彼の僅かな笑みを、ヒューガは少し嘲笑し、そして見なかったふりをした。



「レオさん、準備に取り掛かったほうがよさそうですね」


「分かってる」


「察しの良さから育ちの良さまで感じられますね、素敵です」


「うるせえよ」










《さあ貴様ら、再びレースに刮目するがいい。イエローフラッグ解除である》










大歓声、銃声、そしてそれらを上回るほどに吠える、カマロとインプレッサのエンジン音。


オーロラビジョンの中で、2台は果たし合いを再開した───。



 

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