第4話

中野真実を助けるためフェーズ1として中野にコンタクトをとることになっている今日の天気は雨だった。


THE・悪天候である。




キーンコーンカーンコーン


4時間目の授業の終了を告げるチャイムが鳴る。


クラスのみんなは短い昼休みを少しでも無駄にしないように号令が鳴ると同時に行動を開始する。




クラスの仲のいいグループで固まって昼食をとる人。


他クラスの友達と弁当を持って場所移動する人。


本校名物購買戦争へと駆け出していく人。


その様子は様々だ。




相変わらず小田倉は誰とも話さず教室を出ていく。


どうせ今からチョメるんだろう。


腹立たしい。




かくゆう俺は弁当を持って奏斗の前の席の椅子を拝借する。




「さて、翼。今日の昼休みは中野に突撃する予定だがどうだ?話の内容は決まったか?」




「いや、まだだ。どうせあの様子だとまだチャンスは来ない。待ちながら考える」




俺は横目で中野たちの女子のグループを見る。


全員ネイルをしていたり、ピアスをしていたりと派手派手だ。


聞き耳を立てるとグループメンバーの彼氏の話で盛り上がっているらしい。




「ちなみに悪いけどこっちはまだ中野についての詳しい情報は入手できてない。今日の放課後の作戦会議までには必ず用意するから今は軽くジャブを打つ感じでもいいぞ」




奏斗がウインナーを頬張りながら物申す。




俺は軽く考える。


話の内容など大体簡単なものでいいのだ。


無駄に気取ったりしたらそれこそ怪しまれる。


多分。




「無難に天気とか?」




「ご近所さんか」




「じゃ、じゃあ調子はどう?的な?」




「ナンパ師か」




「ご趣味は?とか?」




「お見合いか。いや、、、案外いいかもしれないな」




「え、まじ?」




「趣味から話が広がって連絡先とか交換できたら120点満点だな」




「おぉ。確かに」




口では納得した感を出しているものの内心では可能性微小だと感じていた。


そんなに簡単にいくなら世のナンパ師たちは苦労していないことだろう。




「まぁ、翼のルックスがあったら秒殺だと思うんだがな」




「あ、あぁ。上手くいくといいんだがな」




ここで俺は奏斗の言葉にうなずいては見せたものの少し確信していることがあった。


それは中野たち5人にとって俺の容姿など眼中にない気がするということ。




それはなぜか。


実はこの作戦を実行する前に俺は中野たち全員に一回ずつだが話しかけている。


だがその時の彼女たちは俺のことなんて目に入れてすらなかった。


きっと意識は小田倉に持っていかれていたのだろう。


心ここにあらずという感じだった。


そもそも催眠なんてかけてるんだ。


他の男に目移りすることなんてほとんどないだろう。


それこそ催眠を解除しない限り。




「そもそも催眠の解除の仕方分かってないよな」




「翼はヤッてるところを見たんだろ?何か変なところはなかったのか?」




「それがあまりに衝撃すぎて詳しいことは覚えてないんだよ。何も変なところはなかったと思うけど・・・」




「それもそうか。まぁ、そこ辺りも込みで聞き込みはしているからな。あまり望みがあるとは言えないが・・・」




「?邪魔でも入ってるのか?」




「邪魔も何も小田倉のプライベート関連についての情報がほとんど出てこない。そもそもあいつ友達がいるのかいないのかわからないからな。聞き出そうにも聞き出せない。そんな状況だ」




確かにあいつは友達いなさそうだ。


こんなことがなければ俺は小田倉の事なんて知るはずもなかっただろうしな。




「っとそうこうしてるうちに見ろ。中野が動き出したぞ」




チラッと横目で見てみると中野はグループの輪から1人で席を立ち、教室から出て行った。


トイレだろうか。


それとも他に何か用事だろうか。


とにかく追って話をしなければ。




「悪い。行ってくる」




「おう。いてら。健闘を祈る」




俺は残り2割程度残った弁当に蓋をして中野を追いかけるため教室を出る。




廊下に出ると中野が長い金色に染めた髪を揺らしながら歩いていた。


俺はすかさず声を張る。




「中野!ちょっといいかな!?」




俺の声に振り返った中野が首をかしげながらゆっくりと歩み寄ってくる。




「ん?神谷じゃん。どしたん?」




「あぁ。少し話がしたくてさ」




俺はものすごい勢いで頭を回転させる。


どういう話題にするのが一番の得策なのか。


なんの話をするのが一番食いつくのか。


そして脳の血管がはち切れそうなくらいの勢いの末にたどり着いた答えはこれだ。




「い、いい天気だね」




「いや、どっからどうみても悪い天気でしょ」




やっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!


めちゃくちゃ的外れなこと言ってしまった。


天気の話題とかいう恐ろしいほどになんの面白みのない話題に加えて天気を間違えるとかいう大失態!


しっかり働け俺の脳細胞よ!!


何のための昼ご飯だよ!?


甘々卵焼きの糖分はどこにいったんだ!?


腹か!?腹なのか!?


こんなことならおとなしく趣味の話題にでもしておけばよかった!


なんとかして挽回せねば!!




「しゅ、趣味とか教えてくれない?」




「はぁ?てかあたしトイレ行きたいんだけど」




「そこをなんとか!」




「いや、もれそうなんだけど。ボーコーが限界突破しそうなんだけど」




「お願いします!!」




「はぁ・・・。あんたさぁそんなしつこいと嫌われるよ。とりまトイレ行ってくるから来ないでね。じゃ」




そういうと中野は早足に俺の前から去っていた。




廊下に残された真っ白に燃え尽きた俺氏。


やってしまった・・・。


あろうことか取り入ようとして失敗するばかりか嫌われてしまったかもしれない・・・。


どしよ・・・・・。
















放課後。


俺の部屋で作戦会議をする俺と奏斗。


ちなみに今日は花ちゃんは委員会だそう。




「・・・・・という結果でしたはい」




俺は包み隠さず今日の失態を報告する。




「ぷっ...あははははは!!!翼お前おもろすぎだろ!?マジ腹いてぇ・・・」




目の前でここまで笑われるのもなんか腹立つな・・・。


いや圧倒的に自業自得なんだけども。




この笑いの空気を変えたくて話題を変える。




「てか、そっちはどうだったんだよ。なんか情報出たのか?」




「ひー脇腹いてぇ。ん?あぁーそのことについてなんだが」




なんか大物が来そうな気がしたので少し身構える。




「ほぼ出なかったわ」




「はぁーー?なら俺を笑えねえじゃんか」




「こーれだからしつこい男は。モテねえぞ?それにほぼって言ったろ?」




あ、確かにほぼって言ってる。


ということは・・・・?




「何か分かったのか?」




「あぁ。中野を誘い込めるかもしれない情報だ」




ごくり。


急に俺の口内の唾液量が増加した感じがする。


どうやら緊張しているらしい。




「そ、それは一体?」




「まず中野についての情報だがかなりのネコ好きらしい。野良猫を見つければ飛び掛かってしまうほどの。そして小田倉に関しての情報はほとんど出てこなかった。出てこなかったが・・・・」




「出てこなかったが・・・・?」




「唯一の情報としてあいつは極度のネコアレルギーらしい。そしてさらに最近近くにネコカフェが新しくオープンしたとの情報を花が仕入れた。つまりはそういうことだ」




「どういう・・・・あっ、なるほどな」




「これを理由に遊びにぐらいは誘い出せるんじゃないか?」




「そうだな。でも、1人で行くかもしれないぞ?」




「そこについても心配ない。そこのカフェ、カップル入場特典として普通は有料で時間制限のある餌やり付きの触れ合いが時間無制限になりさらにタダらしい」




「どんだけタイミングいいんだよ・・・・」




「ほんとにな。神様も味方してくれたりしてな」




なんとジャストタイミングな。


この機を逃すわけにはいかない。


明日早速誘ってみるか。


みるかじゃないな。


誘う。




「だが悪いことに催眠解除の方法は分からなかった。こればかりは探り続けるしかなさそうだ」




「そうか。分かった。でも、十分だ。さすが俺の親友。仕事ができて頭が上がらない」




「調子いいやつだなお前。とりあえずこれからは解除の方法を探りつつ、中野にコンタクトを取るしかないな。よろしく頼むぞ」




「あぁ。明日は絶対成功させるさ」




俺はすぐに頭の中で明日のシミュレーションを開始した。




というかネコ好きとか案外かわいいとこあんのな・・・・・。


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