愛を伝えることができたならば

明日野もこ

第1話

私はここに居ようか悩んでいる。

今すぐにでも,逃げ出したい気分である。

それでも,ここにいるのは君が来てくれるから。

君は,私に初めて気づいてくれた人で,私と初めて話してくれた。私は,ものすごく嬉しかった。

あれは,私が小学1年生になって,クラスに馴染めてなかった。そんなある日のことである。私は1人で学校のグランドに出て端っこでみんなが遊んでいるのを見ていた時君は話しかけてくれた。

「なんで,ここにいるの?みんなあっちにいるよ」

「私は,あの中には入れないんだよ。みんなみたいにノリとかそういうの良くないから」

私は,その時まで本当にそう思っていた。

「違うよ。そんなんじゃないと思う。だって,僕が君に話しかけようとして,みんなに言ったんだけどみんな話しかけてくれるのって喜んでいたから」

「ほん…とうにそう言ったの?」

「そうだよ。僕たちは君と遊びたかったんだ。だけど,君はずっと端っこにいるから,僕たちは避けられているのかなって感じてたんだ」

「そうなんだ。それだったら,私みんなの方に行く」

「一緒に行こう」

晴翔はそう言って,私の前に手を出して来た。私はその手を握ってみんなの方へ行った。

「えっと…」

私が出す言葉に迷っているとみんなが話してくれた。

「彩葉ちゃんってなにが好きなの?」とか「ずっと話してみたかったんだよね」とかたくさん話してくれた。

「そっそうなんだ。私は絵書いたり,本読んだりするのが好きだよ」

「へぇ,すごいね」

私はその時,ついて来てよかったなと思った。それから少しして,学校のチャイムがなってしまった。

「明日は彩葉ちゃんも一緒に休み時間遊ぼうね」

「うん」

私は,その日初めて,友達と約束した。

数日後

私は,あの日からクラスの友達と一緒に休み時間を過ごすことになった。

その日もグランドに出てボールで遊んでいた。

「彩葉ちゃんって足速いよね」

そう言ったのは,私の出席番号の後の雫ちゃんだった。

「そうかな?そんなことないよ」

と言いつつも私は喜んでいた。

そんな私に「俺より遅いけどな」と水を指すように言ったのは,優馬くんだった。

そして,私に話しかけてくれた翔太くんが「いや,女子の中だったら速いよ」と言ってくれた。

「そうだよ。彩菜ちゃんは速いよ」

「いや,遅い」

「そんなことないもん」

「そんなことあるんだよ」

これが雫ちゃんと優馬くんのいつもの会話だ。何故か,2人はいつも対決している。というのも,2人は小さい頃の幼馴染だそうだ。

「2人って仲良いよね」

私が2人にそう言うと2人は声を合わせてこう言った。

「そんなことないよ」

「そんなことある訳ないだろ」

それを聞いて翔太くんと私は笑い出した。

「なにがおかしいんだよ」

「やっぱり,2人って仲良いなって思って…」

「仲良いよな。本当にお前ら」

そんな話をしていると,2人も「まぁな」,「そうかもしれない」とか話していた。

そんな毎日の中で私はみんなの好きなことや嫌いなことをたくさん知っていった私は,友達がいるってこんなに楽しんだと言うことに気づいた。

私の世界はあの日から色づいていったのだ。

あれから数年

「この花綺麗だね。ねぇそう思わない彩葉ちゃん」

学校の帰り道に花を見つけた。

「うん。すごく綺麗。なんて花なんだろう?」

「なんだっけ?調べてみようよ」

「うん」

私は家に帰ってさっそく調べてみた。その花は,パンジーという花でさまざまな色をしている花だった。

次の朝,私は雫ちゃんと待ち合わせて学校へと行った。

「あの花パンジーだったね」

「うん。いろんな花があって綺麗だなって思ったよ」

「花言葉も色で変わるっていいなって思った」

「わかる」

そんな話で盛り上がっていると後ろから優馬と翔太がやって来た。

「おーい」

「おはよう。雫と彩菜」

「おはよう。翔太」

私は少し恥ずかしくなりながら言った。そう私は最近,翔太が好きなことに気づいたのだ。翔太はそんなことないんだろうなと思う…

「彩菜,なに考えてるんだよ」

私の方へ向かって,ニヤニヤしながら話しかけて来た。

「なにも考えてないよ。それより2人は今日早いね」

「まぁな。ちょっと学校で用事があって」

「そうなんだ。じゃあ一緒に学校行こう」

「そうだな」

私たちは一緒に学校へと向かった。

その日の休み時間。

「ねぇ,彩菜ちゃんって翔太のこと好きでしょ」

「そんなことないよ…そう見える?」

「見えるよ。やっぱり好きなんだ」

「そっそうかもしれない」

私は誤魔化すしかなかった。

「じゃあ,いつ告白するの?」

楽しそうに雫ちゃんはしゃべって来た。

「そっそんなの,できないよ。私なんかが」

「そんなことないよ。彩菜ちゃんかわいいよ」

「そうじゃない。翔太が私なんかをそんなふうに見てないって…こと」

「それだったら,私が探ってみようか」

「いいよそんなことしなくて」

私がそう言ったのにも関わらず,雫ちゃんは翔太に聞いてきてた。

「翔太,今好きな人いないって言っていたけど,あれはいる顔だよ。チャンスだね。彩菜ちゃん」

「そんなことないと思うけど…」

「そんなことあるって」

そんな話を私はしたけど,それからもずっと私は翔太に言えないのだった。

そして,その日来てしまった。その日は塾で疲れていて,前を見ていなかった。私は車に轢かれて死んだのだ。

私の葬式では,翔太も雫ちゃんも優馬も泣いていた。私は,みんなと一緒にいてよかったなと思ったと同時にみんなともっと一緒にいたかったとも思った。そして何より,翔太に想いを伝えたかった。

そう思ってしまったせいか,私はそこから動けずにいる。

そんなある日のことである。その日は私が死んでから1年経った命日だった。私の前に翔太が現れたのだ。

その手には花があった。

「彩菜,もしそこにいるんだったら聞いてほしい…なんている訳ないよな」

「いるよ」

なんて私は答えたけど,翔太になんか聞こえていなかった。当たり前だ。

「俺は,彩菜にずっと言いたいと思っていたことがあったんだ。それは…彩菜のことが…好きってこと。初めて会った時はどこか,寂しそうにしてるなって思って声をかけた。だけど,だんだん彩菜のいいところだったり、苦手なことだったらを知っていくうちにそれだけじゃなかなった。そして,この気持ちがなんなのか分からなくて悩んでいたそんな時に彩菜はいなくなってしまった。そして,最近気づいたんだ。これは…この想いは『好き』っていうものだって。でも,もう遅かった。彩菜はもういない。どうすればいいんだろうな」

翔太は涙ながらに私に言ってきた。

私はというと,言葉を失っていた。

「……えっ?そうだったんだ。なら,私翔太に言えばよかった」

「だけど,俺はずっと彩菜がいるって思ってるんだ。どこかに…いる訳ないのに。なんで,話してんだろうな俺。あっこの花は,ローズマリーって言って君に渡したいものなんだ」

それを置いて翔太はいなくなってしまった。

私は,これで翔太に会うのが最後だと思った。それでも,私はそこに居続けた。


1年後

その日も翔太は私に会いにきた。その日も手には違う花を持っていた。

「1年ぶりだね。久しぶり。なんか今日だったら彩菜に会える気がして…あれから俺はまだ前に進めそうにないんだ。君はなんていうのかな?前に進めっていうのかな」

「そうなんだ…私は前に進んでほしいって思ってるよ」

私はそう言ったけど,翔太にはやっぱり聞こえなかった。

「じゃあ,これ置いとくね」

悲しそうな表情で置いていった。私は,もう一度だけ,翔太と喋りたいと願った。

しかし,私は1年喋ることはできなかった。

また翔太と会ったのは私の命日だった。

「彩菜はそっちで元気にしているか?俺は,少しずつだけど,前を向けている気がするよ」

「そっそうなんだ。私は今も元気だよ」

「この声って…彩菜?」

「聞こえてるの?翔太」

「うん。姿は見えていないけど…」

「1つだけ話させて…私も翔太のことが好きだったよ。ずっと言おうと思っていたけど…言えなかった。でもね,翔太は生きていて,私は死んでいるだから,私のことは忘れて前を向いて生きて。お願い」

「そんなこと言われても…俺は…」

「できるよ。翔太だったら」

「そうかな?」

「うん。そうだよ」

「じゃあ,俺からひとつ約束,彩菜の命日に会いにきていい?そしたら,俺は前を向く。そして,俺にまた話しかけてよ」

「わかった。そうする」

「ありがとう。あっそうだ。この花は,知ってるよね。ひまわりだよ。なんで,これにしたと思う?」

「わからないよ…教えて」

「内緒。なんかそっちの方がいい気がする。じゃあまた来年」

「うん。また来年」

そうして,翔太はその場を立ち去った。

私はその後,その場を離れたのである。願いが叶ってしまったからだ。

その後,戻ってしまってからは翔太に会えないと思っていたが,その日だけは翔太のところに行けることになった。

それから私は毎年,翔太が来るのを楽しみにしている。

「1年ぶり…」

「最近はどう?」

そんな会話だけど,私には大切な会話である。

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