第49話エピローグ ~その暁には誓いを~

 コツ、コツ、コツ――


 石階段を踏むその足音は、夜風の中でもよく響く。

 ましてや、星々を除く多くのものが寝静まる真夜中ともなれば尚更だった。

 アヴァロン城にある塔の一つ、そのバルコニーから街を眺めたままに、グリムは背後に近寄る足音へ声をかける。


「……メアか」


 まるで返答するように現れたのは真っ赤なハイヒールである。控えめに床を踏む彼女は、グリムと共に、寝静まった街を見下ろして応えた。


「うむ、妾じゃ。部屋におらぬと思って探してみれば、こんな所でなにをしているのじゃ?」

「……勝手に抜けだしたら怪しまれるぞ」

「無用な心配じゃ。護衛という名の見張りであれば、階段の下で待っておるからのう」


 会議室での件から、二人はとりあえず客人として迎えられる運びとなり、それぞれ客室と、お目付役兼護衛役の兵士が付けられていた。正直煩わしさは否めないが、魔族を城に迎えているレリウス三世の事情を考えれば、多少の不便さには目を瞑るべきだろう。


 と、やはり外を眺めたままに、グリムが口を開く。


「テューレは?」

「小さな彼女には堪える一日だったのじゃろう、寝床をこさえるなり寝てしまったのじゃ」

「妖精サイズのベッドがこの城に?」

「いや、メイド達が籠を工夫してこしらえていたぞ。彼女らは機転が利くのう」


 愉快そうに笑うメアの声は、夜の静けさによく響く。だが、その明るさに場違いな気配を感じたようで、彼女は段々と声を落としていった。


 戻る静寂


 夜風が頬を撫でる


 そうして、戻ってきた気まずい沈黙の中で、メアはグリムの顔をゆっくりと覗き込むと、思い出したように、小さく声を上げた。


「あぁ、そうじゃった。こしらえると言えば、お主にコレを渡そうと思っておったんじゃ」


 色めくメアに、グリムは怪訝な目を向けているが、彼女はそんな事などお構いなしに、小さな蒼い谷間に指を突っ込んだ。

 取り出されたのは、人差し指くらいの大きさがある紙製の巻物である。


「月華草の葉巻じゃ。人間はこれを聖水に通して精霊水を作るようじゃが、魔族では香として焚いたり、こうして葉巻にして煙を吸うのじゃ。魔力の回復速度では劣るが精霊水に劣るが、身体に負担は掛からぬ。一本吸っておけば明日には、お主の魔力も戻るじゃろ」

「そんなに疲れた顔してるか」

「無理もない。むしろ、あれだけ暴れておいて元気な方が不思議じゃろう」


 冗談めかしてこそいるが、二人にとって、この数日の出来事は確かに過酷であった。


 魔王城での決戦に始まり

 【星渡りの蝗】に襲われ

 黒の大陸から逃げて

 それから幾度も戦い

 現在はアヴァロン城


 グリムは一言だけの礼を言い、受け取った葉巻を暫く観察している。

 なにしろ始めて目にする物だから、少しばかり慎重になっていたのだが、そうとは知らないメアは、残念そうである。


「ぐ、グリムよ。気に入らぬのなら、使わなくても構わぬのじゃぞ?」

「あぁ、いや。効き目は普通にありそうだな、と――」

まことか? それにしては渋い顔に見えるがの」

「――……お前、他に言いたいことがあるんじゃねえのか?」


 しっかりと眼を捉え、しかしぽつりと尋ねたグリムに、メアは言葉を詰まらせる。

 何気なく切り出すにはどうするべきかと、悩みに悩んで隠していた本心を、こうもアッサリ見抜かれてしまうとは思っていなかったのだ。


 だからだろうか、彼女は「何故か」と訊いてしまう。


「そりゃあお前。高貴な魔王女様が、わざわざ葉巻コレを届けるためだけに俺を探すとは思えねえよ。話があるんだろ? 急ぎで片付けたい話が」

「う、うむ。まぁ、その通りなのじゃが……」

「歯切れが悪いな。それにメア、その顔はどういう感情の表れなんだよ」


 笑いながら怒り、泣きつつも楽しげな。メアの表情は、まるで一度握りつぶした紙を広げたような、複雑怪奇な様相を呈していたから、グリムが訝るのも当然である。


「一言目が決まったら教えてくれ、時間ならある」

「決められぬからこうなっているのではないか! 何故そこは察さぬのじゃ⁈」

「いまのは怒ってたな、それは分かった」


 肩を竦めて剽げると、グリムは壁に寄りかかって、メアの珍妙な表情を見つめる。態度こそ緩めてはいてもその眼だけは真剣で、彼女の一言一句を拾うと信頼できるものだった。


 そのおかげで、メアも言葉を絞り出せたのだろう。

 荒れ狂う感情の濁流を沈め、静かなる清流とするのは大変だったが、落ち着いてみればなんということはなく、自分でも不思議に思えるくらいスラスラと想いが口をつく。


「……お主には、伝えたい事が多すぎるのじゃ」


 魔王城に始まり、リングリン村


 アヴァロン王との謁見に、合戦への助力


 出会ってから数日だというのに、いくら礼を重ねても足りないと彼女は言う。西側の城壁の外、そこを照らす松明のぼんやりとした灯りも、生き残った魔物たちをグリムが治療しなかったら、もっと少なかったろう。


「人魔にも共存の望みがあるとグリムに気付かされて、妾は喜びを抑えきれなかったのじゃ。同時に我らの間にある溝の深さに哀しみもしたが、絶望はしておらぬ。むしろ、よくなる事を想像して楽しみでさえある。じゃからグリムよ、聞き飽きたとお主は言うかも知れぬが、もう一度言わせてもらいたいのじゃ。……ありがとう、と」

「助けられたのはお互い様だ。メアに発破はっぱかけられなきゃ、俺は腐ったまま森にいたさ。自分を哀れんで、惨めにな。でも、そんな俺にもやれることがあるって教えてくれたろ? やらなきゃならねえこと、使命があるって。…………ありがとう」


 噛みしめるよう頷いたグリムがしみじみと礼を口にすると、メアは気恥ずかしそうにはにかんで、街の方へと視線を逃がした。


 照れているのかも知れない。

 とはいえ茶化すような場面でもないので、グリムは沈黙を守ったまま彼女の後ろ姿を眺めていたが、しばらくして、どうやら思い違いをしていたらしいと気が付いた。


 メアの臀部から生えている魔族の尻尾。その先端の小刻みな揺れかたは、やましいことがあるときに猫が見せる仕草によく似ていた。そして、グリムの予想を裏付けるように、背中越しに話し始めた彼女からは、明らかな申し訳なさが見て取れる。


「あのぉ……、じゃな。互いに感謝を示した直後に言うのはズルい気もするのだが、妾にはあと一つ、詫びねばならぬ事があるのじゃ」

「そりゃメアの勝手だけど、こっちに思い当たる節はねえぞ。時々、尊大なのは鼻についても、頭にくるって程じゃない。魔族の姫様って身分を考えれば当然だからな」

「う、うむ。物言いは気になるが、友情には感謝するのじゃ」


 変わらず砕けたグリムの態度がメアの罪悪感を薄めたようで、彼女の語り口は幾分か緊張から解放されたようである。

 短く息を吐いたメアは、逃げずにグリムを見上げて続けた。


「視てしまったのじゃ、妾は」

「視た?」

「主導権はお主にあっても、見ないようにすることは出来た。悪気はなかったのじゃ! じゃが、どうしても、その、続きが気になってしまって……」

「……続き?」


 意味が掴めずグリムはただ繰り返しただけだったが、頷くメアを見つめている内に、彼女がなにを言わんとしたのか思い至った。


 そう難しい推測ではない、メアがなにを視たのかを当てるのは。

 ここで問題なのは、どこを視たのかという点だろう。

 確かに不愉快ではあった。しかしグリムは詰問するような真似はせず、ただ困り気味に鼻息を鳴らしながら腕を組んで、上目遣いのメアを見つめ返す。


 そして、尋ねた。


「どこまでだ?」

「レリウス三世に見せたのは、妾の父上と勇者アレックスが共闘を決めたところまでだったじゃろ? 城の空には【星渡りの蝗ローカスト】円盤が浮かび、父上から鍵を受け取ったお主は、離れの塔へと走った。迫りくる脅威を王に伝えるには、ここまで充分じゃからな。じゃが妾は――」

「はぁ、なるほど……、その続きを視たんだな」

「如何にもじゃ」


 しかめっ面になったグリムが額を揉んでいる。ほぐしたところで解決するわけではないが、そうせずにはいられなかった。隠しておきたかった相手に秘密を知られてしまったのだから、頭の痛いことである。


 ……ところがだ。


 メアは、その心理が理解出来ないとばかりに彼に尋ねるのだった。問いはひたすらに純粋で、先程までの後ろめたさとは打って変わって、どこか可愛げさえある。


「どうして、妾に黙っておったのじゃ?」

「それを本人に訊くのかよ」


 勘弁してくれと言うグリムに、だがメアは続けた。

 好意と感謝、それに多大な好奇心が原動力になっていれば、そう易々とは止まらないものだ。


「隠す理由が思い当たらぬからじゃ。お主は妾の命を救った、比喩でも誇張でもなく、まさしく言葉通りの意味として。あの時グリムが現れなければ、妾は確実に死んでいたのじゃ」


 グリムから、当時の状況を聞かされたメアの頭に思い浮かんだのは、気を失って倒れている姿が精々だった。


 無論、その想像は正しい。

 攻撃を受けた塔の中でメアは気を失っていたし、グリムは倒れていた彼女を助けた。だが、詳細が明らかになると、そう簡単に語れる状況ではなかったと思い知る。


 グリムが部屋に突入したとき、メアは瓦礫の下敷きになりカーペットは血塗れ、その背には肩から斜めに大きな裂傷が奔っていた。傷は深く背骨は折れ、内臓も損傷があった。重体とい言葉さえ生易しく思える傷を負っても、かろうじてメアが生きていたのは、ひとえに魔族としての肉体が理由である。


 だが、それだけでは助かることはあり得なかった。


「――お主があの場で、回復魔法をかけてくれなければ妾は死んでいたのじゃ。しかもお主は、【星渡りの蝗ローカスト】からの攻撃のなかに留まり、治療を続けてくれた。自らの命までも危険に晒しながら。勇猛な魔族であっても容易く出来ることではない、お主の行動は勇敢で賞賛に値する、だからこそ、秘する理由が分からぬのじゃ。もっと胸を張ってもよいはずじゃろ? それとも、魔族である妾を助けたことを悔いて――」

「――傷だよ」

「…………のじゃ?」


 首を傾げたメアに、グリムはうんざりしながら続けた。

 いっそ全部吐き出した方が楽なのだと、彼は思い直すことにしたのである。


「傷は塞いだけど痕までは消せなかった。魔族でも女で、メアは言っちゃ悪いがまだ子供だ。そんなお前の背中に、大きな傷跡を残したのが、どうにもな」

「ハハハ、自身は傷だらけのくせに、お主は変なところで真面目じゃな。命を救われておいて、傷一つに怒るなど恩知らずも甚だしいじゃろう。妾がそんなにも狭量だとでも思うのか?」

「いやぁ、お前じゃなく、俺のプライドの問題だ」

「矜恃の話をするならば魔族にもある。我らにとっての傷とは戦士の証じゃ、そこに誉れはあれど恥はない。お主が消しきれなかったこの大きな傷も、妾にとっては誇りの一つじゃ。背にあるから、眺められぬのが残念じゃがのう」


 何気なく答えたメアは、清々しい笑みを浮かべていた。

 彼女は本心から、その背に奔った傷跡を誇りに思っているらしい。


「……魔族の考えってのは分からねえな」

「それは当然じゃろう、妾も人間について分からぬ事だらけだ。ゆえに沢山教えてもらいたいのじゃ、人間のことを、お主のことを――」


 そう言った彼女の微笑みから、グリムは逃げるように目を逸らす。緋色をした彼女の瞳は純粋に色めき、直視に耐えるものではなかったからだ。

 彼が溜息をついたのは、そうでもしなければ切り返すのが難しかったからである。


「はぁ……、もう分かったから、右手だせよ」

「…………イヤじゃ」


 唐突に子供じみた言いぐさでメアはそっぽを向いたが、逃げ場などどこにもない。


「隠すな、ずっと庇ってたのバレてんだよ。その右拳、砕けてるんだろ? 下手な魔力制御で肉体強化して、オークの顔面殴れば砕けて当然だ。骨が皮膚を突き破らなかっただけ運が良い」

「むぅ……、お主の目ざとさは、時々疎ましく思えるな」

「文句はいいから診せてみろ」


 渋々差し出したメアの右手は、黒い毛皮に覆われているために傍目には腫れていると分かりにくい。しかし、回復魔法を灯しながら患部に触れてみれば、明らかな腫れと熱があった。


「こうなるから、黙っておきたかったのじゃ」

「ん?」

「妾が怪我をしていると知れば、お主は無理をしてでも治そうとするじゃろ。骨が折れた程度、魔族であれば勝手に治るというのに。今日だけでも、グリムの身体には体力的にも魔力的にも相当な負担が掛かっているはずじゃ」

「三桁の負傷者の相手してるんだ、今更一人増えても同じだよ」


 なんてグリムは強がってはいるが、魔力が消耗しきっているのは明らかで、明らかに回復魔法の効きがわるい。なので彼は気を紛らわすために言葉を続けた。その方が黙りこくっているよりか幾分かマシである。


「なぁメア」

「なんじゃ?」

「魔族は戦うのが好きなんだろ? そうなると、手柄を自慢しあったりするものなのか?」

「魔王城暮らしであった妾まで手柄を届けに来た者はおらぬが、前線に出ていた同胞にはいたじゃろうな。強者と戦い、そして倒すことは我らにとって誉れじゃから、むしろ自然と言ってよい。人間であっても珍しいことではないと思うが? お主にも、忘れられぬ戦いの一つや二つあるじゃろう?」

「否定はしねえ、記憶に残ってる魔物はいるよ。まぁそれはさておき、同じ自慢話を繰り返しされたらどうよ?」


 要領を得ない会話にメアは首を傾げたが、とりあえず素直な感想を口にする。


「程度にもよるが、同じ話ばかり聞かされるのは退屈じゃな」

「顔会わせる度に、繰り返し繰り返し、だ」

「そこまでいくと、嫌気が差しそうじゃ。それになによりも――」


 と、言いさしたメアは、疑問に答えが見つかったとばかりに「あぁ」と溢した。

 グリムも黙って肩を竦める。

 彼女の思い浮かべた答えは恐らく正解だろうから。


「つまりお主は、格好つけるために黙っておったわけじゃな?」

「はぁ、皆まで言ってくれてアリガトよ」

「フフ、つくづく面白い人間じゃなグリムは。栄誉よりも、自身の矜恃の為に黙するとは」

「そこまで気付いたんなら、黙っててもらいたかったけどな。おかげで俺のプライドは丸裸だ」

「妾はいつでも構わぬぞ、お主の肉体は見応えがありそうじゃもの」


 メアはそう言ってカラカラと笑った。

 その笑みはなんというか、気負いや緊張が取り払われた、年相応の少女が浮かべる笑みであり、素のメアを眺めている気がした。


「よし、もういいだろ。痛みは?」

「綺麗に消えた、流石じゃな」

「ところでメア――」


 グリムは言いながら、治療を始める際に耳に挟んでおいた葉巻を、あらためて摘まんだ。


「コレはどうやって使えばいいんだ? 折角だし、魔力が回復するなら使っておきたい」

「そうじゃった、説明がまだだったのう。なに簡単じゃ、口にくわえるだけでよいのじゃ」


 言われるままに葉巻を咥えて、グリムは続きを促した。


「それで?」

「あとは火を点けて、煙を吸えばよいのじゃ。どれ、妾が火を与えよう」


 パチン――、とメアが指を鳴らせば、その親指に灯した蒼炎で、彼女は葉巻に火を点けた。


「おそらくはグリムが、獄炎で葉巻を吸う初めての人間じゃろうな」

「ありがとう。贅沢な使い方だ」

「話すのはいいから煙を吸ってみるのじゃ、ただしゆっくり吸うのじゃぞ? さもないと――」

「ゲッホ! ゲホゴホッ⁈」


 メアの忠告は少し遅く、煙と一緒に思いきり息を吸ったグリムは、気管が裏返らんばかりに咳き込んでしまっていた。それも暫く収まらず、息をする間もなく咳が出続けるから涙目になるくらいである。


 メアも若干驚いていた。


「すまぬ。人間相手には強すぎたかもしれぬのじゃ」

「ウあぁあぁぁぁ、ケホッ、いやいい。こいつは、強烈だ……」

「激しく咳き込むのは、それだけ魔力が枯れている証拠じゃ。苦しいだろうが、その一本だけでも吸っておくとよい。そうすれば翌朝には、かなりの魔力が戻るはずじゃから」

「あぁ……、利いてるのは感じるけど、キツすぎて眠気トんだぞ」

「構わぬじゃろ。元々眠れぬから夜風に当たりにきたはずじゃ」

「話してる内に、いい感じの眠気が来てたんだよ。いまのでどっか行っちまった」

「そうか、それは……、わるいことをしたのじゃ」


 微笑んだままのメア


 そんな彼女と目が合ったグリム


 二人は言葉を探すように見つめ合ったが、しばらくすると、その答えを他所へ求めて視線を外しあう。夜風が頬を撫でては去り、運ばれてきた草の香りも穏やかだ。塔の二人は口を閉ざして静寂ばかりが鳴っているが、そこには安心感だけがある。


 じつに、心地よい沈黙だった。

 だが、すべてが穏やかで満たされているとは言い難く、ふと視線を向けたグリムが見咎めたのは、壁に置かれたメアの震える手。その手の震えに気付いているのか、いないのか、しかし彼女は遠く地平線を望むばかりである。


 毅然とした眼差しの裏側に潜むのは、不安か後悔か、それとも恐れか――


 メアがなにを思っているのか、それはグリムにも分からぬ事だが、彼はなにも言わずに、ただ少女の蒼い手に自分の手を重ねると、並び立って地平線を望んだ。


「……グリム」

「大変なのはこっからだぞ」


 前だけを見てグリムが言えば、メアも同じく前を向いた。


「そうじゃな、すでに覚悟は決まっておる。――お主は?」

「魔王女のために処刑されかけたんだ、訊くだけ野暮だろ」

「ふふっ、愚問じゃったか」


 彼方に光の弧が浮かび、気の早いどこかの雄鳥が高らかに朝を告げる。

 夜の帳をおしのけ太陽に幻惑されながらも、しかし再び見開いた彼等の目には気力が満ち、胸に秘めた想いは朝日よりも熱いだろう。


「幾度夜が来ようとも、次の朝日は必ず昇る。我らは知れず夕暮れに立ち、遠からず宵闇に沈むじゃろう。だが世界にまた陽は昇る、重苦しい暗幕がどれほど光を遮ろうとも、妾は決して諦めぬ」


 凜としたメアの声は、澄んだ朝焼けによく響いた。


「グリムよ! 妾はあの暁に誓うのじゃ! この星に暮らすすべてを隔たりなく守り、そして必ず、人魔の平和を成すことを!」

「分かってる。力を貸すぜ、魔王女様」


 握りしめた手


 人魔を照らす陽の光は


 力強く輝いている

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魔王女様のレコンキスタ 空戸乃間 @soratonohazama

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