童話『いなくなったくまさん』

川住河住

童話『いなくなったくまさん』

 あるところに、ひとりのおんなの子がいました。

 おんなの子は、おとうさんとおかあさん、そしてぬいぐるみのくまさんといっしょにくらしています。

 くまさんは、おんなの子が5さいのたんじょうびに、おとうさんとおかあさんからもらったものです。

 おんなのことくまさんは、でかけるときも、ごはんをたべるときも、ねむるときも、ずーっといっしょです。



 ある日、おんなの子がことりさんのこえで目をさますと、くまさんがいないことに気づきました。

 ベッドの下も、つくえの上も、おもちゃばこの中も、どこをさがしても見つかりません。

 おんなの子は、まどのそばにいたことりさんにきいてみます。

「ことりさんことりさん。わたしのくまさんをしらない? どこかへいってしまったの」

「こわいこわい」

 ことりさんは、くまさんときいてこわくなり、なにも言わなくなってしまいました。

「いいえ。こわくなんてないわ。わたしのくまさんは、とってもやさしいのよ」

「やさしいやさしい?」

「くまさんは、ことりさんのようにきれいなこえをだせないわ。でもね、いつだってわたしのはなしをきいてくれるやさしい子よ。かなしいときも、うれしいときも、ずっとそばにいてくれるの」

 それをきいたことりさんは、くちばしをうごかしながらつたえます。

「あっちあっち。くまさんあっち」

「ありがとう。ことりさん」

 おんなの子は、ことりさんといっしょにそとへでます



 おんなの子とことりさんは、もりにやってきました。

 みどりのはっぱがたくさんついた木や、せのたかい草がたくさんはえています。

 けれど、木の下をさがしても、草むらをさがしても、くまさんのすがたはありません。

「いないいない。くまさんいない」

 ことりさんは、空をとびまわりながら言います。

「くまさんは、どこにいったのかしら」

 歩きつかれたおんなの子は、草の上にごろんとねころがります。

 そのときです。木の上にしっぽのながいねこさんがいることに気がつきました。

 おんなの子は、すぐに立ち上がって大きなこえできいてみます。

「ねこさんねこさん。わたしのくまさんを知らない? どこかへ行ってしまったの」

「わるい子わるい子」

 ねこさんは、くまさんはわるいものだと思い、なにも言わなくなりました。

「いいえ。わるい子じゃないわ。わたしのくまさんは、とってもいい子なのよ」

「いい子いい子?」

「くまさんは、ねこさんのようにながいしっぽはないわ。でもね、くまさんには、まるいボタンのひとみがふたつあるのよ。わたしがクッキーをつまみ食いしようとしたら、けっして見のがさないの」

 それをきいたねこさんは、長いしっぽをうごかしながらつたえます。

「あっちあっち。くまさんあっち」

「ありがとう。ねこさん」

 おんなの子と、ことりさんと、ねこさんは、くまさんをさがすために森をぬけていきます。



 おんなの子の目のまえには、花ばたけがひろがっています。

 あかやきいろ、あおやむらさきといった色とりどりの花がいっぱいさいています。

「わあ!」

 おんなの子は、うれしそうな声をあげてはしり出しました。

「きれいきれい」

「すごいすごい」

 ことりさんとねこさんも、おんなの子のあとをおって花ばたけへ行きます。

 するととつぜん、白い花がとび出してきました。

 でもそれは花ではなく、うさぎさんでした。

「うさぎさんうさぎさん。わたしのくまさんを知らない? どこかへ行ってしまったの」

「つらいつらい」

 うさぎさんは、くまさんといるのはつらいと思い、なにも言わなくなりました。

「いいえ。つらくなんてないわ。わたしは、くまさんといっしょにいられてしあわせだもの」

「しあわせしあわせ?」

「くまさんは、うさぎさんのようにまっ白な毛じゃないわ。でもね、くまさんのおなかには、まっ白なわたがたくさんつまっているの。くまさんのおなかに顔をうずめるとね、とってもしあわせな気もちになるのよ」

 それを聞いたうさぎさんは、長い耳をうごかしながらつたえます。

「あっちあっち。くまさんあっち」

「ありがとう。うさぎさん」

 おんなの子とことりさん、ねこさんとうさぎさんはならんで歩きます。



 おんなの子とことりさん、ねこさんとうさぎさんが花ばたけをすすんで行きます。

 いろいろな花がさいている中に、とっても大きなちゃいろの花がさいています。

 けれどそれは、花ではないようです。

 さてさて、いったいなんでしょうか。

「あっ! みんな、あれを見て!」

 おんなの子が気がついてこえをあげました。

「くまさんくまさん」

「くまさんくまさん」

「くまさんくまさん」

 ことりさんも、ねこさんも、うさぎさんも、気づいたようです。

 そう。大きくて茶色い花は、ぬいぐるみのくまさんだったのです。

 みんなは、くまさんのもとへ、いそいでむかいます。

「くまさん! わたしのくまさん! みいつけた!」

 おんなの子は、くまさんのふわふわもこもこのおなかに、とびこみました。

 けれど、くまさんは、せなかをむけてしまいます。

「くまさん。どうしていなくなったの? どうしてこんなところにいるの?」

 おんなの子は、せなかをむけたままのくまさんに聞きます。

 ことりさんも、ねこさんも、うさぎさんも、しんぱいそうにしています。

「こわいこわい?」

 くまさんは聞きます。

「いいえ。怖くなんかないわ。くまさんは、とてもやさしい子よ」

「やさしいやさしい」

 おんなの子も、みんなも、こたえます。

「わるいこわるいこ?」

 くまさんは聞きます。

「いいえ。わるい子じゃないわ。くまさんは、とってもいい子よ」

「いいこいいこ」

 おんなの子も、みんなも、こたえます。

「つらいつらい?」

 くまさんは聞きます。

「いいえ。つらくなんてないわ。くまさんといられて、わたしはしあわせよ」

「しあわせしあわせ」

 おんなの子も、みんなも、こたえます。

「いっしょいっしょ?」

 くまさんは聞きます。

「ええ。くまさん、これからもずっといっしょにいましょう」

 おんなの子はこたえます。

「いっしょいっしょ?」

 ことりさんと、ねこさんと、うさぎさんが聞きます。

「もちろん。ことりさんも、ねこさんも、うさぎさんも、ずーっといっしょよ」

 おんなの子は、両手をひろげてみんなをだきしめました。

「さあ、かえりましょう。おとうさんとおかあさんがおうちでまっているわ」

 みんなでかえろうとした時、そこはもう花ばたけではありません。

 いつのまにかベッドの上にもどっていました。

 どうやらおんなの子は、ずっとゆめを見ていたようです。

 ぬいぐるみのくまさんは、ベッドからおちて、ゆかでねむっていました。

 おんなの子は、ホッとしたような、ちょっとガッカリしたような気もちになりました。



 その時、ふとんの中になにかいることに気がつきました。

 おんなの子がゆっくり、そーっと、そーっと、ふとんをめくります。

「まあ! あなたたちだったのね!」

 なんとそこにいたのは、ぬいぐるみのことりさんと、ねこさんと、うさぎさんでした。

「ごめんなさい。くまさんが来てから、あなたたちはずっとおもちゃばこでねむっていたから、きっとさびしかったのね。だから、わたしにあんなゆめを見せたんじゃないかしら?」

 どこからか、こえが聞こえてきました。

「さびしいさびしい」

 おんなの子は、きょろきょろまわりを見ます。

 けれど、へやの中にはだれもいません。

「いいえ。さびしくなんかないわ。これからは、ずっといっしょってやくそくしたでしょ。ことりさんも、ねこさんも、うさぎさんも、くまさんも、ずっといっしょにいましょう。ね?」

「いっしょいっしょ。ずっといっしょ」

 こんどは、うれしそうなこえが聞こえてきました。

「さあ、おとうさんとおかあさんに朝のあいさつをしましょう。ゆめで見た話をしなくちゃ」

 おんなの子は、みんなをだきしめてへやを出ていきます。



 おしまい

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童話『いなくなったくまさん』 川住河住 @lalala-lucy

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