好きな気持ち

句伊譁と、空き教室で二人きり。あれから一ヶ月経って、学校生活にはもう慣れた。廊下の雑談が聞こえてくる。

「ねえ、知ってる?句伊譁ちゃん、由良ゆらくんと付き合ってるんだって」

「知ってる。由良くん、ベタ惚れなんだってね」

最近こういう話題を聞くことが多くなった。私としては、いい気持ちではない。

だって、今までだったら句伊譁の噂の相手はずっと私だった。なのに、今回は男の子だ。

由良くんは、いい男だ。知ってる。優しいし、何より顔がいい。

噂される原因になったのは、二人でデートをしているところを誰かが見たらしい、とういうこと。

ありえない。句伊譁が私以外と遊ぶなんて。遊んだとしてもそのグループの中に、絶対に私がいないといけない。

今日の気分は最悪だ。ずっとムカムカが自分の中に蓄積していって、もう限界に達しそう。

「若葉?大丈夫?」

大丈夫じゃない。ムカつきすぎてヤバい。

でも、こんなこと言っても無駄だから、ごまかして笑う。引きつってないかな。

無駄に日当たりが良いな、と思考を無理やりずらす。

句伊譁は不思議そうな顔をして、問い詰めてきた。

「どうしたの?私なにかした?」

「ううん。句伊譁のせいじゃない」

こんな理不尽な怒りで句伊譁に当たるのは違う。そうわかっているから、どうしようもない。ていうか、どう言い出せばいいのかわからない。

「もしかして、噂のせい?」

「っ!」

そう!って言い出しそうになって、慌てて口を閉じる。

「そうだったら、嬉しいなあ。若葉が嫉妬してくれるなんて嬉しすぎて死ねるよ」

「嫉妬、してるよ」

「え?」

句伊譁がぽかんとしている。

これ以上は止めようとしたけど、ムカムカが一気に吐き出されていく。

「嫉妬してるよ!いっつも句伊譁ばっかり、好き好き言うけど!私もちゃんと大好きなの!私の気持ちも少しぐらい聞いたらどうなの!?いっつも、自分だけ言って、諦めたような顔ばっかして!!そういう、最初から諦めてるところ、大っ嫌い!!」

「え?は?んぇ?」

「あ”〜〜〜〜〜!!!!ムカつく!なんなのみんな!句伊譁!由良くんのことばっか!句伊譁は私のなの!ふざけないで!」

ドバっと吐き出してからわかった。私、まずいこと言ってるよね。うん、言った気がする。

句伊譁は驚きが隠せないようで、ずっと、え?しか言ってない。壊れた。

こんな形で自分の気持を伝えると思わなかった。

でも、私の中の好きが恋というものなのかは、未だに分からない。

「え?昔の若葉みたいにわがままになってるのは可愛いけど、本当にどうしたの?」

小学生の頃の私は相当わがままだった。だから、句伊譁にはいっぱい迷惑かけてる。それでも一緒にいてくれるから、本当に句伊譁は優しい。

「あ〜・・・気持ちがこぼれちゃったみたいな?」

「あ、うん。大嫌い宣言に大好き宣言、どっちを信じればいい?」

「・・・・・大好き宣言・・・・」

恥ずかしい・・・。こんなことを豪語すると思わなかった。というか、そんな意味のわからない宣言してたの私・・・。

「んふふふ、嬉しい」

句伊譁はふわりと微笑んだ。その顔を見て、句伊譁も色気がついたんだなって、場違いなことを思った。

よし、聞こう。私の気持ちを伝えには、今のタイミングがないような気がする。

決意を決めて句伊譁の顔をちゃんと見る。息を吸って、質問する。

「ねえ、句伊譁、私のこと好き?・・・・・・・・恋愛的な意味で」

私の質問にビシッと、句伊譁は固まって、絶望的な顔をした。

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