第37話

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~北西の門前広場だった場所~


「なんなんだ…?あの変質者は…?」


クマールは、目の前の光景に困惑していた。

気持ちの悪いバケモノにまたがり、半裸の中年男がはしゃいでいるのだ。これを変態と言わずしてなんと言おう。


「やっぱりか…!あいつは…」


「なんだ貴様?あの変態を知っているのか?」


 ルーウィンは、変態を見て驚愕に身を震わせる。その様子を見たクマールはただ事ではないと思い、緩んだ気を再び締めなおした。


「あぁ…知っているとも…。勇者と共に倒しに行ったからな…。」


「はぁ?アレが魔王だっていうのか?あれはただの変態だぞ。」


 魔王と言う単語が飛び出し、空気が張り詰める。13年前、魔王が倒され世界が平和を取り戻したことは未だ記憶に残って居る。しかし、その魔王が生きていたとなれば、世界は再び恐慌の時代を迎えるだろう。


「あぁ…間違いない。なんで変態になったのかは分からないが…」


「あ?元からあんなじゃなかったのか?」


「元は、優しいやつだったさ…。少なくとも紳士だった。…たぶん。」


ルーウィンは、寂しそうに言った。そして、目の前の光景を見て自信が失われていったのか、言葉の最後に小さく付け加えた。


「だが、魔王は強大な力を持つと聞いたぞ?アレには、そこまでの力は感じられない。」


「おそらく、倒されて力の大部分を失ったんだろう。それでも、僕と同じぐらいには強いはずだよ。」


「あぁ?なら簡単だな。お前と俺でかかれば、楽勝だ。」


 クマールは、力強く言う。ルーウィンは目を丸くして驚いたが、直ぐに微笑んで返した。


「…っ!―――ははっ、そうだね!」


 二人は同時に飛び出す。

二本の銀閃が走る。どす黒い血飛沫が辺りへと飛び散り瓦礫の山を彩った。


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「お前ら、ソフィ、ヤマト、ピート、ユキか!?」


見知らぬイケメンは、間違えることなくヤマトたちの顔を見ながら叫ぶ。


『えっ、なんで俺らお名前知ってるの?怖っ…』

〈というか、メイビスだけハブられてるし…。〉


「なっ…!?ヤマト、俺だよ!俺!村で一緒に遊んでただろ!?」


『えっと…新手の詐欺ですか?対面だと意味ないと思うんですがね?』


「ちげぇよ!俺、モーガン!もしかして忘れたのか!?」


『いや、俺の知ってるモーガンはもうちょっと…』


そう言って、モーガンを騙るイケメンを見る。

短く切りそろえられた髪は黒く、がっしりとした身体は重そうな鎧を装着している。

端正な顔には、細かな傷跡がところどころ見えた。目はやや茶色がかり、モーガンの特徴によく似ている。


『なんだろ…パーツだけ見るとモーガンなんだよな…。あれ?ホントにモーガン?』


「だから、そうだって言ってるだろ!?」


『アレだよ。俺の知ってるモーガンはもうちょっとアホっぽくて、締まりのない顔をしてた。』


「お前、さらっと失礼なことを言うところは全然変わってねぇよな。」


『あっ、モーガンと言えば、ソフィg―――』

「あーあーあーあーあーあーあー!!!!」


 ヤマトがソフィへの想いを暴露しようとすると、察したのかモーガンは大きな声で叫び出した。


「うるせぇよっ!で、知り合いだったのか?」


「はぁっ…はぁっ…。あぁ、知り合いだった。」


『あぁ…あの反応はモーガンで間違いないな。』


 隣にいた盗賊らしき男にひっぱたかれるモーガン。その姿を見て、ソフィたちは唖然としていた。


「そんな…モーガンってもっと…もっとこう…」


「噓でしょ…?流石に信じられないかな…」


「一年…一年でここまで変わるか…?」


「なぁ、あの子たちはお前のこと知らないみたいだぞ。」


「ウソだろおぉ!?」


 モーガンは、衝撃をのあまり膝をついて叫んだ。


〈あっ、そうか。モーガンがまともな時って、俺以外見てないのか。〉

『ってことは、この人たちはお前の冒険者仲間なのか?』


「あ、あぁ…。あ、この爺さんは違うな。この人は、スラムであった人だ。」


 そう言って、4人の方を指す。

先程から全く喋っていなかったため、非常に影が薄かった人たちだ。


『あー、ヤマト・アールピジー・マジマって言います。よろしくっ!』


「おうっ、俺はユソウってんだ。よろしくな。」


 とりあえず、触角をピシッと立てて自己紹介をする。先程から、盗賊らしき男以外は身動き一つしていない。皆、目を見開いて口も半開きになっている。


『あの~…大丈夫です?』


「「「ローチが喋ってる!?」」」


三人は、声をそろえて叫んだ。


〈あぁ…またこの流れか…。〉


 ヤマトは、初対面では必ずと言っていいほどに人から驚かれる。当然だ。


『はいはい。喋れますよ~。俺は、元人間なのよ。転生させられて今に至るの。』


「「「いやいやいや…えぇ…。」」」


 毎度の様に事情を説明をする。説明をするだけで納得はさせられないが、既に面倒くさくなっているヤマトであった。


「はぁ…で、この先で何が起こってるんだ?」


『あぁ、キモイ生物とおっさんが暴れてる。』


「はぁ?それがあの爆発の原因か?」


『まぁ、間違っては無い。』


「いや、当たってもないのかよ。で、どうするんだ?」


『あぁ、キモいおっさんがソフィをつけ狙ってるから、どうにかして街の外におびき寄せて成敗したいんだ。』


「ロリコンの変質者かよ…。悪質だな。俺たちに何か手伝えることはあるか?」


『あー、じゃあソフィを守ってくれ。キモいおっさんは、それはそれはソフィにご執心だったからな。ソフィが捕まったら何をされるかわからねぇ。』


「何ッ!?よし、絶対に守り切る!」


 サクサクと話が進んで行き、周りは皆唖然としている。言葉と言葉の間にほとんど隙間が無く、口を挟もうにも挟み辛い。


「というわけだ、皆。行くぞ!」


「ちょっと待て!行くぞ!じゃねぇよ。何勝手に決めてるんだ。」


「そうだよ!まだ街の外におびき出すって決めたわけじゃないでしょ!」


 モーガンが勢いのままに指示をすると、ユソウが待ったをかける。それに乗じて、ユキも反対した。


「あれっ?もしかしてメイビス?」


「そういう貴方は姉上っ!?」


 そして、隣では偶然にも離別していた姉弟が再会を果たしていた。



◇◇◇


「よし、この作戦で行こう。」


『意義ナーシ。』


結局、10イール程話し合い、妥協策を出した。


それは、

1ソフィをマルボスの所へ連れていき、外へおびき寄せる。


2罠にかけ、袋叩きにする。


3あとはアドリブで。


という、あまりにも単純な、作戦とも言えないような代物だった。


発案者のモーガン曰く、

「ガチガチに策を練ったら不測の事態が起きた時に大きく瓦解する。それならば、ユルユルの策で突っ込んで、臨機応変に対処した方がいい。」

らしい。


『さて、じゃあまた後でなソフィ。』


「うん…!」


 餌役は、ソフィ、モーガンの2人。

 罠、待ち伏せ役は、その他という編成だ。


「いやー、ホントに大きくなったねぇ。」「やめてくださいっ!もう子供じゃないんです!」


 なお、会議の間中、セイアとメイビスは姉弟でずっとイチャイチャしていた。

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