恋心に気付くまで

「ねえ、句伊譁、私のこと好き?・・・・・・・・恋愛的な意味で」

そう言われた瞬間の私はどんな顔をしていたんだろう。きっとひどい顔をしてた。

「な・・・何言ってんの?」

「だから、私のこと好き?」

若葉の今さっきまでの姿は何だったのか、今度は私がうろたえる側になってしまった。

止めてよ、言わせないで。このままの友達でいたい。これで、嫌われたら、終わってしまったら・・・。

「句伊譁、お願い。お願いだから言って?」

「・・・・・」

嫌だよ。なんでそんなに酷いことするの。言わさせないで。私は臆病者だから、言えない。

勝手に息が上がる。喉奥が震え始めて、思わず口を両手で抑える。もう、好きが溢れてしまわないように。

若葉は爆発したら今さっきみたいにドバっと自分の気持ちを言う派だけど、私は違う。でも、今の私は、気持ちが溢れてしまいそうで怖かった。恐怖で手が震える。

ツンとした独特の痛みが顔中に駆け回って、あ、と思ったときには遅かった。

頬に温かいものが伝う。嗚咽が漏れ始める。

「句伊譁・・・ごめんね。」

「う”う”ん”・・・・うっ・・・ふぅ”・・・」

「本当にごめん。でも、私もちゃんとした句伊譁の気持ちを知りたい」

ずるい。本当にずるい。若葉の気持ちは勝手に若葉が暴露しただけなのに。

「ずるい・・・」

「ごめん。それが私だから」

にやっと怪しげな笑顔をしながら、若葉は言った。知ってるよ。でも、今する表情じゃないと思う。一瞬殴りたくなった。

「殴らないでね?」

「・・・・なんでわかったの」

「いやぁ、親友だから?」

「嘘つき」

「ごめんって、でも、私も親友以上になれたらいいなって思う」

「どういうこと・・・・」

「だから、句伊譁が付き合いたいんだったら、私も喜んでお受けするよ、ってこと」

頭がおかしい。今の若葉は頭がおかしい。おかしすぎる。どうしたら、そんな思考になるんだ。

「・・・ふざけないで!!そんな同情みたいな気持ちで!私と付き合おうと思わないで!!そんな気持ちで付き合ってほしくもない!!」

「っ!」

若葉は私にこういう風に反応をされると思ってなかったみたいで、びっくりした顔をして、息を詰めた。

本当にやめてほしい。私は、そういう軽い気持ちで、好きって言ってたわけじゃない。というより、私は若葉に告白してない。原点に戻って考えてみる。

若葉は絶対に、私のことを恋愛という形で好きじゃないということなのは今回のことでわかった。

もういい。私はこの気持ちを伝えることは諦めた。気持ちをわかってもらえない相手に伝えても虚しいだけだ。

付き合えたとしても、私が若葉のことを騙しているような気分になって、きっと、もっと居心地が悪くなる。

「・・・・取り乱した。ごめん、でも、もうこの気持ちは言わないようにする」

「え?なんで?どうしたの?」

「別に気にしなくていいよ。私の中のけじめだから」

「?わかった・・・・」

若葉はギュッと眉をひそめて、疑り深く私のことを見ていたけど、何も言わないんだとわかって、目をそらした。

ぎゅっと、若葉のことを抱きしめて肩口に顔を埋める。

「好きだよ・・・・好き・・・・ごめんね・・・」

「私も。句伊譁のこと好きだよ」

若葉は、背中を優しく撫でながら言ってくれる。

これだけですごく救われたような気がする。もう一回ギュッと強く抱きしめて、離れる。そして、何もなかったかのように、若葉に笑いかけた。

「帰ろうか」

「うん、帰ろう」

今までもこれからも私達は友達、この恋は片思いだけでいい。

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