???

少年が一人、簡素な部屋に立っている。


部屋の中には丸いテーブル。それに合わせた木の椅子。


そして、鳥かご。


鳥かごの中には色々な鳥の羽根が詰まっている。鳥自体は居なかった。


少年は鳥かごをじっと見つめる。何も感じていない。ぽっかりと、暗い瞳で。


扉を誰かが開けた。


「にいちゃん?」


ああ、分かった。あの兄弟だ。あの兄は死んだんじゃないのか?


「にいちゃん、戻ってきたの?」


少年は何も応じない。ただただ鳥かごを見つめる。


兄は確実に死んでいる。その証拠に、足が少しだけ透けている。少年は亡霊になってしまったのか。可哀想に。だからこちらでも見かけなかったのか。


その証拠に、弟だけが成長している。人間の成長はあっという間だ。


そんな兄を不審に思いながら、弟はそろりそろりと近づいていく。


「にいちゃん、あのとき、血まみれに、なっちゃたのは僕のっ・・・せい?」


弟は震えた声で聞く。窓から入る月光が二人の男の子を照らした。月光が少年を怪しく、妖しく見せる。


「ち・・・」


「ち?」


「ち・・・づき・・・」


ギギギっと音が付きそうなほどに緩慢な動きで兄は弟の方を向いた。


「ちづき・・・・・・・」


「にいちゃん、僕は何をすればいいの?」


どろどろと少年の目から黒いものが溢れ始める。ホラー映画みたいだな。


「お”、お”れ”は・・・ここに”しばら”れ”な”くってえいいぃぃいっ」


だんだんと黒いものが少年の至るところから出てくる。目から、耳から、鼻から。


少年は自分の立場がわかっている。そうだ、お前はそこに縛られなくて良いはずだ。なのに、縛られている。弟が心配だからか?


こっちへ来させるには弟の方を殺せば良いのか・・・。殺るか。


俺はにやっとわらう。


「にいちゃん。僕は、ちゃんとした大人になれるように務めるつもりだよ。にいちゃんの分まで、僕はしっかり生きるつもりだよ。僕はそんなに頼りない?毎日、同じことを言うよ。」


弟の言葉からして、この会話は毎日しているんだろう。どっちもどっちだな。


強制的に兄の方の霊を引き寄せる。


「にいちゃん!」


弟は酷く傷ついた顔で少年の方を見た。少年の体が薄くなっていく。


少し、他の奴らに怒られるかも知れないが、あの弟も後でこちらへ連れてきてやろう。


そう、少年に語りかける。すると、少年は曖昧に笑い、


「じゃあね、ちづき」


と弟に向かって言った。


「にいちゃん・・・ふっ・・・う”ぅっ」


弟は消えた兄の面影を探すように、部屋を見回しながら、その場に蹲って泣き始めた。


これからの少年の行き先をどうするかが楽しみだな。ははっ、久しぶりの娯楽だ。

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