嗚呼…

 …また…フラれた。


 あと何回このつらさを経験すれば、本当の恋人に巡り会えるのだろう…。



 …銭湯で涙と共に悲しみも洗い流した筈…だったが、悲しみはオレの心に食い込んでしまっているようだ…。




 公園のベンチで頭を抱えていると…


 「若者よ…振られたな…?」


 …と声がした。


 目の前には、白髪はくはつ白髯はくぜんの神々しい御尊老がオレを見ていた。


 「か、神…ですか?」


 ご尊老は「…そう呼ぶ者も…おる…」



 神…が、何故オレの前に?




 「わしは、ひと目見ただけで、その者の心を読めるのだ」


 …! 


 『心を読める』ようになれば、女性がオレを好きかどうか…が瞬時に判る…じゃん!


 「神様! その『おちから』を是非、オレにも分けて下さい!」


 

 「良かろう」


 神が右のてのひらをオレに差し出し…


 「500円」…と言った。



 …500円でその力を頂けるなら安い買い物だ。


 ポケットから500円玉を出して、神に渡した。



 神は「毎度あり〜」…と言って、一冊の本をオレに渡して、走るように逃げて行った。




 表紙には『へそうの見方、考え方』


 著者は『へそう界の神・カツメ ジロウ』


 …誰?


 …『臍紋へそもん』は、『へ相』とも言われ、どれひとつとして、同じへそは無い。 極めれば、『へそう』を見るだけで、その為人ひととなりや、考えている事が判る…という。


 多分、神様は銭湯でオレの『へそう』を見て、フラれた事を見抜いたんだ!


 …まさしく『神降臨』!


 オレは毎日毎日『へそうぼん』の内容を、眼と頭に必死で叩き込んだ!



 そして! ついに! 『へそう』を見るだけで全てが判る、達人の域に達した!



 よし、オレを待ってくれている女性ひとを探して、レッツ、ギョォ〜ウ!




 2021年8月現在、オレに、彼女は…まだ居ない…


 テレビでは『緊急事態宣言』の地域が拡大された…というニュースが、繰り返し流されている。


 …銭湯で、男のへそしか見られねぇ世の中になっていたとは…。

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