(七)「大河ドラマ」と史実(R5/12月 加筆)

「鎌倉殿の十三人」、三谷幸喜さんの脚本で毎週とても楽しく拝見させて頂いています。しかし中には「史実と違う」と感じている視聴者も少なくないかもしれません。

確かに、若い頃の義時が将軍・頼朝を補佐してこれほどまでに八面六臂の活躍をするという史実など存在しません。義時が表舞台に登場するのは父・時政が失脚した後のこと、それまでは家子として頼朝の身の回りの世話をしていたに過ぎなかったと思われます。


とは言えドラマである以上、主人公にスポットを当てるのは当然のことです。

その為「鎌倉殿の十三人」では、

①時政を少し間の抜けた人の良い親父に仕上げて、替わって義時に活躍の場を与えて

 いる

②純粋で誠実な義時が無理難題を与えられ苦悩することで、視聴者の同情や共を呼ぶ

③本来の義時が持つ冷徹で計算高いところは盟友の三浦義村に置き換えている

  (筆者のイメージする義時は、むしろ山本耕史さん演ずる三浦義村に近い)

④ドロドロした部分は架空の人物を登場させて手っ取り早く話を進める

                       等々の工夫が凝らされています。


私は、歴史とはジグソーパズルのようなものだと考えています。大きなパネルの中に予めいくつかの小さなピースが貼付けられている、それは一次資料(武将の手紙や

家臣の日記など)として信憑性の高いもので、これをがしてしまうと歴史とは言えないものになってしまいます。

しかし空いているスペースは作者が思う通りに好きな絵を描いて埋めれば良い、誰もそれが間違いだとは証明できないからです。それ故に同じ時代、同じ事件を扱ったものでも、いくつもの異なる作品が出来上がるわけです。

これが「歴史はミステリー」、或いは「歴史は勝者の物語」などと言われる由縁でもあろうかと。


以前に「平清盛」という大河ドラマがありました。史実に忠実な脚本で私は気に入っていたのですが、史実に忠実なあまり清盛が「悪の権化」のように描かれていました。清盛を演じた松山ケンイチさん、素晴らしい役者さんで若い頃の清盛から亡く

なるまでを一人で見事に演じきっておられました。でも、主人公が悪者では視聴率

は上がりませんよね。

逆に記憶に新しいところでは「麒麟が来る」。善良なる主人公・明智光秀を支える

べく、堺正章さん演じる医者と弟子の女性が帝や関白、将軍とのパイプ役になって

活躍していました。しかし肝の部分を架空の人物に背負わせるのは少し“やり過ぎ”

ではなかったかと。コロナなど諸般の事情があったのかもしれませんが。


私は大河ドラマを見た後、必ず同じテーマを扱った歴史小説を読むようにしています。難解な小説であってもドラマを見た後だと理解し易いですし、一方でドラマを

製作した脚本家の「史実」に対する工夫や苦労も面白く感じることができます。

二倍楽しめますので、これ、お勧めですよ。


<R5/12月 加筆>

直近の大河ドラマは「どうする家康」

正直に言うと、「やっと終わってくれた」という感想です。これは大河ドラマと言うより「歴史コミック」と言った方がしっくりくるかも。「若者向け」などという論評も見られますが、果たして若者はあのような薄っぺらな脚本に満足するのでしょうか。大人が勝手に、若者なんてこの程度だと決めつけているようにも思えるのですが。

これは単に「史実と違う」というレベルの話ではありません。

歴史ファンとは(私だけかもしれませんが)、我が国の歴史にリスペクトを抱いているものだと思います。日本に生まれたことに感謝し、例え敗者や悪人として扱われている人物でも現在のこの国を築いた先人の一人として存在を認めているのです。

今回の大河はリスペクトの欠片かけらも無い、脚本家が自己満足でねくりまわしただけの印象です。瀬名が血染めの手紙で「助けて」・・・、1ヶ月で視聴を止めました。

せめて最後くらいはと思い久し振りにチャンネルを合わせてみたら、クライマックスで淀殿が燃え盛る炎の中で「おのれ家康・・・・」、母親を残して先に自決する将軍などいるでしょうか。

本当に気持ちの悪い“コミック”でした。



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