第9話 ゴーカートと愛の告白!

「わ、わたしは良かったね」

「もう真莉愛呼びは定着させます」

「恥ずかしかったかな……」

 照れ照れの三人は意外にも肯定的だ。

「え。みんなそれで良かったのか……?」

 それで、というのはキスのことだ。

「だ、大丈夫よ、ねぇ?」

「は、はい!」

「う、うん!」

 言葉に詰まったように言いよどむ三人。

 きっとみんな優しいから、そう言ってくれるのだろう。

「ごめんな。みんな……」

「意図が伝わっていない!?」

 困惑の色を見せる明理。

「何? じゃあなんだ?」

「は、恥ずかしいから言わない……」

 ええ。恥ずかしいでしょうね。俺みたいな底辺ぼっちと友達と思われるのは。

「なんで怒っているんだよ、祐介」

「なんで、って……。いいだろ別に……」

「だから、なんで拗ねる?」

「別に……」

「やべ。おれにも考えていることが分からないぞ」

「幼なじみのわたしにも分からないよ」

「我との会話がおかしかったのかな?」

「そうじゃないです。私が変なことを言ってしまったせいです」

「それより次行くぞ」

 俺は話題を変えると、周辺地図を開く。

「どこがいい?」

「むぅ。なんだか話をそらされた気がするかな」

「だね。おれもそう思った」

「わたしはゴーカートに行きたい」

「そうですね。ぶっ飛ばしたい相手もいるし」

 俺か? 俺なんだな。そうか。そんなに嫌われていたか。

「むむむ。しかたない。行くか」

 俺が先導すると、あとからついてくるみんな。

 なんだか、親鳥についてくるひな鳥みたいな感じがする。

 と邪険なことを思いながら、ゴーカートの入り口に降り立つ。

 俺、明理、真莉愛がカートに乗ると、店員さんがゴーのサインを出す。

 一回に三人までのようだ。

 俺たちは一斉にアクセルを踏み、カートを走らせる。

 まっすぐのコースに合わせてぐんぐんと速度を上げていく。

 そして左カーブ。

 ブレーキを踏み、速度を落とし、ハンドルをきる。

 押さえつけられるような感覚に振り回される。

 と、後ろからガツンと音を立てて押される。

「なんだ?」

「こら、祐介。さっさと前に進みなさいな!」

 明理だ。

 ガツン。横合いからさらに攻撃を受ける。

「ごめんあそばせ。私から逃げられると思わないでください」

「いや、どういう意味だよ?」

 俺は困惑の色を見せて、全力で左へ曲がっていく。その後ろを爆走する二人。

 まるで手足かのごとく動かしている二人。

「なんであんなに早いんだ……!」

 俺の横につけると、体当たりしてくる。

 なんて荒れた操縦だ。

「わたしたちの中で誰が一番なのか、はっきりさせなさいよ!」

「そうですわ。はっきりさせなさい。そして、私だけを選びなさい」

「なんだ? どういうんだ?」

 俺には思い当たる節がない。こんなことをしてもなんにもならないというのに。

 ふとサーキットの外に目をやると、そこには妹のモモがいるではないか。

「モモ! お前だけだよ。俺をいやしてくれるのは!」

「むきーっ!」

「あらあら。美しい兄妹愛ですね」

「というか。ハンドルを握ると性格変わるってのはホントだったらしいな」

 俺は最後のカーブを曲がりきると最後の直線に出る。そこからは最大出力。

 エンジンフルスロットル。

 これで勝てるはずだ!

 と横合いから明理と麻里奈が追いつく。

「このっ!」

「負けませんわ!」

 三人は並んでゴールラインを突破する。

「やったわ。わたしの勝ちね!」

「いいえ。勝ったのは私です」

 お互いに勝利宣言をするが……案内人の持っていた写真には俺が勝った瞬間を納めてあった。

「それよりなんでモモがここにいるんだ?」

「お兄ちゃんに会いに来たの~」

「で。なんで釘宮さんがご一緒なんですかね……?」

「家の前でうろちょしていたのでつれてきたの~」

「ほ~。それまたどうして?」

「……」

「桃から聞いても同じ反応なの~」

「これを飲むと安心するかな」

 隣で菜乃が怪しげな薬液を釘宮に勧める。

「そうなのか。最近の医学は発展しているな」

 釘宮が薬を飲み干すとにやりと笑う菜乃。

「さあ。実験の始まりかな!」

「な、何を飲ませたのさ!」

 驚きの声を上げる釘宮。

「なに、本音を漏らす薬かな。これでわかりやすく釘宮さんの気持ちが知れるかな」

「で、何が目的で俺んちを見張っていたんだ?」

「お前のことを知りたくっ……て…………」

 慌てて口を閉ざす釘宮。

 どうやら本当に本音を漏らしてしまうらしい。

「知りたくてはっていたのか……?」

「ああっ! ……ちっ」

 軽く舌打ちをする釘宮。でも、本当に俺を知りたいのなら、

「ツンデレか?」

「つんでれ……?」

 オタクな俺には分かるが、それを知らない釘宮にとって、知らない言葉だったらしい。

「いつもはツンツンしているのに、見えないところでデレデレすることだ」

「そうだな。……へっ!? そ、そそそそそんなつもりじゃぁあ……!」

 釘宮の顔が真っ赤になり、慌てふためく。

「どうしたら、薬の効果が切れるんだ!?」

 釘宮は菜乃に抱きつき、懇願する。

「それなら十分も経てば消えるかな。それと――」

 ばぴゅーんという音を立ててその場から去る釘宮。

「この薬で打ち消すこともできるかな。ってあれ?」

「釘宮ならどこかにいったぞ」

「まあ、いっか。すぐに戻るし。他にも色々と薬があるかな」

「いや薬はいいから……」

 頭が痛くなったのか、複雑そうな顔をするたける。

「まさか、お前が好きな奴がこんなにいるとはな」

「それよりも! 桃も、大好きなの~」

「わ、わたしだって!」

「そうね。私も好き、です……!」

 いきなり始まった告白大会。……でもなくて、

「ど、どういうことだよ? みんな俺と一緒にいて楽しいのか!?」


「「「「もちろん!」」」


「さあ、どうする? 祐介」

 たけるが後を押すように、俺の背中を押す。

「いや、俺は……。君たちに応えられるような感情はもっていない」

「つまり……?」

「俺はみんなを恋愛対象として見てない。だが、これからはそういった努力をする」

 俺の言葉に複雑そうな笑みを浮かべる明理。

「幼なじみからの昇格は難しいかもね。でもやってみせるよ」

「それ! 桃も、ただの妹じゃなくて一人の女としてみてもらうの~」

「それで言ったら、私が一番近いかしら? 私は転校生キャラですし!」

「はぁ~。お前ってホント鈍感だよな、祐介」

「いや、そんなつもりはないんだが……」

「そりゃそうだろ。でなかったら、今頃誰かと付き合っているさ。まったく。ここまでこじれるとは思ってもいなかった」

「なんで俺なんだ?」

「その質問は失礼に値すると知るべきだな」

 たけるの言っている意味が分からず、首をかしげる。

「しかし、まあ。これからどうするか?」

「じゃ、じゃあ! 今日のご褒美に観覧車デートでなの~!」

「お! そいつはいいアイデアだね。祐介妹」

「なの~」

「いいわね。いいアイデアよ、桃」

「え。なにがいいのですか? ただの観覧車ですよね?」

「あー。あれか。一緒に乗って頭頂部でキスをすると永遠に結ばれるっていう……」

「都市伝説ですね。それなら私も賛成です」

「それまでの間、祐介を楽しませることができた人が一緒に乗る、ということで」

「お、おい。俺をおいて話を進めないでくれ」

「じゃあ、お前はこいつが嫌いなのか?」

「そ、そういうんじゃないが。もっと大切した方がいいと言う意味合いだ」

「そんなの。今更だろ。一回キスしているんだし」

「あー。まあ、そうだが……」

 なんか言いくるめれているような気がする。

「それよりも、彼女らの意見をないがしろにする方が不謹慎というものだ」

「確かに、言う通りかもしれないな。だが、どうやって喜ばせる? 今まででだいぶ遊び尽くしたぞ?」

「それは個々の判断に任せるさ」

「その話、あたしものった!」

 そう言って夕日をバックに現れる釘宮。

「釘宮!?」

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