ゲームその2 『子ブタ村と目覚めるオオカミ』第6話

 この説明には、さすがのウリリンもブーッと不満そうに鳴いてワオンをにらみつけました。ブーリンもカンカンになってワオンをどなりつけます。


「おいおい、7点はないだろう! わしらは1軒家を建てるごとに1点しか入らないってのに、なんでお前のオオカミトークンは7点も入るんだ! しかも家を壊すごとに3点だなんて、めちゃくちゃ多いしずるいぞ! さてはお前、わしらを食べようと思ってそんなずるいルールにしたな!」

「わわわ、ちょっと待って、落ち着いてよ! 別においらはズルしてるわけじゃないんだ。だって考えてみてよ、君たち子ブタ村のプレイヤー側は、三人の建物の合計が点数になるんだよ。しかも、最初に10ターン与えられるから、その間にどんどん家を建てればいいじゃないか。極端な話、君たちががんばれば、10ターンの間に一人が10軒家を建てることだってできるよ。わらの家なら、1ターンに1軒建てられるんだからさ」


 必死で弁明するワオンを、ブーリンはまだにらみつけていましたが、ウリリンは冷静な口調でたずねました。


「それで、このゲームの終わりはいつになるんだ? まさか、ずっとオオカミトークンが動き回って、おれたちの建てた家を壊しまくるなんてことはしないよな?」

「もちろんだよ。このゲームの終わりは、おおまかにいって二つある。一つ目は、オオカミプレイヤーがオオカミトークンを3つ出したときだ。3つ目のオオカミトークンが出た瞬間に、ゲームは終わるよ。そして、もう一つの終わりは、フィールド上の森と山が、建物で埋まるか荒れ地になるかして、全部使われてしまったときさ。あ、ちなみに荒れ地っていうのは、オオカミトークンが出現した森や山のタイル、もしくはオオカミトークンが壊した家のあったタイルのことをいうよ」


 ウリリンはまたしばらく考えこんでいましたが、ここでプリンがなるほどと声をあげたのです。


「つまりぼくたちは、オオカミが目覚める前に、森や山に家を建てて、オオカミトークンが出ないようにすればいいってことですね?」


 プリンの言葉に、ブーリンがおおっと声をあげましたが、ウリリンはまだ考えこんで黙っています。


「もちろんそうだよ。でも、さっきもいった通り、君たちに最初与えられるターンは10ターンだけだ。その間に森と山を全部埋めることはできないだろうから、あとはいろいろ作戦を考えて、がんばっておいらに勝ってね」

「いや、あんたに勝つだけじゃだめだぜ! わしは常に一番にならなくちゃ気がすまないんだ。だからあんたに勝ったあと、プリンとウリリンにも勝って一番になる! そうするためには、どんどん建物を建てて点数を稼がないといけないぜ!」


 ブーリンが気合の入った声でいいましたが、ウリリンがあきれたように反論します。


「なにいってるんだよ、ブーリン兄ちゃん。おれたちで勝負する前に、まずはあいつに勝たなくっちゃ食われちまうんだぜ。だから、くれぐれもおれの足を引っ張るようなことはしないでくれよ」

「なんだとっ!」


 ケンカしそうになる二人を、ワオンはあわてて止めました。


「待って待って、ケンカしないでよ! ケンカしてたら、ホントに君たち負けちゃうよ」

「……もう、ワオンさんが止めたら、それこそ良いオオカミみたいになっちゃうでしょ」


 見かねたルージュが小声でツッコみます。ですがワオンは頭をぽりぽりかいて、恥ずかしそうに笑うのでした。


「でもさ、ほら、おいらもせっかくならみんなに仲良くゲームしてほしいって思うからさ」

「もう……。まぁ、それが今回の目的でもあるわけだし、別にいいけどね。それに、ブーリン君がいったように、どんどん建物を建てるのも大事よ」


 ルージュの言葉に、ウリリンは目をぱちくりさせました。


「ルージュちゃん、どうして?」

「だって、オオカミプレイヤーはオオカミトークンを倒されない限り、最低21点は保証されているってことでしょう? つまり、あなたたち子ブタ村のプレイヤー側は、22軒以上家を建てないと負けちゃうってことよ。だからターン数がかからない、わらの家をたくさん建てることも大事だわ」


 ルージュがちらっとブーリンを見ました。そのくりっとしたひとみに見られて、ブーリンはもう舞い上がってしまいます。ブーッとなんともうれしそうに鳴いて、それから得意げにウリリンにいいます。


「ほら、聞いたか? やっぱりルージュちゃんはわしのほうが正しいっていってるじゃないか。お前も少しはワシを見習って、仕事の手際をよくするようにするんだな」


 ですが、ウリリンはブーリンの言葉は無視して、首をかしげてルージュにたずねました。


「オオカミトークンを倒されない限りっていったよね? それって、いったいどういうこと? オオカミトークンを倒す手段があるの?」

「うふふ、もちろん倒す手段はあるわ。それじゃあワオンさんの代わりに、わたしがそれを説明するわね」


 ルージュのくりっとした目が、今度はワオンをとらえました。ワオンもうなずいて、それから紅茶を一口飲みます。


「ねぇ、ワオンさん、そろそろわたしも縄をほどいてほしいんだけど。あ、大丈夫よ、もちろん逃げないようにするから。ただ、みんなのショートケーキと紅茶見てたら、わたしもお腹空いちゃって」

「……ルージュちゃんこそ、おいらのこと完全に良いオオカミ扱いしてるじゃないか……」


 今度はワオンがツッコみましたが、もちろんルージュはすまし顔で笑っているだけです。ワオンが小さくため息をついてから、ルージュの縄をほどきました。


「それじゃあオオカミトークンを倒す手段を説明するわ。さっきブーリン君が、どんどん建物を建てたほうがいいっていってたけど、実はそれに関係するの。このゲームでは、一人のプレイヤーがフィールド上に建物を10軒建てると、ごほうびに猟師トークンってコマをもらえるのよ」


 ルージュがゲームの入っていた箱から、猟銃を持った猟師さんのコマを取り出しました。


「猟師トークンを持っているプレイヤーは、自分の番で建物を建てるかわりに、自分の建物があるところに、猟師トークンを置くことができるの。それでね、もし猟師トークンが、オオカミトークンのとなりに来たら、オオカミトークンをやっつけることができるのよ」


 ルージュの説明を聞いて、ブーリンがブーッと興奮気味に鳴きました。


「おおっ、そりゃすげえや! じゃあガンガン家を建てて、猟師トークンをもらって、それでオオカミトークンを全員やっつけたら、わしらの完全勝利ってわけだな」

「残念ながら、猟師トークンはオオカミトークンをやっつけると、なくなっちゃうから気をつけてね。つまり1体しか倒すことができないわ」


 ルージュがつけくわえると、ブーリンはがっくり肩を落としました。


「まぁまぁ、とにかくオオカミトークンをやっつける手段はあるってことが分かったんだし、いいじゃないか。……っと、だいたいこんなところがルールだね。それじゃあ最後におさらいじゃないけど、説明が長くなっちゃったし、ルールをもう一度確認しておこうか」

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