エピローグ 目覚め

 こころは、ベッドの上で飛び起きた。目覚まし時計が騒々しく鳴っている。いつもなら、目覚まし時計より早く起きられるのに。そんなことを呆然と考える。

 目は覚めているはずなのに、何も考えられない。

 すべて夢だったのではないか。そんなことすら思う。妖精の国のことが、あるいは、いまここにいる現実が。何もかもに実感が湧かないなか、のろのろと起き上がって、無意識のうちに時計を止めた。

 こころは、ぼすんとベッドに腰かけた。

 学校に行く支度をしなければいけない。なのに、頭に思い浮かぶのは、学校のことではなく、妖精の国のことばかりだった。

 ミカのこと。ラビーのこと。シェムのこと。ガウリィのこと。エイザのこと。そして、竜となったホシノヒカリ――明星ルーシィのこと。長い旅だった気がするのに、思い出すのは一瞬のことで。

 いまはいつだろう。机の上のカレンダーには、昨日までの日付にバツがされている。あれから何時間、何日が経ったのだろう? こころはただ、動きのないカレンダーと、少しずつ登校時間に近づく時計の針を眺めていた。


 一分が経った。


 すると、廊下の方からバタン! ドタドタと慌ただしい足音が聞こえた。こころの目は、自然とドアに向いた。

 勢いよく、ドアが開いた。ドアの向こうには、優利が立っていた。優利は、ドアノブを片手に、泣きそうな顔をして笑った。

 その笑顔を見たそのとき、こころは、全てが夢じゃなかったことを悟った。妖精の国は、本当にあったのだ。そして、自分たちは、確かにその国を、救うことができたのだ。

「おはよう……姉ちゃん」

 優利が言った。こころは、ベッドから立った。

「おはよう、優利!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妖精の夢物語 羽生零 @Fanu0_SJ

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ