第七話 仲間

 良子が夕食の支度をしていると、赤い髪をした男と、青い髪をした男が帰ってきた。

 「マジかよ。飯できてねーじゃん!」と赤い髪の男が言った。

 「マジかよ。おばさん、サボってんじゃねーよ!」と青い髪の男が良子に絡んでいると、美代がソファーから「お兄ちゃん、リョウくんとマサくんが帰ってきたよー!」と二階に向かって叫んだ。


 二階から降りて来た裕也が、「マサ、パチンコどうだった?」と聞いた。

 マサと呼ばれた青い髪の男は、「全然ダメだったよ。パチンコ屋終わってるわ。おばさん、またお金下ろしといて。」と言った。

 美代が「リョウくんは?」と赤い髪の方に聞くと、「俺も一緒。あー、ムカつく。5万もすったわ。マサくん、飯まで孝雄と遊ぶか。」と言って、家の中から追い出され、庭で宿題をしていた孝雄を指さした。


 それを聞いた良子は、「もう出来ますから!あの子は放っておいてください!」と叫んだが、「おばさん!大声出すなって何遍も言ってるだろ?!」「さっさと飯の準備しろよ!」と裕也と美代に一斉に凄んで言われ、黙って食事の支度の手を早めた。


 ビールを片手に庭に出た裕也と美代は、マサとリョウが「せーのっ!」と言いながら同時に孝雄をドロップキックしては、二人のタイミングが揃わなかったとギャハギャハ笑っている様子を眺めてニヤニヤしていたが、「なあ、なんか暇だし、また旅行とか行かねーか?」と言った。

 美代が「ホント!?やったぁ!温泉行こうよ。私新しい浴衣欲しい!」と言った。



 四人は良子が作った料理を食べながら、旅行の計画を楽しそうに話していた。

 良子と孝雄はいつものように、それをキッチンで正座しながら見つめていた。

 やがて四人は食事が終わると、焼酎を持ってソファーに移動してテレビを見始めた。


 良子と孝雄は四人がいなくなったテーブルにそそくさと座り、食べ散らかされた残飯を食べた。

 「あ、そうだ。お前ら今日から風呂禁止な。俺ら旅行に行くからその分節約しなきゃな。でも、臭せーと困るからちゃんと夜中にタオルで体拭いとけよ。」と、裕也がテーブルの良子と孝雄に向かって言った。

 良子がすすり泣きを始めた。

 孝雄は慌てて「分かりました。」と裕也に言い、(泣くとまた叩かれるから。ね?母さん、あいつらが旅行に行ってる間に何か好きなもの買って二人で食べよ?ね?)と良子に小声で言った。

 良子は必死に嗚咽を押さえ、「うん、うん、ごめんね、ごめんね・・・。」と言った。

 孝雄はこっそり涙を拭いて、仏壇の父和夫(カズオ)の遺影を見つめて(母さんは僕が守るよ。)と頷いた。


 ☆☆☆


 新士が双眼鏡で白いシャツに赤い帽子の若い女を確認したのは、午後4時を回ったところだった。

 新士は双眼鏡で赤い帽子の女を見ながら電話をかけた。

 赤い帽子の女は、驚いた様子で電話に出ると「煙さんですか?」と小声で聞いてきた。

 新士は「そう呼ばれています。」と答えてから、正面のマクドナルドの紙袋が置かれたベンチに座って、紙袋からヘッドセットを取出して装着するよう指示した。


 赤い帽子の女はヘッドセットを付けると「どうやってこの電話番号が分かったんですか?」と聞いたが、新士はそれには答えず、「約束の情報は取れましたか?」と聞いた。

 「書類と写真で用意しましたが。」と女は言ったが、「申し訳ありませんが、こちらから質問しますので、口頭で答えてください。」と言って新士は質問を始めた。

 「じゃあ、まず雨森裕也と美代の兄妹について・・・」


 ☆☆☆


 質問が全て終わると、「ありがとうございました。報酬は紙袋の底に入ってます。ヘッドセットは横のゴミ箱に捨ててください。」と言って通信を切ろうとした。

 すると赤い帽子の女は慌てて、「待ってください!私を仲間にしてもらえませんか?!」と言ったが、新士はすぐに「私は一人でやっていますので。」と断った。

 「じゃあ、また調査依頼をもらえませんか?それで私の事を信用できたらで良いので、仲間になる件を検討してもらえませんか?!」と女は言った。

 「違う調査依頼は既に出しました。帰って郵便受けを見てください。」と新士は言って通信を切った。


 新士は「煙って誰が呼び出したんだろ?」と呟いて、双眼鏡をしまった。

 新士は何人かの調査屋を利用しているが、基本的に全て自分で調査は完了しているため、調査屋に頼むのは新士にとっては簡単な事実確認程度の内容だった。

 『煙』という名が広まってからは、「仲間にしてくれ」という輩が増えきたが、リスクが増えるだけなので、新士は誰かと手を組むつもりはなかった。

 協力者と呼べるのは、パニッシャーを始める前から付き合いのある更生丸の船長と乗組員だけである。

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