ゲームその1 『赤ずきんちゃんのお花畑』第2話

「やぁ、いらっしゃい。ワオンのおとぎ喫茶……じゃなかった、ワオンのおとぎボドゲカフェにようこそ」


 森の外れにある、ワオンのおとぎボドゲカフェに足を踏み入れると、リンゴのような甘い香りとともにワオンが迎え入れてくれました。


「あんたがオオカミ? それにしては……」


 ハトが豆鉄砲を食らったような顔で、ブランがワオンを見つめます。スーツすがたで、器用に二本足で歩くワオンは、オオカミというよりもウェイターさんのように見えました。


「ささ、どうぞどうぞすわって。お飲み物はなににする? どんなケーキが好きかな?」


 ワオンにうながされて、ブランは完全に目をまん丸にして固まっています。しかし、ルージュはくりっとした目をきらきらさせて、ワオンについていきます。


「わぁ……」


 ルージュが思わず声をあげました。テーブルの上には、様々なカードゲーム、それにボードゲームの箱が並べられています。大きなものも小さなものも、パステルカラーのやわらかな絵が描かれた箱も、カッコイイ宇宙の絵が描かれた箱も、シンプルにゲームの名前だけが書かれた箱もあり、その楽しげな様子は、ルージュだけでなくブランまでもじっと見入っていました。


「すごい面白そうな、それに素敵な喫茶店だわ……。あなたがマーイちゃんのいっていたオオカミさんね?」

「うん。今日は来てくれてありがとう。おいらの名前はワオン。このおとぎき……、おとぎボドゲカフェの店長さ」


 少し照れたように笑うワオンを見て、ルージュはくすっとします。


「わたしはルージュ。こっちは双子の弟のブランよ。このお店、ボドゲカフェっていうの? なんだか不思議な名前ね。あ、そうだ、ケーキもいいけど、今日はわたしもおみやげを持ってきたの」


 そういって、ルージュは先ほどのバスケットをテーブルの上に置きました。花いっぱいのバスケットを見て、ワオンは「わぁっ」と思わず声をあげます。


「すごい、お花いっぱいつんできたんだね。うれしいな、今日のカードゲームも、お花がいっぱいだからぴったりだよ」

「カードゲーム? でも、ここ喫茶店って聞いたけど、カードゲームもできるの?」


 ワオンの言葉に、ルージュはくりくりした目をぱちくりさせて、首をかしげます。ワオンはチラッとマーイを見てから、こくりとしました。


「うん。このカフェの名前、『ワオンのおとぎボドゲカフェ』っていうんだけど、ボドゲカフェのボドゲは、ボードゲームのことなんだよ。あ、もちろんうちはカードゲームも取り扱っているよ。それで、おいらが作ったケーキや紅茶を楽しみながら、ゲームを遊んでもらうんだ」


 ゲームと聞いて、ルージュの目がまたしてもキラキラし始めます。ブランも鼻をぴくぴくさせて、そわそわしながらワオンのほうを盗み見ています。


「ゲームで遊べるだなんて、すごいわ、面白い喫茶店ね。ねぇ、ワオンさん、いったいどんなゲームがあるの?」


 興味津々といった様子のルージュに、ワオンは待ってましたとばかりに、テーブルに並べられていたゲームの箱から、お花と赤ずきんが描かれたものをとりました。


「二人とも初めてだし、今日はそこまで複雑じゃないゲームをしようかと思ったんだ。『赤ずきんちゃんのお花畑』ってゲームだよ」


 ワオンは箱からカードを取り出して、ルージュに手渡しました。その絵柄のかわいらしさに、ルージュはもう大喜びです。ワオンから受け取ったカードを、一枚一枚じっくりながめていきます。


「わぁ、かわいいお花の絵柄だわ! いろんなお花が描かれてるのね。パンジー、コスモス、チューリップ、それにこれはラベンダーだわ。なんだかお花畑にいるみたい!」

「そうだろう? ほら、このカード、ルージュちゃんがつんできたお花にそっくりだよ」


 ワオンがカードを指さして、それからルージュがつんできた白い花を同じように指さしました。ルージュがカードに書かれた花の名前を見ていきます。


「あ、これ、カモミールだわ。わたし、カモミールティー大好きなの」

「そうなんだ、ちょうどよかった、それじゃあルージュちゃんはカモミールティーだね。ブラン君はなにを飲む?」


 ワオンに聞かれて、ブランは言葉につまってしまいました。ルージュとワオンの顔を交互に見て、口をパクパクさせています。ルージュはくすっと笑って助け舟を出しました。


「ブランは紅茶をお願いしてもいい? お砂糖たっぷりの紅茶よ」

「わかったよ。それじゃあ入れてくるから、それまで二人とも、カードの絵柄を楽しんでてね。マーイ、二人にルールも教えてあげてよ」


 マーイは待ってましたとばかりにコクコクします。ワオンは面白そうにアハハと笑って、テーブルに並べたほかの箱を棚に直して、カウンターの奥へ入っていきました。


「な、ワオンはお前さんを食べたりしないだろ」


 まん丸い目を細めるマーイに、ブランはムッとして口をとがらせました。


「まだわかんないさ。ぼくたちを油断させて、眠り薬入りの紅茶を飲ませようとしてるかもしれないだろ」

「ブランったら、まだそんなこといってるの? ワオンさんはそんなひどいオオカミさんじゃないわ。優しい目をしてたもの」


 お花が描かれたカードをうっとりと見つめながら、ルージュがブランをたしなめます。ブランは面白くなさそうに小さく舌打ちしました。


「チェッ、なんだよ、ルージュったら……。あれ、その絵、オオカミが描かれてるぞ?」


 オオカミの絵柄が描かれたカードを見て、ブランが思わず手に取りました。マーイがコホンッと小さくせきばらいします。


「それじゃ、そろそろこのゲーム、『赤ずきんちゃんのお花畑』について説明をしようか」

「『赤ずきんちゃんのお花畑』っていうの? 赤ずきんちゃんって、あのおとぎ話の?」


 ルージュの質問に、マーイはへへっと笑ってうなずきます。


「そうさ。このゲームは、童話の赤ずきんちゃんをもとに作られたんだ。ルールは簡単だけど、けっこうおもしろくって盛り上がるんだよ。じゃあまずゲームの流れを説明しようか。最初にみんな3枚ずつカードを引いて、それから順番に1枚ずつカードを引いていくのさ。で、誰かが最初に『お花カード』、このお花の描かれたカードを5枚そろえたら勝ちになるんだ」

「お花の種類は関係あるの?」


 ルージュに聞かれて、マーイは首を横にふりました。


「いいや。お花の絵柄は関係ないぜ。全部まとめてお花カードだから、ラベンダーでもチューリップでも、カモミールでもどれでもいいぜ。とにかく5枚集めれば勝ちさ」

「でも、それならこんなにお花カードがあるんだし、すぐに集まるんじゃないのか?」


 今度はブランが質問しますが、マーイはやっぱり首を横にふって答えました。


「運がよければな。でも、たいていはそうならないのさ。その理由が、こいつだよ」


 マーイはあの、オオカミの絵が描かれたカードを手に取りました。

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