第5話

中野をネコカフェに誘うと決めた次の日。


すなわち今日。


言い換えればチョメチョメ事件の二日後だ。


今日はうれしいことに晴れている。


でも残念ながら午後から雨が降るかもしれないと天気予報で言われていた。


THE・悪天候二日目になるかもしれない。


梅雨の時期でもないのに嫌なことだ。




じめじめと湿気の多い教室の中で授業中も休み時間も俺はどう誘うか、いつ誘うかを考えていた。




まずどう誘うかについてだがこれは直球勝負しかない気がする。


変に取り繕っても中野には見透かされそうな感じがする。


俺の直感がそう警告している。




次にいつ誘うかについてだが昨日と同じように昼休みなんて甘い考えは持っていない。


昨日はたまたま中野がトイレに行くタイミングに合わせられただけで、今日もまたトイレに向かうとは限らない。


むしろトイレに行く可能性は低い方だろう。


なら放課後ということになるが、これまたそう上手くはいかない。


いつも中野はホームルームが終わるとものすごいスピードで教室を出て行ってしまう。


友だちと遊びにでも行っているのかとも思っていたが実は違うらしい。


中野の友達もどこに行っているのかよく分からないらしい。


どこで何をしているのかわからないと探しに行きたくても行けない。


俺も急いで追いかければもしかしたらいけるかもしれないが。




手詰まり。


今の俺は完全に詰んでいた。


正直考えが全然出てこない。


ノーアイデアとはこのことだろう。


ほんとに何も思いつかない。


諦めて投了でもしたいところだが投げ出すわけにもいかない。




そんな俺の浮かない顔を見るなりニヤニヤしながら近寄ってくる影が一つ。




「おーい翼どうした?なんか今日暗いなお前」




「奏斗か。理由分かってんでろ。煽りにでも来たのか?」




「あちゃ~。バレてましたか」




「はあ~。俺の気も知らずに」




「めんごめんご。んでどうするん?」




「・・・とりあえずは放課後とつろうかなと思ってる」




「おーいいね。ナイス作戦。確かに昼休みは無理そうだしな」




「頑張ってみるわ」




「腹立つほどにイケメンのくせに妙にビビりだよなお前」




「あほ。ここまでスペック上げてパーフェクトやってるんだからそうもなるっての」




「さよか。イケメンは辛いね~」




「・・・・なんか無性に腹立つなお前。一発殴らせろ」




「花に申し訳ないからキャッカデース☆」














そうこうしていると放課後。


悲しいかな。


時間というものは止まってくれない。


どれだけ危機的状況でも今日も地球は動いている。




さてこれから先生の話が終わったら話しかけに行く予定だが、緊張する。


ちなみに昼休みは思っていた通り無理だった。


ずっとクループで話していた。


案の定トイレにも行かなかった。




「え~つーわけで以上。ホームルーム終了。またなー」




けだるそうな担任、荒川 静香。


通称あらかわちゃんの号令が終わると同時に俺は急いで机の中の教科書をカバンに突っ込む。


それと同時に流れるように中野をみると彼女は友達と雑談しながら帰宅の準備をしているため、俺の方が遅れるということはない。


つまり勝った。


あとは中野が一人になるのを待つだけだ。


これでネコカフェの件も片付きそうだ!!


神は俺を見捨ててなかったぞ!!


やったぞーーーー!!!




「あ、神谷は残れ」




・・・・・・・・ん?


え?今なんて?




「おい、なに呆けた顔してんだ」




なーんだ俺の聞き間違いか!


まさか残れとかこのタイミングで言うはずないもんね!


さーて教室の外で中野でもまっとこ!!




「おい。残れって言ってんだ」




ハハハ。


今日も赤いジャージと黒髪のポニテが最高に合ってますよ!


まさかその美貌で27年間彼氏無しなんて信じられませんよまったく!!


それでは!!!




「おい。いい加減にしないとお前の睾丸叩き割るぞ」




・・・・・・・・・え?


まさかの俺ですか?


俺なんですか?


ハハハ。まさかね・・・。




ギギギ。


俺は壊れたおもちゃのように首だけを教卓の方へと向ける。


そこには俺に熱い視線を送ってくるあらかわちゃんの姿が・・・・。


いや、あれは熱いどころの話じゃないな。


燃えるわうん。


跡形もなく燃えそう。


燃えカスすらも残らないんじゃないかっていうぐらいに燃え尽きそう。




「こい」




「ふぁい・・・・・」




まさに蛇ににらまれた蛙状態。


実は言霊使いなんじゃないのこの人。


ファンタジーの世界に帰りなさいよ。




「お前にはやってもらうことがある。ということでついてこい」




「いやですね。そのぉこれから用事が・・・・」




「却下だ」




「そんなご無体な!?」




「あの、先生。俺が代わりにしましょうか?」




ナイスフォロー奏斗!!


持つべきものは奏斗だよ!




「だめだ。こういうときこそ学級委員長の出番だろ」




「おぐうぅ!!」




ちくしょう!


ほんの気の迷いで学級委員長になったのが間違いだった!!


奏斗が変に唆のかしたから!!


あいつ結局副委員長にもなってないし!!




「ちなみに副委員長は今日は欠席だ」




「知ってますぅ!!」




「ならとっとと来い」




「はい・・・・・・」




あらかわちゃんの数歩後ろを歩く。


正直あらかわちゃんの仕事内容よりも中野をどうするかの方が断然重要なことだった。


ほんとは今頃中野にオーケーの返事をもらってた頃だろうに。


この婚期逃しかけの職権乱用ババアめ。




「今何か失礼なことでも思ったかお前?」




「ははは。何をおっしゃいますか」




言霊使いの次はエスパーかよ。


なんでもありかよこの人。


某青いネコもびっくりだわ。




俺はこの燃え切らない思いをどうにかしてぶつけたいと思い、わずかな抵抗としてあらかわちゃんに楯突くことにした。




「あー、用事ってなにかなぁ。はっ!!もしかしてあらかわちゃんあまりに結婚できないから俺を襲って既成事実でも作ろうと!?」




「・・・・・・・・・・・・」




「まじかぁ。俺の初めてあらかわちゃんにかっさらわれるのかぁ。まさかの筆下ろしの日だったかぁ」




「・・・・・・・・・・・・」




そのままわざとたちの悪ーい冗談を言いながらついていくと職員室へと入った。


そのまま流れるようにあらかわちゃんの席へと向かう。




「えっ!!まさかの公開プレイ!?ハードルたっか!!」




そうして無事あらかわちゃんの席へとたどり着いた俺はあらかわちゃんの指の先が示す山積みになった書類を捉えた。




「ちっくしょおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」




こうして俺は書類の荒波に飲まれていったとさ。


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