ゲームその1 『赤ずきんちゃんのお花畑』第3話

「このカードは、『オオカミさんカード』っていって、お花カードの次に多いのさ。ちなみにお花カードは全部で50枚、オオカミさんカードは25枚ある。ちょうど半分ってことだな。そして、これが意地悪なお邪魔虫なんだよ」

「なんだよ、それじゃああのワオンも悪いやつなんじゃないか」


 ほおをふくらませるブランを見て、ルージュが思わず笑ってしまいました。


「ブランったら、もう、子どもみたいなこというんだから。ゲームの話でしょ。……でも、どうして意地悪なお邪魔虫なの?」

「あぁ、なぜならこのオオカミさんカードは、1枚でも持っていると、お花カードを5枚集めても勝ちにならないんだよ。だから勝つためには、オオカミさんカードを捨てる必要があるのさ」


 マーイの説明を聞いて、ルージュが少しショックを受けたように口を手でおおいました。


「なんだかちょっとかわいそう……」

「ルージュちゃんは優しいな。ま、でも多分ゲームをし始めると、だんだんこいつが憎らしくなってくると思うぜ。あ、そうだ、さっき順番に1枚ずつカードを引いていくって説明したけど、オオカミさんカードを捨てるときは、カードを引くことができないから、気をつけてくれよ」


 オオカミさんカードを肉球でぷにぷにしながら、マーイが面白そうに笑います。ブランがムーッと小鼻をふくらませます。


「なんだかいやなカードだなぁ。どうにかできないのか?」

「もちろん、どうにかするカードもあるぜ。それがこの『猟師さんカード』だ」


 今度は銃を構えた青年が描かれたカードを、マーイが肉球でぷにぷにしました。栗色の短い髪の毛に、ちょっぴりキツイ目を見て、ルージュがふふっとほほえみました。


「この絵、なんだかブランに似てるわね」

「えっ、そうかなぁ? じゃあ、このカードはいいカードなんだね?」


 ブランに聞かれて、マーイはひげをなでつけながらしぶしぶうなずきました。


「ま、そういわれるとそうかもな。とりあえずカードの説明をすると、この猟師さんカードは、オオカミさんカードを持っているときに役に立つんだ。自分の手番になって、カードを引いたあと、効果を使うか選べる。あ、そうだった、忘れないうちにいっておくと、効果を持つカードは全部、自分の手番でカードを引いたあと、効果を使うか選べるからな。カードを引く前には選べないぞ」

「それで、いったいどんな効果なの?」

「あぁ、効果だけど、猟師さんカードとオオカミさんカードをセットで捨てると、新たにカードを2枚引けるのさ。簡単にいうと、猟師さんカードとオオカミさんカードを別のカードに変えることができるってわけさ」

「ほら、やっぱりぼくに似てるから、カードの効果もすごくいいだろ」


 得意げにいうブランを見て、ルージュはくすくす笑いをします。


「ブランったら、やっぱり子どもみたいなこというんだから」

「ま、とにかく猟師さんカードはかなりいいカードだけど、枚数はそこまで多くないから、あんまり引けないと思うぞ。全部で10枚しかない。だからここぞというときにしか使えないと思うぜ。それと、猟師さんカードと同じく珍しいカードが、これさ」


 マーイはまたしてもぷにぷにの肉球で、今度は赤ワインとライ麦パンが描かれたカードをたたきました。


「このカードは『ワインとパンカード』っていうんだ。これも猟師さんカードと同じで、10枚だけだ。んで、効果なんだけど、このカードを使うと、右どなりのやつからカードを1枚とることができるんだ。ルージュとブランは、ババ抜きってゲームは知ってるだろ?」

「ババ抜きなら知ってるけど、あぁ、なるほど、ババ抜きみたいにみんなで1枚ずつカードを引いていくってことか?」


 ブランが一人でうなずくのを見て、マーイはひげをなでて答えました。


「そう、正解だ。たとえば手札がオオカミさんカードばかりのときとかに、これを使えば、うまくいけば自分のオオカミさんカードを相手に押しつけて、自分はお花カードを引けるかもしれないぜ」

「でも、もしかしたら自分のお花カードを引かれて、オオカミさんカードを引いちゃう可能性もあるってことかしら?」


 ルージュがくりくりした目を輝かせて、いたずらっぽくたずねます。マーイもにやっと笑いました。


「そうさ。だから運の要素が強いけど、ま、これも使えば盛り上がって楽しいもんだ。それじゃあ、最後に一番レアなカードを説明するぜ。ルージュちゃん、ちょっとカードを貸してくれないか?」


 マーイはルージュからカードの束を受けとると、肉球をぷにぷにさせながら、カードを一枚ずつ見ていきます。ルージュとブランが顔を見合わせていると、ようやくお目当てのカードを見つけたのでしょうか。「あったあった」とつぶやいてから、おばあちゃんの絵柄が描かれたカードを二人に見せたのです。


「このカードは、『おばあちゃんカード』っていうんだ。全部で5枚しか入っていない。どんな効果があるかっていうと、これを使えば、場に捨てたカードと、みんなの持ってるカードを全部混ぜて、もう一回シャッフルするんだよ」

「えっ、それじゃあ最初からやり直すってこと?」


 ルージュがまゆをつりあげてたずねます。マーイはにゃししと笑い声をあげました。


「おしいなぁ。ちょっとだけ違うのさ。シャッフルし直したあと、みんなそれぞれカードを引いていくんだけど、もともと持っていた手札の枚数分カードを引くんだよ。だからカードの枚数はかわらないのさ。ただ、たとえばあと1枚そろえばお花カードが5枚になるってときに、これを使われたらすごいがっくりくるから、お花カードがそろいそうでも、にやにやしたりしてたらダメだぞ」

「ブランはそういうの、すぐに顔に出ちゃうからわかりやすそうね」


 ルージュにからかわれて、ブランはちぇっと舌打ちしました。


「余計なお世話だい! こうなったら、絶対ぼくが一番最初にあがってやるからな!」

「お、それじゃあマーイはルールをだいたい説明したみたいだね」


 リンゴのような甘い香りがするカモミールティーと、お砂糖をたっぷり入れた紅茶、それにホットミルクとコーヒーをおぼんにのせて、ワオンがテーブルに戻ってきました。

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