第21話

 工場内には食堂があって、皆そこで、注文した仕出し弁当(朝、用紙に記入するそうだが、僕には報されていなかった)か、各々持ち寄ったものを食べている様子だった。だが、木内は「駄目だよあそこは」と拒み、工場裏の茂みへと僕を案内したのだった。


「まぁ座んなさいよ」


 木内が促したのは控えめに積み上がったブロックだった。ブロックはその辺りに幾つかあって、いつからあるのか知らないが大分傷んでいる。誰が何のために用意したのか分からなかったが、少なくとも木内が拵えたものではないだろう。

 にも関わらずまるで我が物のように座れとすすめるというのは太々しく図太い性格である。しかし、そんなつまらない事を言っても得をするわけではないため、僕は言われた通りに腰をかけたのだった。冷たく硬いブロックはちょうどいい塩梅に膝がくるように調整されていた。居心地はよくなかったが、悪くはない。僕は購買で買った安いパンを取り出し、一口齧る。



「そんなんじゃ力入らないだろう」



 嘲ながら弁当を広げると木内は勢いよく白米をかき込んでいく。木内が座るブロックは少し低くなっていたが、寸胴の体躯には収まりが良いように見えた。



「金かい。どうにもみっともないねお前さんは。男がそんなんじゃ成り立たんだろうよ」



 そう言う木内の弁当は正規作業者から買った仕出し弁当だった。弁当の値段には差があり、正規作業者は三百五十円だったが、僕らは五百円だった。木内はその弁当を賎陋せんろうな男から四百円で購入していた。あまり賢いようには思えないが、彼と弁当の売人にとっては大変有意義な取引きだったのだろう。



「もっと気持ちよく生きなよ。こんな時流なんだから」



 豪快に振る舞う木内であったがその影には卑しい臭いが漂っていて、僕は彼を好きになれなかった。

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