第33話

 建物に入るとスーツをきた男から「いらっしゃい」と低い声でもてなされ、厚いベールで隔離された部屋に押し込まれた(木内は別の部屋に連れていかれ一人となった)。その間に爪を見られたり質問や注文を受けたがはっきりとは記憶していない。ただ最後に、「女の子が嫌がる事はご遠慮願います」とだけ言われた。


 具体的に何をしてはいけないのか明言されずしばし悩んだが、裏に「何をしてもいい」という意味が込められていた事を後に聞く。そんな符丁など知る由もない僕は真面目に悩み、何が是で何が非であるか考えるのだったが、小量とはいえ酒が入っていてはまとまる分けもなく、次第に恐怖が湧き出て、帰ろうかと弱腰となった。



「お待たせいたしました。



 先の男に呼ばれたのはその矢先である。ベールを潜ると、その先には女が一人。薄い布の服を着て立っている。



「はじめまして。こちらへどうぞ」



 男から女に渡されると、僕は手で引かれて二階へ上がり、小さな部屋に入れられた。女の手指は小さく、薄く、暖かく、柔らかく、優しく、自分で手首を握るのとはまったく異なる感触が感じられ、鼓動が早くなる。



「緊張しているのかしら」



 部屋に入り床へ腰掛けると、僕の動揺を察したであろう女が、実に女らしい声で囁き、言葉なく頷くと控えめに笑い「かわいいわ」と頭を撫でた。



「はじめてなんだ」



 僕はようやく唇を震わせてそう述べた。それは無論、女性と肌を重ねた経験がないという意味であったが、女の方がとぼけた風に「こういう場所に」と訊ねると、また声を失った。




「意地悪しちゃったかしら。ごめんなさいね。あんまりかわいいものだから」




 女は再度僕を撫で、直後に唇で唇に蓋をした。熱い吐息が喉を通り、頭にひびが入るような、強烈な肉への欲望が走った。



「かわいいわ」



 女は僕を抱きしめ、僕も女を抱きしめる。それからは……

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