あったかい色の夢・熱く苦しい色の夢

「おや。おやあ?」

 おい森神社もりじんじゃで、洸壱こういちがお犬様いぬさまと睨めっこしている。

「こんなにヒビ、あったかあ?」

 首に注連縄しめなわを巻いた〝紫色のあいつ〟が飛び出した方だ。あの時できたヒビのまわりに、すごく細かいヒビが無数にあった。範囲は狭い。ちょっと見ただけではわからない。

「お父さん! お父さん!!」

 壱恵かずえが走って来た。掃除機を抱えて。

「ハッハッハッ。なんだ母さん。ここの空気、吸い尽くすのか?」

「そうじゃなくて! はじめのお守りが、色が!」

 壱恵かずえの手には、赤い色だった小さいお犬様いぬさまのお守りが四つ真っ黒、闇色やみいろになっていた。

 はじめの部屋の四隅に置いて結界けっかいを張っていたお守りが。

 バンッ!! 突然、お犬様いぬさまの右目、頭半分が砕け散った。壱恵かずえは悲鳴を上げる。

「お父さん! はじめたちが危ない!」

 洸壱こういち壱恵かずえは、見た。〝紫色のあいつ〟が飛んでいったのを。

「……。母さん。支度をしてくれ」

 洸壱こういちは、落ち着いた声だ。

「俺は鴨武かもたけ先生に連絡をしておく」

宇野月うのづき公園こうえんに行くぞ。一緒に」

 壱恵かずえは黙って、洸壱こういちの目を見て、うなづく。

 ブツッと、お犬様いぬさま注連縄しめなわが音をたてて切れて落ちた。


「サテ、困りマシタ」

 まなぶは今、外にいる。はじめたちを追いかけて行く途中にある木の茂みの中に。その木は交差点の角に生えている。隠れながら、なんとかここまで来た。

 今は人がちらほら歩いている。車も走っている。これでは出て行けない。

 公園への方向の信号が赤になった時。一台の車が止まった。

「あれハ……」

 その車のドアには〝おい森神社もりじんじゃ〟の文字。

「ああ! また赤」

 壱恵かずえが助手席で悔しそうにつぶやく。神社を出てから何度も赤信号で止まってしまう。

 まるで邪魔されているように感じてしまいそうだった。

「落ち着いて、母さん。ん?」

 洸壱こういちが運転席から壱恵かずえに声をかけた時、車がゆれた。

「屋根に何か落ちたかな? 音はしなかったがなあ」

 窓を開け、身を乗り出して屋根を確認する洸壱こういち。何もない。

「青よ! お父さん、早く!」

 走り出す車。の下に……まなぶがつかまっていた。人がいなくなった隙をついて。

 これなら見つかりにくい。グッジョブ、まなぶ

鴨武かもたけ先生には連絡とれたの?」

「それが、スマホに何度かけても留守電なんだ。声は入れておいたけど」

「私たちだけでも急ぎましょう!」


(あれ、母さん? 父さんも。若いなあ……)

 目を開けたはじめを見つめる洸壱こういち壱恵かずえ。二人は二十代だろうか。その頃の姿を写真で見た覚えがある。

 甘いなつかしい匂い。記憶の片隅に、そっと置いてある壱恵かずえの香り。はじめ壱恵かずえに、いだかれている。

 そして頬に、とても柔らかく感じる温もり。はじめ洸壱こういちに頬を撫でられている。

 はじめの視界に、二つの小さい手が見えた。小さな手が、二人の顔をペチペチと叩く。

(この手、おれ? っこされてる……。? おれ今、赤ちゃん!?)

 壱恵かずえの声が聞こえる。歌のような、優しい声。

「この子は、神様から預かった子ね。私たちの所に来てくれたんだ……」

 洸壱こういちの声が聞こえる。はじめを包み込む、頼もしい声。

「ああ。そうだね。きっと、強い子に育ってくれるよ」

「ねえ。洸壱こういち……。はじめは、本当に行かなきゃいけないの? いやよ」

「大丈夫だよ壱恵かずえ。俺達がまもるんだ。その時も、はじめまもるんだ」

(なに言ってるんだよ。父さん……母さん……。神様から預かったって。おれ、父さんと母さんから、生まれて来たんじゃないの? 行かなきゃって、なに?)

 頬を撫でる洸壱こういちの手と壱恵かずえいだかれている心地よさに目を閉じ、また眠っていくはじめ


 はじめは熱くて目が覚めた。

(あっちぃ。え! 火事?)

 あたり一面が火の海だ。どこかの建物の中? いくつもの太い柱が燃え、所々上から火の塊が落ちてくる。渦を巻いている炎だらけだ。

 はじめは走っていた。火を避け、飛び越えながら駆け抜ける。ひとっ飛びに階段を上がり、目的の場所へ。たどり着いたのは、かろうじて燃えていないところ。壁となった炎の中心に誰かいる。一人では、ない。

 真っ赤な炎が取り囲んでいるのは、傷ついた白金はっきんオオカミ八咫烏やたがらすだった。

 横たわった白金はっきんオオカミの激しい息づかいが聞こえてくる。身体がだらんとして力が出ないのか。目をつむったままだ。そして傍らには八咫烏やたがらす。周りに散らばっている黒い羽は、激しい戦いを物語っていた。白金はっきんオオカミまもったのだろうか。動かないが生きている。目を見開いて、何かを睨んでいた。

 彼らは負けている。いや、負けてしまった。

 そして彼らをかばうように立っている、金色こんじきオオカミ

 金色こんじきオオカミもまた、ひどく苦しそうだ。身体に焼け焦げたあとがある。立つのもやっと、という感じで時々よろける。それでもなお、戦おうという意志が見える。

 直感でわかったはじめ金色こんじきの、このオオカミは。

櫻子さくらこ……。え?)

「やめろ兄さん! やめろ!」

(なに言ってんだ !? おれ !!)

 はじめの視線の先に、彼らと彼女の前に立っている何かがいた。形があやふやな、ゆらゆらとれている炎のような。

 それは、紫色。

 紫色がはじめを睨んだ。目つきがみにくい。野望を持った目。怨念おんねんの目。

 そしてそれは、オオカミの顔。


「んがっ!」

 自分の変な声ではじめは目がさめた。

「あれ? 夢、か。昼寝しちった……。んがっ!」

 しっかり目覚めた壱の目と鼻の先に、眠っているお姫様の顔がありましたとさ。

 めでたし、めでたし。

(近い! 近いぞ土御門つちみかど!)

 お互い横になって、顔と顔の間は30センチくらいか。もっと近いかも。

 じっと櫻子さくらこを見るはじめ。金色の髪と金色の長いまつ毛。風で前髪がフワフワしている。

(キレイだな。ちょっと触ってみたい)

 じっと櫻子さくらこを見る。ちっちゃくて白い顔。

(カワイイな。ずっと見ていたい)

 じっと櫻子さくらこを見る。ピンク色の唇。

(タマラン。いっぺん、お願いしたい)

 何を?

「うーん」

 起きそうな櫻子さくらこ

「ぅヲい!」

 すっとんきょうな声を上げて、あわてて芝生に突っ伏すはじめ

ねむちゃってた。はじめ? 何してるの?」

 突っ伏したまま足をバタバタ。

「バタ足の練習……」

「熱心ね。咲子さくこまもるは? あれ、もう夕方? なんかうす暗い」

 前髪が揺れている。

 二人は空を見上げる。

 空が、回っている。桂の木を中心にして、その真上の雲がうずを巻いていた。

櫻子さくらこちゃん! はじめちゃん!」

 咲子さくこが叫びながらまもると走って来た。まもるが、

さくちゃんと歩いてたら、いつの間にか誰もいないんだ。それに」

「それに、ここから出られないんだよ!」

 不安を隠せないまもる

「これって、もしかして」

 思いっきり前髪が揺れている櫻子さくらこの言葉の後に全員が声を揃える。

結界けっかいの中』

 もしかしなくても、だ。空が、紫色になった。

 その色が降りてくる。まるで、世界を覆うように。


「いない……。ここにいるはずなのに」

 洸壱こういち壱恵かずえはあぜんとした。かつらの木のまわりには人々がくつろいでいる。事件があった様子はない。普通の平和な公園に見える。

 だが二人は感じとっていた。

「ここの空気はおかしい。何かが違う」

結界けっかいデス」

 洸壱こういちに答える声が不意に後ろから。

「え?」

 声に振り返る。そこには人体模型が立っていた。

「え? え? えー! 何これ? いつの間に? しゃべった?」

 おどろく壱恵かずえ

「はじめマシテ。はじめサンノお父サン、お母サン。ワタシは天則あまのりまなぶと申しマス」

 自己紹介が終わると、模型の表面にヒビが入ってはがれ落ちる。まなぶは自動人形の姿になった。

「君が鴨武かもたけ先生の式神しきがみか」

 洸壱こういちが落ち着いて話す。壱恵かずえもカモカモ先生に式神しきがみがいることは知っていたが。

「まさか人体模型の中にいたとは。はじめたちを助けに来てくれたんだね」

鴨武かもたけ先生はどうしたの?」

 壱恵かずえの質問にまなぶは、

「ワタシからカモカモ先生にハ伝えテおきマシタ。もう来テるハズなんデスけど」

「今、結界けっかいと言ったね」

「ハイ。ワタシには見えマス。かつらの木ヲ中心に、ココ全体ガ結界けっかいニなってイマス」

はじめサンたちダケが閉じ込めラレテ、今はココの向コウ側にイマス。マサカ、こんなコトにナルとは予想デキませんデシタ」

「なんてこった。俺達に見えないなんて」

 洸壱こういちが肩を落とす。二人とも強い霊感を持っているのに。あいつは一枚上手のようだ。

「ワタシは向コウ側に行ケますガこの結界けっかい、強すぎテ時間ガかかりソウデス」

「私達が協力すれば良いのね?」

「はい。お願イいたしマス」

 壱恵かずえに返事をするまなぶ

「わかった。向こうに行ったらこれをはじめに。母さん」

 壱恵かずえは、絹布にくるんだ小さい丸いものをまなぶに渡す。

「きっと、はじめたちの役に立つはずよ。お願いね、まなぶちゃん」

 まなぶがうなずく。洸壱こういち壱恵かずえまなぶの前に並んだ。

 大幣おおぬさを振る洸壱こういち

 そして三人声をそろえ、小さな声で神様に申し上げる。

けまくもかしこき(くちしてご尊名そんめいもうげるのもおそおおい)

 伊邪那岐大神いざなぎのおおかみ(イザナギノ大神が)」

筑紫つくし日向ひむかたちばなの小戸おど阿波岐原あはぎはらに(筑紫つくし日向ひむかたちばな小戸おど阿波岐原あわぎはらで)」

御禊祓みそぎはらたまひしときに(禊祓みそぎはらいをなされたとき

 せる祓戸はらへど大神等おおかみたち(おまれになった祓戸はらえど大神達おおかみたちよ)」

諸諸もろもろ禍事まがごと 罪穢有つみけがれあらむをば(様々さまざま災難さいなんつみけがれがございましたら)」

はらたまい きよたまへともうことを(はらいおきよめくださいともうしますことを) 

 こしせと(おとどけくださいませと)

かしこかしこみももうす(おそおおくももうげます)」

はらたまい きよたまへ(はらいおきよめください)」

 祝詞のりとで我が身を清め、壱たち四人の災難をおはらい下さるように祈った。

 言霊ことだまの力を学に持たせる。

「それデハ、行ってマイリます」

「頼むよ。はじめたちを」

「必ズ連れテ戻っテ来マス。洸壱こういちサン」

 二人に背をむけて、かつらの木へ向かうまなぶ

「お願いよ、まなぶちゃん」

 振り返って壱恵かずえに手を振る。向こう側へまなぶが消えて行く。


 はじめたちは抜け穴を探していた。学校が結界けっかいになった時のように、わずかな光を求めて。

「変。Noノー wayウエイ!(こんなのありえない!)」

 櫻子さくらこが叫ぶ。見つからない。どれだけ感覚を研ぎ澄ましても、針の穴ほども、ない。

 そもそも四人だけで見つけるには、この公園は広すぎた。芝生の面積だけでもかなりある。櫻子さくらこの感覚だけを頼りにしていては、彼女が疲れるだけ。

 どうする、はじめ

「みんな。一緒にいよう。この色は、あいつの結界けっかいだから」

「こっちも結界けっかいを張るしかないか。土御門つちみかど結界けっかいでみんなをまもれる?」

 櫻子さくらこはポシェットをゴソゴソする。

「えと。盛り塩と。式札しきふだが、1、2、3——全部で20枚ね。これで式神しきがみを呼べるわ。結界けっかいにはならないけど、みんなをまもる壁になるはず。あとは、地面に直接結界けっかいを描くしか」

 咲子さくこが気づく。

「ここ、芝生よ。描けないかも」

「あらら。じゃ、じゃあ盛り塩を置こう」

 そう言って四つ、芝生の上に置く櫻子。コロリン。盛り塩が転がる。芝生では不安定だった。

「ま、まかせて! 塩を砕いて円を描くわ。効果はあるから!」

 櫻子さくらこが言ったとたん。ビュウーーッ。と強い風が吹いた。

「……」

「……」

「……」

「……風で飛んでっちゃうね……。さ、櫻子さくらこちゃんのせいじゃないよ。だだだ大丈夫」

 全然、大丈夫ではない櫻子さくらこをなぐさめる大丈夫じゃないまもる。お前も落ち着け。

「ええええーと。おれは桃の木で作ったおふだと、お犬様いぬさまのおまもり。と大口真神様おおくちのまがみさま!」

 ウエストバッグから取り出すはじめ。桃の木のおふだ四体よんたいオオカミの姿のおまも一体いったい

 そして大口真神おおくちのまがみの文字を筆で書いたおまもりが一体いったいはじめの持っているおまもりとおふだの中で一番、強い。

 おふだやおまもりは〝たい〟と数える。神様の分身だから。

「桃のおふだはみんなに渡しておく。結界けっかいの代わりになるから」

 三人におふだを渡すはじめ。みんなはそれを握りしめる。

「あとはおまもりが二体にたいか……」

 櫻子さくらこの前髪がまた、れた。

はじめちゃん! 芝生からなにかえてきた!」

 叫ぶ咲子さくこ。鬼が姿を現した。裏門通うらもんどおりではじめ櫻子さくらこが見たのと同じ姿だ。わらわらと湧いて出てくる。

(いたいた。こいつだ。こいつらだ)

 鬼が喋る。嫌な声。

 みんなで桃のおふだを鬼にかざす。鬼たちは近づけないようだ。効果はある。

「うわ、押し返される。これ、力くらべだ」

 まもるが負けじと押し返す。

 いくつもの鬼が四人を取り囲んでくる。ものすごい数で、無理矢理にでも押し破るつもりだ。みんなが持つ桃のおふだにヒビが。

式神しきがみ!」

 櫻子さくらこの放つ式札しきふだが赤いアゲハ蝶へと変化へんげ。無数のアゲハ蝶で鬼たちを押し返す。

「もう一つ!」

 もう一枚、式札しきふだでアゲハ蝶の数を増やす。これでしばらくはつ。

六根清浄ろっこんしょうじょう! りん! ぴょう! とう! しゃ! かい! じん! れつ! ざい! ぜん!」

 はじめ手印しゅいん九字くじを切る。鬼をけちらす。

 櫻子さくらこ格子こうし九字くじを使う。

朱雀すざく! 玄武げんぶ! 白虎びゃっこ! 勾陣こうちん! 帝久ていきゅう! 文王ぶんおう! 三台さんたい! 玉女ぎょくにょ! 青龍せいりゅう!」

 こちらは土御門家つちみかどけに伝わる九字くじ。かなり強い。

 はじめ櫻子さくらこ九字くじで鬼は次々と消滅していく。それでも、数が多すぎる。

「キリがない!」

 壱が地団駄ぢたんだをふむ。消しても消しても、湧いて押し寄せる。

「ぼくがいくよ!」

 立ち上がるまもる

「うん!」

 唇を噛みしめて、咲子さくこまもるの手を引っ張った。

さくちゃん、大丈夫だよ。ここでみんなと待ってて」

「うん! ん!!(わたしも連れてけ!!)」

 グイグイ引っ張る。

 まもる咲子さくこの手を強く握る。

「……。護法童子ごほうどうじ!」

 銀色ぎんいろ桜色さくらいろつるぎが二人を包んで護法童子ごほうどうじに変身した。つるぎは回転を始める。

『行っけええ!!』

 二人の声が、つるぎのボールがどんどん鬼をなぎはらっていく。

「いいな。二人で」

 櫻子さくらこがつぶやいた。

「ここここっちは出来ることをやろう!」

 がんばれはじめ九字くじを切り続けろ。

 ゴロゴロゴロッ。うずを巻いた雲の中心から、雷鳴が轟いた。

 ドンッ!! 辺り一面、真っ白に。

 轟音とともに稲妻が護法童子ごほうどうじを直撃した。咲子さくこまもるをねらったのだ。

「うわあああ!」

「きゃあああ!」

 電撃が痛みとともに二人の身体からだの中を走る。

咲子さくこ!」

まもる!」

 はじめ櫻子さくらこは叫ぶ。

 稲妻は終わらない。しつこく、護法童子ごほうどうじをせめる。焼きつくそうと。

「クッソおおお!!」

 歯を食いしばるまもる。バチバチ鳴る電撃の音。まもる咲子さくこを抱きよせた。力をふり絞る。

 すると、電撃の光はつるぎの先へ集中し始めた。そして。

「思い知れえええ!」

 まもるの叫びでつるぎの先から四方八方、電撃が飛び散る。鬼たちに命中し、焼き払っていく。 全ての鬼が燃えた。

 だが。護法童子ごほうどうじつるぎが砕ける。力つきた二人は、その場でたおれてしまった。

「やった……。咲子さくこ! まもる!」

 駆け寄るはじめ。二人を両脇に抱え、櫻子さくらこのところへ戻る。

はじめちゃん。櫻子さくらこちゃん。なんとか鬼をやっつけた、よ」

まもる咲子さくこ。ありがとう」

 櫻子さくらこが二人の手を握る。まもるは気を失った。咲子さくこも気絶している。大した怪我はないようだった。

 はじめは、咲子さくこまもるを並べて寝かせた。そしてお犬様いぬさまのおまもりを咲子さくこの手のひらに。そこへまもるの手のひらを重ねる。二人の指を、ていねいに絡ませた。

「これで、大口真神様おおくちのまがみさままもってくれるよ」

土御門つちみかど、まだやれる?」

「Yes, あなたがいるものまもる。……櫻子さくらこって呼んでいいわよ(呼んでよ。私を)」

「OK, ゼッッッタイ、次も来る! 気を抜かないで。OK ……。(ごめん)」

 はじめは、櫻子さこらこの目を、まっすぐ見る。

 櫻子さくらこはこの時を待っていた。冗談から始まった、本気。彼女は今、心から自分の名を呼んでほしかった。

「おれと一緒に闘ってくれ。さくら——」

 ドッカン。芝生がめくれ上がった。盛り上がる土の塊。その中から、大きな鬼が2匹、出た。

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