第2話 転校生!

「よっ! たける」

「おはよう。祐介ゆうすけたちはいつも仲良しだな。今日も一緒かよ」

「なにやっかんでいるんだよ。俺たちは幼なじみだからな」

「隣の家で、二階の自分の部屋から二メートルの距離、ってか?」

「そうそう」

「テンプレの幼なじみだな……。それで意識しないのか?」

「たける君!」

 明理あかりが声を荒げ、止めにはいる。

「なんだ? 言っちゃいけないのか?」

「祐介はシスコンだから……」

 ため息を吐く明理。

「あー。ももちゃんだっけ? 確かにかわいいよな」

「おっ! なんだ。お前、死にたいのか?」

「ぶっ飛んでいるな! そんなんで嫉妬するなよ!」

「嫉妬じゃない。ただ、桃につく虫を追い払おうとしているだけだ」

「そうじゃない力を感じたのだが……」

「たける君、気をつけてね」

「ああ。気をつけるよ。うかつに話せねーな」

 困ったように頬を掻くたける氏。

「ちょっとどいて欲しいかな」

 後ろからかけられる高音ボイス。

「あ。わりぃ、菜乃なの

 俺は身体をよけると小さな身体を滑り込ませる菜乃。

 背丈は小さく、さらさらの銀髪を腰まで伸ばしている。瞳は紅く、くりくりとしている。

「うむ。分かっているのなら問題ないかな」

 同じ科学部員で、毎日のように研究をしている。とある研究所に勤めており、薬の開発の最前線で戦っている。

 多忙故、いつも頭に冷えピタを貼っている。

「今日も実験か?」

「うむ。今日は重力波の歪みと時間波の関係性について、まず第一段階をクリアしたところかな」

「何を言っているのか、分からねー……」

 頭の悪いたけるは頭を抱えてぶんぶんと頭をふる。

「さすがたけるね。わたしにも分かるよう、説明してくれたわ」

「ふむ。ということは我の言葉の意味が分かったのかな?」

「あれでしょ? 重力の波と時間の波の関係を研究したのね!」

 ビシッと指を指してどや顔をする明理。

「いや、それじゃあ、菜乃の言った言葉をそっくりそのまま言っただけじゃん」

「え」

「ふむ」

「だな」

「そういう祐介は分かった?」

「もちろん! 分かるわけないだろ」

 えへんというのが正しく、俺は胸を張って応える。

「全然、えらくないからね!?」

「ふむ。祐介殿は今日は放課後まで居残りコースかな」

「え! で、でも菜乃は仕事で忙しいだろ?」

「そうかな。でも、我の仕事の一部が祐介殿のテスト結果かな」

「どういうことだよ?」

「そうしないといけないかな」

「むむ。わたしにも教えないよ。じゃないとフェアじゃないわ」

「それもそうかな。分かった。明理殿も、一緒に勉強かな」

 なんでそうなるんだ。

「明理は成績いいだろ。なんで一緒なんだ?」

「いいの。わたしが選んだことなんだから」

「それはそうと、今日は転校生が来ているらしいぜ」

「その話、我も聴いたかな。女子生徒とか」

「マジか。このクラス?」

「らしいぜ」

「へー」

「なによ。祐介はそっちの娘に興味があるっての?」

「いやまあ、高校生で転校って珍しいとは思うけど」

「確かにそうね。編入試験を受ける必要があるものね。家庭の問題かしら?」

「そうかな。意外と別の理由だったりするかな」

「まあ、それは来てから訊ねてみたらどうだ?」

「そうね」「かな」「だな」

 俺らは納得するとちょうど、予鈴が鳴る。

 ホームルームが始まると、先生と一緒に入ってくる少女に驚く。

 金髪に白いワンピース、そして麦わら帽子。

「ああ! 朝の馬車の!」

 俺は大声を上げると、ビクッと身体をこわばらせる少女。

稲荷いなり。席つけ」

 青羽あおば先生がチョークを手にする。

 あれは殺人殺法。秘技〝チョーク投げ〟。

「す、すいません」

 その技の前にはこうしてひれ伏すしかないのだ。

「まず今日は転校生が来ている。みんなも仲良くしてくれ」

 さあ、と自己紹介を促す青羽先生。

「ええと。私、転校生の高坂こうさか麻里奈まりなです。南東みなみあずまさくら女子じょし高校から編入してきました。よろしくお願いします」

「え。あの、お嬢様学校の?」「マジかよ。本物のお嬢様じゃん」「しかし、太ももが綺麗だな」「あの太ももに挟まれたい」

 なんだか若干、変態の匂いがしたが、俺が知っている限り彼女はお嬢様だろう。大金をよこしたりしたし。

「そうだな。稲荷の隣の席に。さっきの様子からして二人は知り合いみたいだから、何かあったら稲荷に聴いてくれ」

「えー。なんで俺が……」

 俺が不満を漏らすと、周囲の気温が一気に下がる。

「おい。まじかよ。あんなに可愛い子の世話ができるなんて」「羨ましすぎるぜ」「ただでさえ、菜乃ちゃんや明理ちゃんと付き合いがあるってのに」「どれだけ徳を積めば、あの高見にいけるんだよ……」

 嫉妬と憎悪が混じった目線を向けられる。

「分かった。わかったから、そんな目で見ないでくれ!」

 俺は渋々、高坂さんの世話係を請け負う。と、前の席に座っている明理が黒いオーラを放っているように見える。

 ちなみに菜乃は手元に薬瓶を用意している。何に使うつもりだよ。

「よ、よろしくお願いします。稲荷さん」

「あー。はいはい。なんでも聴いてくれ」

「じゃあ、まず。あの独身脱出の文字はなんですか?」

「ぐっ」

 小さくうめく青羽先生。

「あー。あれは習字の字だね」

「いえ。私が聴いているのは、そこではなく――」

「さ、さあ! ホームルームを始めるわよ。ほら高坂さんも!」

 大きな声を上げる青羽先生。いやバレバレですよ、先生。

「あっ」

 感づいたのか、高坂さんもそれ以上は聴かなくなった。

 ホームルームはつつがなく終わりを迎え、休み時間に突入した。

 四月になり、暇な日常が訪れると、みんな新しい話題に事欠いていた。だが今日はそうではない。新しい話題が降って沸いたのだ。

 当然、みんなの視線はそちらに向く。

 そして高坂さんへの質問攻めが始まる。

「なんで、この時期に転入してきたの?」「好きな食べ物はなに?」「あ、そのキーホルダーあたしも持っているよ!」

 と女子の興味はいい。

 だが男の気を引くのは……。

「高坂さんって彼氏いるの?」「どんな男がタイプ?」「ワンピ似合うね!」「今後遊びにいかね?」「彼氏になってよ」「俺と付き合ね?」

 いきなりの告白大会。

 これには高坂さんも困惑の色を見せる。

「え。ええと……」

「おい。お前ら高坂さんを困らせるなよ」

 気がついたら俺が前に出ていた。

「なんだ? 稲荷のくせにやるのか?」

「お前、けんかはめっぽう弱いよな。それでお前がしゃしゃり出るのか?」

「いい加減、自分の立場をわきまえろよ!」

 男三人衆が景山かげやま左近さこん栗和くりわが憎しみの目を向けてくる。

 人を恨み、妬んだとき、人の顔というのはこれほどまで歪むのか。その視線に遅れをとったが最後。

「ほら。いくぞ」

 景山が高坂さんの手を引っ張り、廊下へと走り出す。

「ちょ、ちょっと!」

「待て! 景山!」

 俺は慌てて追いかける。

 チャラい景山だ。何人もの女子生徒がたぶらかされ、捨てられると聞く。確かに顔はイケメンなので、引っかかる人も多いと聞く。

 迂闊だった。俺が高坂係になったというのに、何一つ教える前にかっさらわれてしまうとは。

 後ろから追ってくる音が聞こえる。左近と栗和だろうか?

「いかせねっす」

「おれらを甘くみるなよ!」

 そう言っている二人を一蹴りで壁に叩きつける。

「へぶっ!」

「ぎょえっ」

「ほら何しているの。一緒に探すわよ」

「明理! それにたけるも」

「ついでみたいに言うな! オレも景山は危険だと思っただけだ。それにお近づきになりたい雰囲気だし?」

「ははは。お前はそういう奴だよな。嬉しいぞ」

「へへ。オレらを甘くみていたこと、後悔させてやろうぜ」

「それいいね! わたしも嫌だもん」

 こうして三人で手分けして景山と高坂を探すことになった。

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