閑話 この世界は


「……あのさ」

「なにかな?」

「俺も最初から在るもの・・・・・・・・として受け入れてたんだけど……」

「うん」

「なんでステータスオープンとか出来るんだよ」

「うん?」

「ここって、ゲームの中の世界のなのか?」

「……それ、みっつめの質問かい?」

「いやいや、ここまで来たら気になるだろ。俺だけ使えるならまだしも、アンだって普通に使えてるわけだし」


 じいっと俺の顔を見るアン。

 やがて諦めたのか――


「……ん。ま、いっか。というか、ごめん。それはボクにもわからないんだ」

「本当に?」

「それに関しては、ウソをついてもメリットなんてないしね」

「そうか……」

「でも、なんて言っていいかわからないけど、ボクはこの世界がゲームの世界とは思えない」


 はっきりとしていない口調で、はっきりとした断言。


「……まぁ、たしかに。同じ言葉を繰り返し発するNPC……つまり、モブみたいなのもいなかったしな」

「そう。それにこの世界の人間……亜人たちも含めてだけど、彼らはきちんと意志を持って生活を営んでいて、独立した思考を持っている」

「そう……なのか?」

「うん。あちこち見て回ったからまず間違いないね」

「なるほど。じゃあもう、俺たち人間と根本的には一緒ってことか」

「だね。おそらく本当に異世界……つまり、ボクたちの元いた世界とは異なった場所、価値観、生活基盤を持った世界なんだと思うよ」


 アンのいうとおり、今のところ、ゲームぽいなと思った要素はステータス画面これだけだ。

 他は本当にリアルそのもの。

 さっき転んだときも、草が顔にへばりついて青臭かったし、その際、土特有のツンとした臭いもした。

 人ではあったものの、あそこの街にいたやつらは全員生身の反応を、俺に示していた。

 そしてなにより……あの下水――


「うぷ」


 におい、そして感触・・を思い出そうとしてもどし・・・かける。


「どうかしたかい?」

「……いや、なんでも……」


 とにかく、リアルすぎるのだ。

 それに、ゲーム開始直後のイベントが、見も知らない、知りもしない国でのレジスタンス活動は正直イカレている。


「それと、ボクはステータス画面これについては、祝福・・だと思ってる」

「祝福……?」

「そう。転生者特権というやつだね。言い換えると」

「なんか嫌な言い換えだな」

「でもわかりやすいだろう?」

「そういう問題なのか?」


 アンはニヤニヤ笑って答えない。


「……うーん、てことは、元の俺の世界にいた子役やら子漫画家、子投資家なんかは、全員ステータスオープンとかできたってことなのか?」

「いまいちその〝子漫画家〟とやらの意味はわからないけど、出来たんじゃない?」

「そうなのか?」

「いや、知らないよ。確かめられないしね」


 アンはそう言って肩をすくめる。

 まぁ、いまさらどうでもいいことだな。


「それはそうと……アン」

「なんだい?」

「さっき、『ボクたちの元いた世界』って言ってたけど、やっぱり……?」

「そうだね。隠すこともないし……ボクときみは、おそらく同じ世界出身だ」

「根拠は?」

「きみの言葉の端々はしばしに、ボクも知っている固有名詞が出てたから」

「……そんなに言ってたっけ?」

「うん。色々とね」

「……ちなみに出身は?」


 俺がそう尋ねると、アンは顎に人差し指を当て「んー……」と唸った。


「……教えない」

「なんでだよ。隠すこともないんだろ?」

「それとこれとはべつだからね」

「じゃあ俺も教えねえし」

「いいよ、わかるから」

「……なら言ってみろよ」

「〝ダイスケ〟……という名から察するに、きみは日本人だろう?」

「ぐぬ……!」

「ほら、当たった」

「じゃあ、アンジェリーナって名前から察するに……アメリカ人だろ?」

「……はっ」


 鼻で笑われたんですけど。

 なにこの子。失礼。


「まったく。何を言っているんだきみは。ボクも日本人に決まっているだろう?」

「はあ? 嘘つけよ。さすがに、海外渡航歴ゼロの俺でも嘘だってわかるわ」

「本当だよ。現にこうやって、流ちょうな日本語で会話しているじゃないか」

「あ」

「〝ダイスケ〟という単語が日本人の名前なのも知ってる」

「……ほんとだ。じゃあ、アンってもしかしてハーフ――」

「ぷ」

「な、なんだよ」

「いやあ、君、本当に騙されやすいんだなって」


 こ、こいつ……!


「ふふ、話を戻そっか。……それで、おそらくだけど、ボクが話している言語は自動的に日本語に変換されて聞こえているだけだと思うよ。同様に、この世界の言葉もね」

「そうなのか?」

「おそらく、ね。……というか、それはダイスケだって薄々気づいているんじゃない?」

「まぁな……」


 アンの言うとおり、あのネズミの獣人と話したあたりから予想はついていた。

 なんというか、すごく便利な機能ではある。

 英語とか第二外国語とか、そういうのはすごく苦手だったからめちゃくちゃ助かる……んだけど、アンと話していて、ふと気づくこともある。


 何歳なんだ、こいつは?


 たしかに見た目は十代前半……下手したら、一桁代くらいの少女なわけだが、それくらいの歳の少女の口が、ここまでペラペラと回るものだろうか。

 もっと捉えどころのない感じで、要点が掴めないような会話になるはずだろう。


『この姿こそが本当の姿』


 ――とアンは言っていたけど、気にはなる。疑いたくなる。

 もしかして、見た目だけ若くて中身は歳相応……みたいなケースもあるかもしれない。


「……なぁ、アン」

「なんだい?」

「あのさ、そういえばアンって……」


 ここで俺の口がピタッと止まる。

 少女に、女性(とおぼしき人)に年齢を尋ねる時って、どう切り出すんだ?

 うむ、わからん。

 あまりにも経験が乏しすぎる。

 ……よし、ここは素直に、ストレートに訊くか。


「何歳なんだ?」

「な、なんか、すごくストレートな質問だね」


 アンが眉をひそめ、俺と距離を取る。

 この世界に来て、初めて他人に引かれた気がする。


「わるい」

「いや、軽いな……」

「申し訳ない」

「……ちなみに、それはみっつめだ。悪いけど、その質問には答えられない」

「わかった」

「き、聞き分けはいいんだね……」


 こうして、このアンの年齢問題は有耶無耶に終わり、俺の経験値が少しだけ上がった(気がする)。

────────────

〝閑話〟とは基本的に無駄話や、物語の補強などが大半です。

 この物語は基本的にダイスケの一人称視点で進んでいきますが、閑話では語り手や視点も定まっていません。

 興味がない方や、はやく本筋を進めたい方は、読み飛ばすことを推奨します。

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