第6話 天使様は期間限定の家庭教師

 俺は、今テスト勉強に追われている。気がつけば後3日で中間テストだ。まだ大丈夫、まだ大丈夫で気がつけばこれだ・・・・・・

 

 テスト1週間前なのに余裕をぶっこいていたあの日の自分をぶん殴ってやりたい。


「だから、あの日一緒にやりましょう?って誘ったじゃないですか」

「まだ、大丈夫だと思ったんだ」

「そのまだ大丈夫が続いてこれですか・・・・・・」


 ゔっ、と痛いところを突かれ声がれてしまう。幸いまだ金曜日なのでこの3日間を使って頑張ればなんとかなるとは思っていた。


「クソッ今回の範囲苦手な部分多いんだよなぁ」


 そう独り言のように溢したつもりだったのだが、それを聞いた楓は、なにかひらめいた表情でこちらを

ジッーーーーっと見つめていた。


「なんだ?なんかついてるか?」

「いえっ、その・・・・・困ってるなら勉強教えてあげましょうか?」

「えっ?いいよ、自分の勉強もあるだろうし」

「大丈夫ですっ!それに人に教えると、自分も覚えられるので」


 まさに一石二鳥ですね、と言い何故なぜか勉強を教えてもらう流れになっていた。

 勉強道具や教科書をテーブルの上に広げ、テスト範囲の勉強を進めていく。


 蓮が分からないところがあった時、楓に教えてもらうといった形だ。


「楓・・・・・ここ分からん」

「どれどれ?」


 そう言って、楓は蓮の隣に体を移動させ、横の髪の毛を耳の上にかきあげていた。

 その時にフワッとシャンプーの匂いが蓮の鼻に届く。


 同じシャンプーを使ってるはずなのに、楓が使うと、こうも印象が違うのかと、しかしそのいい匂いにほうけてしまい、勉強には集中できなかった。



「コラッ!ちゃんと聞いてましたか?」

「・・・・・・聞いてませんでした」

「正直でよろしいっ」


 そう言って、楓はにっこり笑った。


「早坂君は大体できますよ、問題ないんじゃないですか?」

「いや、ひとつだけ問題がある教科が・・・・・・」


 一学期の期末の時の古典のテスト用紙を楓に渡す。すると楓は大きな瞳をぱちぱちと何度も繰り返し、驚いていた。


「えっ?嘘ですよね?14点って・・・・・・」

「全く分からなかった」

「授業中寝てるからこうなるんですよっ」

「古典の授業は寝るだろ」


「眠くなるのは分かりますけど、授業中寝るのはダメな事ですよ?」

子守唄こもりうたのような話をする古林が悪い」

「先生のせいにしないでください」


 と呆れている楓を見て、「学年一位には分からないだろうよっ」と嫌味のような事を言って、そっぽ向く。


「じゃあ、古典勉強しましょうか」

「嫌だ・・・・・・」

「ダメです」

「本当に嫌、マジで嫌いだから古典捨てる」


「そんな子供みたいな事言わないでくださいよ」


 みたいなと言われ、自分でも情けなく思い、前髪をぐしゃっとする。

 しかし、やりたくないものは、はっきりするタイプなので、古典は本当に捨てようとしていた。


「・・・・・・じゃあ、分かりましたっ!」

「古典やらなくていいのか?」

「違いますっ!古典を勉強して80点以上取れたら

ご褒美あげます!」

「ご褒美・・・・・・?」


 はいっ、とニコニコ笑っている楓を見て嘘はついていないと感じた。


「具体的には?」

「んー、私にできる事なら・・・・あっ、で、でも限度というものが、ありますからねっ?」


 苦笑しながら「分かってるよ」と呟く、楓の嫌がる事はしたくない、というのも同居してることもあり、後々めんどうな事になったりするのは嫌だからだ。


「まぁ、楽しみにしてる」

「てことは、古典を・・・・・・」

「教えてくれるんだろっ、先生?」


 任せてくださいっ!と胸を張って自信満々じしんまんまんに言ってる楓を見て、なぜか元カノを思い出す・・・・・・・・・


 そういえば事あるごとに、俺に自慢じまん話ばっかりして結構うんざりしていたのだが・・・少し聞いてないだけで、「私のことキライ?」とか言ってきてたな


 なんかの小説で鹿と書いてあったが、たしかにその通りかもしれない。

 人を馬鹿にするから、あの女を好きになり、結果裏切られ、心にトラウマを植え付けられる。


(俺・・・・・・なんでアイツなんかとーーーー)


 そう考えた時、むにゅっと顔に柔らかいものが当たる。押し付けられているの方が正しい。


 そして、顔に当たる柔らかさと、ほのかに香る甘い香りによって、蓮の体は固まってしまった。


 数秒経ったあと、やっと何をされているのか分かった。

 俺は楓に抱きしめられていた。むにゅの感触は楓の立派な胸の感触だった。


「えっ・・・・・・ちょっとなにしてっ!?」

「とても・・・・・・とても辛い顔をしていたので」


 大丈夫ですか?と聞かれ、小さく「大丈夫」と返し、楓の胸の中で、何故か暖かさを感じて、瞳を閉じる。

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