Ⅳ EPILOGUE

コンティニュー浪漫

 夕食の人工肉ソテーとトマトのシーザーサラダを食べて落ち着いたカーバは、指揮系統をビアに任せて所長室で夜の思索にふけっていた。

「ビア、電気を消してシャッターを開けてくれないか」

「今夜は新月です」

「いいんだ、星が見たい」

「わかりました」

 天窓のシャッターが開くと、満天の星空がカーバを見下ろした。

「そういえば今日の日記を書くのを忘れていたな。電気スタンドを頼む」

「はい」

 ビアのマジックハンドの一本が光り、机を照らす。カーバは「日記14」と書かれた大学ノートとペンを取り出した。

――11月14日 日曜日

 今日は楽しい一日だった。朝から皆の笑顔が素晴らしかったし、なにより皆が忙しいながらも楽しそうに研究をし検討をしているのは見ていて心地いい。休憩時間にも多くの所員やその家族が話しかけてくれた。何か特別なことがあったのだろうかと思ってしまうほど、いつも以上に皆生き生きとしていた。素晴らしい一日に感謝を。――

「そういえばさっきまでタノがマイマイとケーキを作ってましたよ。調理室で色々試行錯誤してました」

「なぜだろう……誰の誕生日でもないのにな」

「私にもわかりませんね……」

「ビアがわからないと言うということは……ビア、何か隠し事してるな?」

「いえ滅相もない、本当に分かりませんよ」

「そうか……日記帳はもうそろそろ新しいのにしなければならないな。そういえば私がこの研究所に来たのはもう何年前だったっけ」

「ちょうど6年3ヶ月12日前ですね」

「あの頃は私も若かったなあ」

「あなたはまだ31歳、若い部類に入るじゃないですか」

「まあビアはまだ7歳だもんな」

「6歳ですよ」

「そうか」

「31歳、か……私も歳を取った」

「大学を卒業してすぐでしたっけ、ここの所長を始めた頃は」

「医者になろうと思ったのに、無駄に論理ができるせいで現場にはいられないのだからたいした皮肉だよ。現場の医者の中には論理が分からず感覚でやってる職人みたいなのもいると聞く。不思議なものだな」

「そうですね」

 と、ドアが開いてタノと枚舞が入ってきた。タノはケーキを持ち、枚舞は何やら封筒を持っている。

「お誕生日おめでとうございます、所長」

「ああ、私の誕生日だったか」

「今日は11月14日ですからね」

「ビアも知ってるなら嘘なんかつかずに言えよ」

「すみません、面白そうだったので」

「おいおい……」

「というわけでろうそくは31本です」

「ビア、明かりを消してくれないか」

「私はスマートスピーカーじゃないんですけどね」

「いいだろ、別に」

「はいはい」

 タノがろうそくに火をつけると部屋の明かりが消え、ろうそくの火が部屋を照らす。

「ハッピーバースデー、トゥーミー」

 カーバがろうそくの火を吹き消すと、部屋は闇に包まれた。

「明かりをつけてくれないか」

「わかりました」

 部屋の明かりがつくと、カーバの目の前には所員全員がいた。

「ハッピーバースデー、カーバ所長!」

「ありがとう、みんな」

「どういたしまして。これからもよろしくお願いします!」

「ああ、よろしく。素晴らしい一日に感謝だな」

 カーバは微笑んで、ケーキからろうそくを抜きはじめた。

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