2-16.Madonna of the Carnation



SSG……この世界において、その名を知らぬ者はいない。


それどころか、この世界にいる人間は一人の例外もなくSSGの恩恵を受け生きながらえている。


ワイルドウイングもSSGが目を付けて提携を組む地方グループの一つだ。


その立場ゆえSSGを通し世界中の情報を手にしているJVは、メディオとその周辺ガイアの現状を語った。


メディオがエネルギーを他ガイアに輸出しているのと同じように、各産業物を他ガイアから輸入していること。


それゆえワイルドウイングのような世界の死以前から非合法の荷物を運ぶトランスポーターグループが現在の覇権を握っており、SSGが各グループに提携を申し出ているということ。


SSGによるネット界の支配、ワイルドウイングの地区統治と輸送業を活かしたメカトロニクス、そしてジェネレーターの存在の三点が相互に作用した結果生まれたのがストリートレースであるということ。



「我輩がメディオのアイコンにストリートレースを選んだのは、主役を自動車にする為である。あえてエネルギー効率の悪いイベントを繰り返し開催することで、レア・ライブを見ている者共に復興を想起させることができる」


「改めて考えると、なぜあれだけ車を走らせられるんですか? ガソリンが必要ですよね?」


「レオ」


「ああ。俺達レーサーは週一回、レースの後にワイルドウイングからガソリンの提供を受けてんだ。トップランカーほど多くのガソリンが貰える仕組みだな。新人のテメエはいつ貰えるようになるか知らねえけどな」


「ヒューガは来週から貴様と同等の燃料を与える手筈である」


「……ふんっ」


「ありがとうございます、拝み倒します。でも、ジェネレーターで生み出しているのは電気ですよね? なぜガソリンが潤ってるんですか?」


「うむ、そこが我々のジェネレーターが崇められる所以であるな。そもそも我々ワイルドウイングは“燃料”とだけ呼称しているである。“ガソリン”は旧世界の俗称でしかない」


「あ……? じゃあありゃあガソリンじゃねえのか?」



レオの記憶によぎるのは、昨晩のレースでは貰い忘れていたポリタンク。


先週のレース後にワイルドウイングの構成員がポリタンクに詰めていた黒い液体は、長年ガソリンとしか思っていなかった。


だが、ヒューガの言うことも分かる。


このガソリンをどこから仕入れいているのだろうと疑問に思ったことはレオにも経験がある。



「そもそもの話、発電機(ジェネレーター)と呼んでいるが、厳密にいえば電気を作っているのはジェノバの火力発電所である。メディオで生産しているのはその動力源……つまりは“石油に似たような物”であるな」


「石油に似たような物、ですか?」


「ジェネレーターとは、発電機ではなく抽出機である。世界の死とともにヴィリス化した人間の遺骸を放り込むことで、石油に似た化学式に変換されるのであるよ」


「はぁ!? じゃあ俺たちの車は、人間の死体を使って動いてるってのか……!?」


「うむ。平たく言えばそうであるな」



青ざめるレオ。


それに対してタブレットのメモ書きを見ながら言葉を連ねていくJVは、どこまでも無機質な顔をしていた。


もがき苦しんだ末の死体よりも、死体のような顔をしている。


目の前の小さな女が死したメディオのトップにいるという実感が、少しずつ湧いてくる。


 

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