真っ白カモカモ先生・これまた真っ白の、学

「おはよう! まなぶ

 人体模型にあいさつするはじめ。後ろには櫻子さくらこはじめのシャツをつまんでいる。

「おはようゴザいマス、はじめサン、櫻子さくらこサン。咲子さくこサンとまもるサンも。今日もヨロシこー」

 シュタッ! と右手を上げて返すまなぶ。シュールだ。なんでか廊下にいる。

「なに人体模型にあいさつしてんの? 狼堂えんどうくん。朝からこわれてる? 狼堂えんどうくんが」

 クラスメイトの女子が気味悪がった。彼女からはまなぶが動いたのは見えてないようだ。見えたらどうなるか。

「おはよう」

「おはよう」

「おはよう」

 櫻子さくらこ咲子さくこまもるの三人も人体模型にあいさつする。

「変! 四人とも変な結界けっかいはってる!」

 男子が叫ぶ。

 結界けっかいってトレンドか? クラスのあちこちで、結界けっかい結界けっかい結界けっかい

 奇怪きっかいな。結界けっかい結婚けっこんすればいい。

「そこのカルテット四人組ー。先生に言うことはないかなー?」

 どどどよ〜んな表情のカモカモ先生が仁王立ちでカルテット四人組の前に現れた。

「おはようございます。先生。そうなんです! ぼくたち、みんなカバンを忘れて帰ったんですー。間抜けでしょう?」

「いやそうじゃなくてだな」

「わたしなんか、帰ってからご飯食べて、お風呂に入って、寝る時に気づいたんです! もう自分で笑うしかない!」

「おれは学校に来るまで忘れてた! ま、いっか」

Meミー tooトゥー ! (私も!)」

 あっけらかんなカルテット四人組

 膝からくずれ落ちるカモカモ先生。頭の中と、顔色が真っ白に。一言ポツリ。

「このバカチンどもがあぁ……」

 燃え尽きたぜ、真っ白に。

 人体模型の学はボソリ。

Ohオォウ Jesusジーザス ……。(アあ、神様……。コノ迷えル、カモカモ子羊ニ救イの手ヲ。ププぷ)」

 目に涙をためて笑いをこらえた。涙は出ないけど。


 で、放課後。理科準備室でカルテット四人組はカモカモ先生にコッテリ絞られた。当然だ。カバンと宿題と先生を置いて帰ったのだから。

 さらに。カモカモ先生から、月曜日の事件について、四人の行動は父兄たちには伏せられることになった。校舎の壁は自然に崩れた。体育館は地盤沈下で。

ということに職員会議で決まったらしい。信じにくいが。

 子供からつるぎえて壊した、の方が父兄にとってはもっと信じられないだろう。

 事実を知っているのは五年一組のみんなだけだ。一応、校外の人には喋らないように言い聞かせてある。彼らは快く協力してくれた。

 他の生徒たちが覚えていないのは不思議だが、まあ何かの力が働いた。ということで、どうかひとつ、明日もヨロシこー。


「ああ。疲れた。こんなに叱られたの久しぶり」

 咲子さくこが机に突っ伏した。

「仕方ないよ。先生との約束、忘れたのはぼくたちなんだから」

 まもるの顔にも疲れの色が出ている。

「私は新鮮だったわ。日本の先生ってああやって怒るのね」

 櫻子さくらこは元気。アメリカの先生は違うのか?。

「おれは聞き流してた。ほら、爺婆に豆腐ってやつ?」

「それを言うなら、馬耳東風」

 はじめ櫻子さくらこがつっこむ。

 五年一組に誰もいないのを確かめたはじめ

「……。土御門つちみかど。転校して来た日に、おれたちに言いそびれたことってなに? 邪魔したの、おれだけど」

「わたしも気になってた」

「ぼくも。バタバタしてたから聞けなかった」

「んー。今日は、やめにしない? 二人は疲れてるし、日をあらためた方が。ちょっと重い話しだから……。櫻子さくらこって呼んでいいわよ。はじめ

 櫻子さくらこ咲子さくこまもるに気を使う。

「そっか、残念……。そうだ! 気分転換に、みんなでピクニックに行かない?」

 咲子さくこが提案。

「今度の土曜か日曜。櫻子さくこちゃんから話しを聞いた後、みんなで遊ぼう。せっかくのゴールデンウィークだし。それなら、重い気分になっても忘れられるかも」

いね! 櫻子さくらこちゃんと遊ぶの、初めてだね」

 まもるの言葉にはじめも同意する。

「おお! 今までのこと、忘れようぜ」

「五日まで休みだし、毎日ピクニックだ」

 調子に乗る。

「ありがとう、みんな。この町のいろんなところ、もっと知りたい。どこ? どこ?」

 櫻子さくらこは身を乗り出して聞く。

 教える咲子さくこ

宇野月うのづき公園こうえん。学校から歩いて三十分くらいかな。広くて、あそこに大きい木があるの。五百年は生きてるかな」

「ここからも見えるよ。ほら、あれ」

 まもるが指さすところに櫻子さくらこが顔を向けると。

 木々が茂る小高い丘の上に、少し開けた場所がある。そこにはポッコリと大きな木があった。

 理科室の窓からもよく見えるほど大きくて太い。今はまだ葉は生えていない。赤い花が咲く時期だから。学校からは、木の全体がうっすらと赤く見えた。

Amazingアメイジング !!(ステキ!!) すごい。山みたい、キレイな木」

櫻子さくらこのおどろいた顔の方がいいな)

 咲子さくこは聞き逃さない。はじめの独り言に、一瞬で耳がダンボになった。恐ろしや。

はじめちゃんに、春が来たのかしら? はじめちゃん、アタックチャーンス!)

 守の目がキラーン。咲子さくこのつぶやきを聞いていた。なんだこの二人。

(これは。公園で二人きりにしないと)

 咲子さくこまもるは目を合わせ、お互い親指を立てて誓う。不気味な笑顔。

「当然お弁当を持ってね。もう、ダブルデートよ」

 咲子さくこがニヤリ。まもるもニヤリ。

 櫻子さくらこが一気にほころぶ。ニッコニコだ。

「めめめめ、めっそうもない。ダブルデートって何? おいしいの?」

 はじめは全力で否定する。顔が桃色だぞ。何? その矛盾。

「……」

「……」

Ohオ〜ウ ……。Chickenチキン heart ハート……。(なんてこった……。こ・の・ヘ・タ・レ……。)」

 咲子さくこまもるの二人はあきれた。櫻子さくらこは、不満顔。

「みなサン、楽しソウデスネ」

「え? まなぶちゃん?」

 みんなで振り返ると。

 まなぶがいた。人体模型の姿で。

「びっくりした。いつの間に?」

 まもるが言う。

「忍びこむノハ、得意中ノ得意デス」

 えっへんと胸をはる。人体模型の姿で。なんのためのスキルだ。

「そうだ。まなぶも来ない? 五人で遊びましょ」

 櫻子さくらこの誘いに、まなぶが笑顔になった。カったい人体模型の姿で。

「アッ。イエ、コンナ姿でハ、やばいデス」

 あわてて考え直す。

「えー? いいじゃん。気にしないよ」

 はじめの言葉に首をブルンブルン。

「イエイエいえいえ! ソウデハなくテ」

「変でスヨ! 人体模型とキャッキャウフフの光景ハ!」

「町の人タチニ見らレタラどうスルンデス!」

 顔を真っ赤にしていた。見えないけど。

「せっかく友達になれたんだから、この機会にもっと仲良くなりましょうよ」

 櫻子さくらこまなぶの話しを聞いていない。

「うん」

「うん」

「うん」

 三人も賛成。のほほん。天真爛漫てんしんらんまんというか。

 まなぶと遊べるとなると、人の目なんかどうでもいい。

 みんなは本気で、そう思ってる。

 ガッチョン。台座の固定器具がはずれる音。

 まなぶは膝からくずれ落ちる。人体模型の姿で。これまた、頭の中が真っ白。

「このバカチンどもガアァ……。うれシイけド……」

 カモカモ先生の気持ちが、わかったまなぶだった。

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