胸がどきどきしすぎたやつ

 僕、安土凛太朗は驚愕していた。


 何がかと問われれば、いきなりすぎたことに対してだ。

 いきなり、再婚したと言われたことに対してだ。


 さてここで、少し冷静になって考えてみようと思う。

 再婚したと言っていたということは、もう事は済んでいるということだ。

 この家で生活するということは、もうこの家に住んでいるということだ!


「いや……意味わかんないけど」 


 意味わかんないけど、言ってることは分かる、もちろん。

 でも、『父さんはな、再婚しようと思う』だったら話はまぁ分かるのだ。


 しかしいきなり、『父さん再婚したぞ!!』は無いだろ!


 父さん再婚したぞじゃないだろ!

 いったい急になんてこと言うんだ!!


 いったん冷静になれ僕。

 ここはそう、僕の反応は間違っていないけれど、きっと当たってもいないのだ。


 父は母が死んでから男で一つで僕を育ててくれた。

 良い父親であったと思うし、いろいろわがままを聞いてもらっている。こうして僕が部屋で寛げるのも全部父のおかげだ。

 そう考えれば、僕はまず祝福の言葉を述べるべきだ。

 

 もう第一声とは呼べないけれど、とりあえずここは、いろいろ言いたいことは抑えて言うべきなのだ。


「なんかわかんないけど、おめでとう」

「おぉ、ありがとう息子よ。ということでよろしくな」

「うん」


 そう言って父は踵を返して部屋を出ていく。


 あ、あれ?おかしくない?

 ……他の説明は?


 しかし扉に手を掛けたところで、思い出したように父は振り返った。


 だよな?そうだよな?まだ話すこといっぱいあるよな?


「――そういえば相手には娘がいて、すごく綺麗な子だったぞ。どうやらモデルをしているらしい」


 そう言った後、それじゃ、と片手を挙げて父は部屋から出ていった。


 騒々しかった(心が)のが、一気に静寂が訪れた。


「え?」


 僕はまたそう呆けることしかできなかった。


 いや、そうじゃなくない?




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 しばらくぼーっととしながら僕はゲームの動画を見ていた。

 なんだろう、現実感とか、その他諸々たくさんのものが欠けている気がする。

 

 主に説明とか、それと説明。あと、説明とか。


 でもそれよりも今は気になることがあった。

 こうして一段落して、まず思い返すのはモデルをやっている娘がいるという発言。


 ふと頭に浮かぶのは、柔らかそうな胸とふとも――じゃなくて同じクラスの女の子。


 いやまて、そんなはずはない。

 そんなことあっていいはずがない。


「…………」


 父はなんというか、言葉足らずなところがある。それを僕は継承しないようにしてきたが、ある意味で僕は言葉足らずなので、こうして陰キャとなっているが、それはそれとして流石に言葉足らず過ぎないか父よ。

 その娘の年齢とかも教えてくれてもいいじゃないか。

 外見的特徴とかも。


 綺麗な娘じゃ何も伝わらない。

 唯一モデルという特徴的な職業をしているらしいが、自分の知っているモデルというのが桃山栞奈しかないので何とも言えない気持ちになっている。

 なんともいえないというか、もしそれが本当に当たっているのならばなんも言えない。言葉なんて出ない。

 

 くっ。そう考えると、こう胸が、すげぇドキドキしてきた。

 いや恋とかじゃなくて、普通に緊張というか、いまさらになって実感がわいてきた。

 

 というか、そもそも再婚相手ってどんな人だ?

 さらに考えは加速していき、どきどきが止まらなくなる。

 

 もうこの家に……来ているのか?

 もうすぐで夕食の時間だ。

 いつも夕食は父と一緒に取るから、もし今家にいるのだとしたら、その人も交えて夕食を一緒に取ることになる。


 考えるだけでもうドッキドキである。

 

 いや、ていうかもし本当に桃山栞奈なら、なんというか今日俺ちょっと険悪ムードっていう訳じゃないが、ちょっと冷めた視線を送られてしまっているんだが。

 同じグループになってしまうどころか、一つ屋根の下でなおかつ家族になってしまうのだろうか。


「なんだそれ……」


 いろいろ余計なことを考えてしまう。

 最悪だ。冷や汗が背中を伝ってブルッとする。


 だからちょっと違うことを考えよう。


「えっと、桃山栞奈って姉になるんだろうか、妹になるんだろうか……」


 誕生日は……って、結局桃山栞奈のことを考えているじゃないか!


 僕はベッドにダイブした後、しばし放心した。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 さて、いこうか。

 あれから少しして動悸は収まったが、こうやって気構えるとやっぱり心臓が煩くなってくる。

 

 母親となる人とはきちんと話せるだろうか、それとその娘さんとも。

 階段を下りながらいろいろと考える。

 

 考えても考えても仕方のないことだと分かっていながらも、ついそうしてしまうが、ついに俺の足はリビングに繋がる扉の前に来ていて、


「ふぅ」


 僕は扉を開いた。

 明るい照明の光が目に差し込んで少し目を細めるが、僕は視線を台所の方へと向ける。


 そこにいたのはキリッとした見知らぬ大人の女性と、その娘であろう女の子。


「っ……!」


 桃山栞奈本人が、こちらをじっと見ていた。


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同じクラスの陽キャ美少女が義妹になって一つ屋根の下 将門八季 @raikuv

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