別れ

不思議な夢を見た。


前よりもっと不思議な。その夢を思い出そうとしても白目の部分が真っ黒だったお兄さんしか覚えていない。あれは本当に怖かった。


『大丈夫か?』


ノウルが聞いてきた。


「だいじょうぶだよ。なんだか、すごくこわい、ゆめをみたきがする」


『そうか。最近夢見が悪いな。日頃のストレスか?』


「そうなのかな?僕はふつうにまいにち、たのしいんだけど・・・」


『まあ、それならいいんだが。』


ノウルは微妙な顔をして、早く背中に乗れ、っと、言ってきた。


『あ、その前にいいか?』


『ちょっと話があるんですが・・・』


ラグワとレドラがそろりと出てくる。


「どうしたの?」


『すまないが、私達はここで別れさせてもらう』


『すみません。でも、いつかきっと会えます。泣かないでください、ちづき』


「うう・・・なんでふたりとも、いなくなるの?」


僕は二人に居なくなってほしくて、自然と涙が溢れそうになる。


『会わなければいけない人がいるんだ。その方が、私達のことを思い出した。』


『ですから、行かなければならないんです。あの方のもとに。ちづきも、いつか思い出します。あの方のことを』


「?ぼくはその人に、あったことがあるの?」


『ええ、何回も会ったことがあります。』


『おい、ラグワそろそろ行かねば』


レドラはソワソワと体を揺らして、落ち着きなく、ラグワを急かした。


いつものドッシリとしてして、皆のことを静かに傍観しているルドラの落ち着きのない動きはなんだか、新鮮で面白い。


『はい・・・それでは、ご武運をお祈りしています』


すうっと、二人共、自分自身の影に飲み込まれて、居なくなった。


「へ・・・・?」


いきなり二人が居なくなることに僕がびっくりしていると、ノウルが歩き始めた。


『心配するな。少し・・・・えっと・・・・人生の寄り道をしているだけだ。そのうちに、会える・・・ト、オモウ。まあ・・・・本当は嫌なんだが・・・街へ行くぞ。』


『街!?あんなところにどうして行くの!?』


僕がびっくりして、声を出す前にルフラが叫ぶから僕も同調して、うんうんと頷く。


『ちづきのためだ。別にちづきが嫌なら良いんだが・・・ちづきに世間を知らせとけよ。と、あの水色頭に言われたし・・・レドラもちゃんと人間と関わりを持たせろと言われた。』


「ちゃんと、みんな僕のことを、かんがえてくれてるんだね。うれしい」


『そういうことなら行きたいなあ!』


ルフラがじゃれる子犬のように、ゆったりと歩いているノウルの周りを、ぴょんぴょんと跳ね回る。


『はあ・・・。まあ、別にいいと思うが・・・。うざい。視界に入ってくるな』


『なんで!?俺を視界に入れないことなんて無理だと思うんだけど』


「あははっ!ルフラ、じゃれついてくるのをやめてって言ってるんだと、おもうな」


『そうなの?俺、楽しそうだったから、ついやっちゃった・・・・!」


「ふへへ。ルフラはいいこだねえ」


『本当!?ならさ、ならさ、もっともっと僕のことを褒めてよ!』


『・・・お前らの会話を聞いていると、我の頭が可笑しいのかと思えてくる』


『「そうなの?」』


『・・・・返事に困ってしまうな』


ハハッと困ったようにノウルは笑った。それにつられて僕らも笑った。


深い深い緑の中に僕らの笑い声が響いた。

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