それからわたしは、ずっと家に籠もっています。

 あの真夏の日差しが怖くて、また牙をむいてきそうで!


 わたしはあおい世界ににいます。

 わたしの思い出に、閉じ籠もっています。


 


 「全部思い出してしまったね。もうこれで何百回目かい?

 そろそろ幻想に逃げることは飽きてしまったんじゃないか。

 ずっと過去を呪っているのは痛くなってしまったんじゃないか。」

 

 あんたにはわたしの何が解るっていうのよ!

 そんな暗がりで泣いているウミユリには解らないでしょう?


 「ここはあんたの思い出なんだろ。じゃあここはあんたの心の中じゃないのか?」

 

 じゃあ、あなたたちはわたしの感傷の産物だって言いたいわけ?

 だったらそこの暗がりで、感傷らしくずっと泣いていたらいいじゃない。


 「そんな辛いこと、もうしたくないよ。

 わたしはあの3人家族の何者だったの?

 ただの声楽の先生に過ぎなかったじゃない!」

 

 わたしは、ただあの家族の幸せを願っていただけ!

 だってわたしの好きな人の家族なのよ。

 

 「ずっと綾実ちゃんに嫉妬していたでしょう?

 どうしてわたしを選んでくれなかったのって。

 倫也先輩はわたしを愛しているとは限らなかったじゃない!

 わたしは先輩にとって図々しい女だったのよ?

 どうしてそう気づくことが出来なかったの?

 わたしが偉そうに幸せを願っているのは勝手な自己満足だったのよ!」


 ああ、もう黙っていて!

 わたしは、わたしの分まで、綾美ちゃんに幸せになってもらいたかっただけ。

 

 「そういうとこも図々しいじゃない!

 菜穂ちゃんのことだってあなたを重ねて夢を追わせていたでしょう。

 あなたはどこまでも自分のことしか考えていないのよ。」



 「そうやって自分を呪うのは辞めなさい。

 そうしたら外の世界にまた出づらくなってしまうだろ?

 ほら、グチヤが頭上を泳いでいるよ。イラチが群れになって光っているよ。

 辛いままなら、あんたの世界にまた閉じ籠もってしまえば良い。」

 

 その艷やかな黒髪のウミユリは、いつか憧れたソプラノ歌手のように、

 真っ直ぐわたしをこの世界へ閉じ籠めました。


 


 

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