第7話 天使様はご褒美を用意してくれるらしい

「次根本〜テスト取りに来い〜」


 古典の先生の古林がシワの増えた手でテスト用紙を返却している。


 みんなの反応をみると「ダメだったー」や「全然無理」と今回の古典は難しかったらしい。


「次早坂ー」


 根本の次に名前が呼ばれて、内心少しドキドキしながらテスト用紙をもらいにいく。


「授業はねてるのに、勉強は頑張ったんだな」

「えっ、う、うす」


 古典のテストを見ると右上の合計のところには86点と書いてあった。

 思わず二度見してしまった。前回14点の赤点から今回86点まで上がったのだ。


 そして、自分の席に座ると、楓がこちらを見てることに気づいた。


 楓は俺のテストが良いことに気づいたのか、微笑みながら、クラスの奴らにバレないように、小さくピースしてくる。


「おーい、蓮さんや今回は何点なのかな?」

「86点」

「はっ!?嘘だろ・・・・・・?」

「本当」


 ほら、といい自慢するかのように見せつけると、裏切り者と言ってにらまれた。


「なんでそんなに点数あがったんだ?まさか・・・・・・不正か?」

「ちげーよ。うーん、いて言うなら、良い家庭教師がついた事かな・・・・・・」


 そう言うと、拓人は「俺も塾とか行こっかなぁ」と、どこか嫌そうな顔をしていた。


 拓人は頭は悪くないのだが、大体いつも平均点くらいなのだ、それが本人曰く納得のいく点数ではないらしい。


「ご褒美って何もらえるんだろうな」

「ん?なんか貰えんのか?」

「いや、なんでもない」


 怪しがっている拓人に気づかれないように誤魔化す。


◇ ◇ ◇


 バイト終わり21時辺りは、すっかり暗くなってしまい、街灯や家の灯りが綺麗に見える。


(なんかこうしてると、自分一人に感じるなぁ)


 と感じながらも、玄関の鍵を開ける。


「おかえりなさいっ」


 と言って、スタスタと玄関の前まで天使様がお出迎えしてくれる。


 学校とは雰囲気ふんいきが違うのは、俺が貸したパーカーを着ているからだろう。


「あっ、聞くまでもないかもしれませんが、古典のテストどうでした?」


「お陰様で80点以上だったよ」

「ふふっ、早坂君の頑張りの成果せいかですよ」


 口に手を当ててふふっ、と小さく笑っている。


「それじゃあをあげないとですね」

「あーなにか、くれんのか?」

「ちょっと待っててくださいっ!」


 少し玄関で待たされて、早く家に入りたいんだけど、と思っていた。

 いいですよー、楓の声と同時にリビングに入る。


 するとテーブルには、大きなケーキがあった。


「これ、買ったのか?」

「いえっ!作りましたっ」

「これを・・・・・・作った・・・・・・」

「苺のケーキですけど大丈夫ですか?」


 むしろ好き、と答えて、リビングに座る。


「じゃあ、食べましょうか」


 と言い楓はケーキを6等分に切る。余ったケーキは冷蔵庫入れときますねと言い、ラップを皿にかけ冷蔵庫に入れていた。


「どうでしょうか・・・・・?」


 形の綺麗なケーキにフワッとなった生クリーム、そして頂上には、赤い姫さまが乗っかっている。


 それを見ただけでも美味しいと確信していた。


「うん、うまい」

「よかったぁ」


 不安だったのか、ホッと一息ついている。


「はい、あーん」

「はっ?なにしてんの?」

「あーんですよ?口開けてください」

「いや、一人で食べれるから子供扱いすんな」


 子供扱いされたと思い、口をとがらせて、そっぽ向く。


 その様子を見て、楓はニコニコしていた。


(絶対子供扱いしてるだろ・・・・・・)


 そう思い、ケーキを一口パクッと食べる。食べ終わった後は、皿洗いをする。

 楓は疲れてると思ったから、今日くらいは休んでもらった。


「ありがとな、美味かった」

「いえいえ、こちらこそ喜んでもらえて作った甲斐かいがありました」


 それに、ご褒美なので気にしないでくださいと、言ってきた。


「あっ、まだご褒美欲しいですか?」

「いや、要らないけど」

「今、膝枕ひざまくらくらいならできますよ?」


 本当に大丈夫だから、と言って膝枕は遠慮させてもらった。

 気持ちだけでも十分だったのだ。ここまでケーキを作ってもらえて、嬉しい気持ちが蓮にもあった。


「じゃあ風呂入るかな」


 そう言って上着を脱ぐと


「ひっ・・・・・・」


 という、少しおびえているような声が聞こえた。楓が暗い表情になっており、すぐに服を着る。


(そうか、男の体を見るのは辛いか・・・・・・)


 親に体を汚す仕事を強要されて、逃げたんだもんな、俺の配慮が足りなかったと反省した。

 そう思って、お風呂場に行って着替えることにした。



「ごめんなさい・・・・・」

「別に怒ってねーよ、今のは俺が悪かったろ」


 少し気まずくなってしまい、逃げるようにお風呂場に行く。



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