1-1.Annunciazione



───30分前、欧州上空約2,500キロ。


通信衛星ウラヌス3・第547号から見下ろすユーラシア大陸は、2年前を境にとこしえの闇に包まれた。


しかし肉眼で数えられるほどの数の光、その中でも特に一つ。


イタリア・ロンバルディア州メディオの中心部だけは、今も変わらぬ夜の輝きを放っている。


メディオ中心部のさらに中心、センピオーネ公園北西端の広大な円形の石畳では、特設のステージに千人近い人間が集結している。


巨大なオーロラスクリーンをバックに、巷のライブストリーミングで人気を博す仮面のロックバンドが音を奏で、観衆は音に乗り、昂る感情に任せて叫ぶ者もいれば踊り狂う者もいる。


ステージから少し離れたイベントブースには色とりどりに飾り上げられたカスタムカーが幾台も展示され、その周りにはアフターマーケットの社名を冠する横断幕が誇らしげに軒を連ねていた。


毎週土曜の夜20時、メディオでは必ずこれが起こる。


いや、起こらねばならない。


ロックフェスとオートサロンを融合させたこの祭典は、死したメディオへ生の息吹を与え続けているからだ。




曲は間奏に入り、ステージ袖のDJブースに登る一人の男。


純白のダッフルコートと純金のネックレス、そして毎日色の変わるアフロは、彼が小柄であるのを忘れさせるほどに仰々しい存在感を放っている。


今日のアフロは黒と白のゼブラカラーを選んだらしい。



《アー、マイクテス、マイクテス、オーケー。テメェら、待たせたなァ!!!!!!!!》



彼がマイクを手にした瞬間、再び歓声が上がった。


ジャンルイジ・ペシー、“ジジ”の愛称で通っている彼こそが、このイベントの創生当初からのメインパーソナリティーだ。



《俺のフォロワーなら分かってるだろうが、今日は間違いなく、“世界の死”以降では最高に熱い夜になる。テメェら、準備はできてんだろうな!?》



「Tonight's field」の文字と共に、巨大スクリーンの映像がブラックアウトする。


そして15分割にされた画面が一つずつ、煌々とした松明が灯り、それぞれ交差点と曲がり角のライブ映像を映し出す。


いいや、今やこの景色は交差点だの曲がり角だのではない。


コース。


この毎週行われるイベントのメインプログラムは、死したメディオを舞台としたストリートレースだ。



 

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