記憶ドリーム

「その夢というのは、壊れたトラックの前に私がたった一人でたたずんでいるという夢なんだ。砂漠の真ん中で気温はどんどん上がるが、トラックはエンジンが壊れていてエアコンもまったく動かない。誰もいない砂漠に、私とトラックの影だけがぽつんと映し出されている。誰かに助けを求めても、その声は虚しく空間に響くだけだ」

「ひええ……」

「私の目の前は赤くなっていく。そして気がつけば目を覚ましているというわけだ」

「恐ろしい……そういえば、トラウマとおっしゃいましたが……」

「ああ、実際にあった話だよ。私が8歳の頃、トラックに乗せてもらって隣町の図書館に行こうとしたんだ。移動中にトラックの運転手が心臓発作を起こして、トラックは道を外れ、砂礫の山に突っ込んで壊れてしまった。救助を呼ぼうにも無線は使えない。結局4時間ほど後に意識を失った状態で救助されたというわけだ」

「そりゃあトラウマになりますよ……」

「それが原因で学者を志したんだ」

「へえ……」

「まあ結局ここで所長やってるがな。そろそろ交代時間だろうか」

「時計の充電ってまだ終わらないんですか?」

「ああ、20時間ぐらいかかるんだよ」

「ええ……まあいいや、交代時間まであと1時間あります」

「そうか……ちょっと研究所の連中をおどかしに行くか」

「そういえば所長が寝ている間に山口研究員が来てましたよ」

「要件は?」

「コマーシャルのシナリオができたらしいです」

「なるほどな、それを呼んでから研究所をおどかしに行こう」

「おどかしに行かなくてもいいですから」

「なあに、視察というやつだよ」

「そうですか。シナリオは机の上にあります」

「わかった」

 カーバはベッドから起き上がると、シナリオを手に取って読み始めた。数分で読み終わると、データを重役会に送ってから山口を探しに行く。山口は研究室にいた。

「面白いな、これ」

「ありがとうございます」

「検討用に重役会にもデータを送っておいたよ。おそらくコマーシャルはこれを元に作られるだろう」

「ありがとうございます!」

「ところであのトマト、余ってたりするか?」

「ああ、あるはずですよ」

「ちょっとそのまま切ってから食べてみたくなってな」

「わかりました。実験室と調理室、どちらで切りますか?」

「調理室だろ」

「わかりました」

 調理室では枚舞がトマトを見つめていた。

「トマト……トマト……」

「一つくれるか?」

「どうしてですか?」

「生でそのまま食べたいんだ」

「わかりました。切って皿に盛りますね」

「ありがとう」

 枚舞はトマトを切って、皿に盛り付けた。カーバは皿を受け取ると、一切れ取って食べてみた。

「旨いな……甘くて、その中に旨味がある感じだ」

「100点満点の感想ですね」

「採点されたくはないな……別にいいんだが」

「……すみません」

「別にいいって言ってるだろ」

「そうでしたね」

「ところであの……山口さん、トマト料理のアイデアをくれませんか?」

「わかりました。生トマトのシーザーサラダとかどうでしょう?」

「美味しそうですね」

「そうでしょう?作ってみましょうよ」

「わかりました」

 枚舞は肉をグリルから取り出して冷ましながら、トマトをまな板の上でざく切りにしはじめた。

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