第39話

 見てくれは悪く汚れているとさえ思った。けれど、その俗悪で粗雑な風態が欲情を誘い息を呑む。酔いもあってか、段々と激しくなる鼓動に、僕は気が狂いそうだった。



「遊んできなよ。ね、いいじゃない」



 女は僕の腰に手を伸ばし、ゆっくりと歩調を強いて路地を外れると、今にも崩れそうな建物の地下へ階段を伝って下りていく。途中、帷が落ちたような闇の中で光る妖艶なライトが僕の中にある獣を起こし、ひたすらに貪る事を欲した。自分がどこにいるのかさえ定かではなかったが、誘導されるままに歩く事に抵抗はなかった。求るは、淫欲の喜び……




 地の底へ降り切ると、痩せた男が立っていて金を払えと述べた。提示された金額を払い別室に案内されしばらく待つ。すると、先にいた女とは別の、酷く肥えた女が布一枚を巻いてやってきたのだった。




「よろしくお願いします」




 僕は辿々しく頭を下げる女に抱きつき、口を塞いだ。肌は冷たく、呼気からは薬品のような臭いがした。



「乱暴ね」



 女は戯れるように笑うと、今度は自分から僕に覆い被さり重なって、二人して打ち上げられた魚のようになった。生きているのに意識だけが現実から乖離してき、徐々に自我が失われていった。

 上に乗る巨体が汗を滴らせながら動く度にぶるぶると波打つ。それでいて、女は品のない顔を溶かしこちらを見ていた。目を背けたくなる、悍ましい光景ではあったが、僕は何故だかその醜悪さが美しく、また愛おしいと感じ、程なくして女に捧げたのだった。一瞬の静寂の後、女の身体が僕を覆って、舌の自由を奪われた。絡み合い密になると、女な肌が熱くなっているのが分かった。互いの汗が混じり合う中で自分自身の冷え切った身体を感じる。僕は死体のように、冷たく、痩せていた。

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