兄 1

私はびっくりして、リビングの扉の前で固まっていた。

今さっき見た景色を思い出してみる。

兄が、組み敷かれていた。知らない男の人に。本当に知らない男の人だった。

現実だよな・・・?そう思ってもう一回扉を開けた。

やはり、兄は組み敷かれていた。そして、兄と男の人は機械のようにゆっくりとこっちを見て、固まった。

兄は上に乗っていた人を押しやり、自分の部屋に駆け込んでいった。

いや、ガチで何してたんすか?

私は部活で疲れて帰ってきたのに、家に帰ったら組み敷かれている兄を見るなんて・・・。

「ごめんな。俺のせいやけん、許してくれんか?」

「いや、許すも何もリビングはありえないと思うんだけど・・・っていうか兄さん部屋から出れたんだ・・・ん?あなた、強姦魔ですか?」

男の人からさっと身を引いて、距離を取る。

「いや、そんなに警戒せんでも・・・大丈夫やで。いま興味あるの兄ちゃんのほうやし。第一俺ゲイやけん。女には興味ないんよ」

「あの兄さんがゲイにつかまった・・・」

「ひどいこと言うなあ」

「本当のことじゃないですか。っていうより、あなた誰ですか?」

浅葱朱あさぎしゅう。よろしくな」

「よろしくしません」

「うわあ、辛口」

関西弁風な言葉をしゃべる男の人は困惑した顔で伸ばした手を引っ込めた。

本当にあのクズの兄さんを好きになってくれる人がいるとは・・・。

「頭大丈夫ですか?」

「え?いきなり?」

「すみません。心の声が・・・」

「びっくりするわあ」

いや、本当に思ってるんだけど。あんな兄のことを好きになるなんて相当の物好きだ。

朱さんを追い返すのも失礼だから、リビングの大きな四人テーブルのうちの一つの椅子に座ってもらう。

こうやって、この椅子に私以外の人が座ったのなんていつぶりなんだろう・・・。

私は話を聞くために朱さんの正面に座った。

「なんで兄のことを好きなったんですか?」

「うわあ、直球すぎん?まあ、話すけど・・・」


朱さんが話してくれた内容をかんたんにまとめると、こう。

引きこもっていた兄はネットで出会った朱さんが漫画家をしていたから、得意の絵を生かして、アシスタントをしていたらしい。で、朱さんが一方的に好きになって、猛アタックすると折れてくれたらしく、今日はじめて会おうということになった。って具合。

「え?朱さんからなの?」

私が一番驚いたのはそこだ。兄さんは中学生、まあ私と同じ年代だった頃一人の先輩に恋して猛アタックしたらしい。噂だけど。

「うん。なかなか折れてくれんかってな。5年?6年ぐらい・・・かな、口説き続けて、顔見たのが今日が初なんで?すごいよな」

「え?兄が引きこもりはじめてからずっとじゃないですか!」

「え?そうなん?会ってみたら可愛いし、意外に若かったし。ええことづくめやったけん、嬉しいわ」

すごい。これは折れる以外の方法がないと思う。

まあ、私も友達という意味では若葉にアタックし続けてるけど。恋人になって、なんて言う勇気はない。

「最初は友だちになりましょ、で1年経って、友達って認めてもらって・・・そこからずっと、恋人になって、ってアタックしたんだよなあ。今となっては懐かしいわ」

「友達に一年・・・兄さん頑固ですね・・・」

「なあ、俺もびっくりしたわ。こんなにかかると思わんけん。5ヶ月間ぐらい音信不通になったときあったし、まあ、そのときは色々つて使って、追い詰めたんやけどな」

そう言った朱さんの顔はすごく曇ってた。本当に苦労したんだな・・・。哀れになってくる。私だったら絶対にアタックするのはやめるなあ。

すると、兄さんがふてくされた顔で出てきた。

久しぶりに見るとやっぱり神々しいな・・・。兄さんは昔アイドルをやってた。それぐらいに顔がいい。童顔って呼ばれるやつ。

私はそんな血は受け継いでないから普通の顔に仕上がった。むしろ私にとってはそれが幸運だったのかもしれない。

兄さんは小さい頃から信頼してたお兄さんに裏切られて、拉致られた。いやあ、何回聞いてもゾッとする。

相当ひどいことをされたらしい。

そのショックで一年間は心の治療をしてたんだけど、治る見込みがないし、家族が誰も元の性格に戻るのを望んでいないということで、強制的に治療をやめた。で、引きこもりに転身ってわけ。

私を殴ったのも自分の身を守るためってわかってるんだけど・・・ムカついちゃうもんはムカつくんだよね。

まあ、一回私を殴ったあとは自分の意志でやってたみたいだけど。目の色が違うからすぐに分かる。

まあ、こんな兄が自分から会いたがる人ができるとは思わなかった。

「なにか、変なこと言ってないよな?」

「俺たちの馴れ初めは話したよ」

「あのことは・・・?」

兄さんが勘ぐるように朱さんのことを見つめて聞いた。それに朱さんは笑顔で答える。

「ああ、親の振り込みがとm、むぐっ!!」

「おいっ!!」

なにか言いかけた朱さんの口をバシッと痛い音を立てて手で塞いだ兄さんが睨んでくる。

あの兄さんが

「なんか聞いた?」

「親の振り込みが止まった・・・?」

感で言ってみたら当たったみたいだ。兄さんが絶望的な顔をした。

「ご、ごめん・・・隠すつもりはなかったんだけど・・・」

「待って、いつから?」

私は兄さんの言葉を遮って聞いた。



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長くなるので、切ります。

次も句伊譁視点です。

注意してください

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